表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の失敗、ふたり分 悠斗視点  作者: たい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/18

夜行バスのおねえさん

「もし途中で行きたくなったらどうしよう。」


その不安は、大人でも、子どもでも、突然大きくなることがあります。


特に、


* 夜行バス

* 渋滞

* 長距離移動

* すぐにトイレへ行けない場所


では、“大丈夫かな”という気持ちが頭から離れなくなることもあります。


今回のお話は、『安心できる場所』シリーズを、悠斗くん側の視点から描いた第1話です。


夜行バスで偶然出会った奈々と美咲。


最初の悠斗くんは、


「こんな不安を気にしてるの、自分だけかも」


と思っていました。


でも、


“安心できる準備をすること”


を、二人も自然に受け入れていると知って、少しずつ気持ちが変わっていきます。


このシリーズでは、“失敗”そのものより、


「安心できること」

「分かってくれる人がいること」


を大切に描いています。


悠斗くんにとって、この夜行バスの出来事が、奈々と美咲との“最初の出会い”でした。


少し不安で、少し恥ずかしくて、

でもどこか安心できる夜の空気を、感じてもらえたら嬉しいです。

春休みの終わり。


夜のバスターミナルは、人が多かった。


旅行帰りの人。

スーツ姿の大人。

眠そうな大学生。


いろんな人が並んでいて、少し騒がしい。


悠斗は大きめのリュックを抱えながら、案内表示を見上げていた。


今日は一人で夜行バスへ乗る日だった。


おばあちゃんの家から帰る途中。


「五年生ならもう大丈夫だな」


と、お父さんは笑っていた。


悠斗も「平気」と答えた。


でも、本当は少し不安だった。


長距離移動は昔から苦手だったから。



数年前。


高速道路でひどい渋滞に巻き込まれたことがある。


その時、トイレへ行きたくなって、本気で焦った。


サービスエリアまで全然着かなくて、車も動かなくて。


「まだ?」

「あとどれくらい?」


何回も聞いてしまった。


結局、その時は間に合わなかった。


その記憶は、今でも少し残っている。


だから悠斗は、長距離移動の時だけは“安心できる準備”をするようになっていた。


夜行バス。

渋滞。

長時間移動。


そういう日は、“念のため”を持っていく。


今日も家を出る前、自分の部屋で何回も確認した。


ゲーム。

イヤホン。

お菓子。

充電器。


そして、“安心できる準備”。


「……よし。」


それがあるだけで、少し落ち着ける。


悠斗は小さく息を吐いて、バスへ乗り込んだ。



車内は薄暗かった。


通路を歩きながら自分の席を探す。


その時。


近くから、楽しそうな声が聞こえた。


「ライブ楽しみすぎる!」


「まだ始まってもないのに。」


高校生くらいのお姉さん二人。


一人は明るくてよく笑う子。


もう一人は少し落ち着いた雰囲気だった。


二人ともすごく楽しそうで、悠斗はなんとなく気になった。



バスが発車する。


窓の外には、夜の道路の灯りが流れていた。


最初は少し騒がしかった車内も、時間が経つにつれて静かになっていく。


周りの人たちも、少しずつ眠り始めていた。


悠斗もブランケットを引き上げながら、小さく息を吐く。


(……大丈夫。)


ちゃんと準備してきている。


それだけで、少し安心できた。


その時だった。


前の席から、小さな声が聞こえた。


「……今日も持ってきてるの?」


悠斗は少しだけ耳を向ける。


「……なにを。」


「紙おむつ。」


悠斗は一瞬固まった。


(え。)


思わず前を見る。


さっきのお姉さんたちだった。


明るいほうの子が慌てて言う。


「あ、変な意味じゃなくて!」


すると、落ち着いた雰囲気のお姉さんが少し恥ずかしそうに頷いた。


「……持ってきてる。」


悠斗はびっくりした。


同じだったから。


高校生でも、不安になるんだ。


悠斗はずっと、“こんなの自分だけかも”と思っていた。


だから、その会話が妙に頭へ残った。



しばらくして。


バスはサービスエリアへ到着した。


悠斗も眠そうなままトイレへ向かう。


夜の空気は少し冷たい。


自販機の灯りだけが明るかった。


トイレから戻る途中。


偶然、さっきのお姉さんたちの声が聞こえる。


「……ねえ、美咲。」


「ん?」


「もし不安だったら、その……。」


かなり小さい声だった。


「私も使ってみたいかも。」


悠斗は思わず足を止めそうになる。


でも、お姉さんたちは気づいていない。


落ち着いたほうのお姉さん――美咲がバッグを開ける。


「……一枚ならあるよ。」


「いいの?」


「うん。安心できるなら。」


その言葉を聞いた瞬間。


悠斗は少し不思議な気持ちになった。


恥ずかしいことなのに。


でも二人は、“変なこと”みたいには話していなかった。


“安心するため”。


ただ、それだけみたいだった。



バスがまた走り始める。


車内はさらに静かになっていた。


窓の外には真っ暗な高速道路。


エンジン音だけが低く響いている。


悠斗もそのまま眠ってしまった。



どれくらい寝ていただろう。


ふと目が覚める。


「……っ。」


嫌な感覚だった。


強い尿意。


悠斗はぼんやりした頭のまま前のモニターを見る。


【次の休憩まで 1時間02分】


「……うそ。」


小さく呟く。


かなり遠い。


しかも車内は真っ暗で静かだった。


周りはみんな寝ている。


悠斗はブランケットをぎゅっと握る。


でも。


(……大丈夫。)


今日はちゃんと準備してきている。


だから前みたいなパニックにはならなかった。


その時。


前の席からも、小さな声が聞こえる。


「……やばい。」


「私も。」


悠斗は少しだけ前を見る。


さっきのお姉さんたちだった。


明るいほうのお姉さん――奈々が、かなり困った顔をしている。


「あと1時間!?」


「うん……。」


でも、不思議だった。


二人とも焦ってはいるけど、前みたいに“終わり”って感じではない。


その空気が、悠斗には少し不思議だった。



奈々が小さく息を吐く。


「……使う。」


「うん。」


静かな返事。


そのあと。


ブランケットの中で、小さな音がした。


じゅっ……。


悠斗の顔が熱くなる。


でも、不思議と嫌な感じじゃなかった。


「……はぁ。」


奈々の息は、“間に合わなかった”というより、“助かった”みたいだった。


そのあと、美咲も小さく息を吐く。


じゅわっ……。


静かな車内。


小さな音。


でもその空気は、思っていたより怖くなかった。


奈々が小さく吹き出す。


「美咲もじゃん。」


「うるさい……。」


二人は小さく笑っていた。


その声を聞きながら、悠斗は思う。


(……ぼくだけじゃない。)


それだけで、不思議と気持ちが軽くなった。



悠斗もかなり限界だった。


バスが少し揺れる。


その瞬間。


ぴくっ、と肩が震える。


「……っ。」


でも。


(……大丈夫。)


悠斗はそっと身体の力を抜いた。


じゅわっ……。


温かさが広がる。


張っていた感覚が、少しずつ消えていく。


「……はぁ。」


小さく息が漏れた。


恥ずかしい。


でも、それ以上に安心感のほうが大きかった。



しばらくして。


車内アナウンスが静かに流れる。


『まもなくサービスエリアへ到着いたします』


悠斗は小さく息を吐いた。


「……助かった。」


前のお姉さんたちも、小さく笑っている。


「なんか変な感じ……。」


「でも、とりあえず大丈夫。」


その言葉を聞きながら、悠斗は思った。


“安心できる”って、こういうことなのかもしれない。


一人で我慢するより。


“分かってくれる人がいる”。


それだけで、こんなに違うんだ。



サービスエリアへ到着すると、車内が少し明るくなる。


悠斗はブランケットを直しながら立ち上がった。


その時。


前のお姉さんたちと少しだけ目が合う。


奈々が、小さく笑った。


「大丈夫だった?」


悠斗は一瞬びっくりする。


でも次の瞬間、小さく頷いた。


「……うん。」


美咲も優しく笑った。


それだけだった。


特別なことは何も言わない。


でも悠斗は、不思議と安心していた。


夜のサービスエリアの灯りが、窓の外で静かに光っていた。

悠斗視点の第1話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、“最初の出会い”を悠斗くん側から描くことを意識して書きました。


本編では、美咲や奈々が中心でしたが、悠斗くん側から見ると、


* 高校生のお姉さんたちも不安を抱えていたこと

* 「安心するための準備」を自然に話していたこと

* “恥ずかしい”だけじゃない空気だったこと


が、かなり印象的な出来事になっています。


特に悠斗くんは、この時まだ、


「絶対バレたくない」

「自分だけかもしれない」


という気持ちが強い状態でした。


だからこそ、


“自分と同じように不安を感じている人がいる”


と知った瞬間が、かなり大きな出来事になっています。


また今回は、


奈々と美咲が“使った”場面を、悠斗くんが静かに感じ取る形で描きました。


本編側では“二人の安心感”として描かれていたシーンですが、悠斗くん側から見ると、


「怖いものじゃなかった」

「“助かった”って感じだった」


という発見にもなっています。


この夜行バスでの出来事があったからこそ、後の、


* 遊園地

* スキー場

* 温泉旅行

* プール旅行


へと、三人の関係が少しずつつながっていきます。


最初はただの偶然。


でもこの時すでに、“安心できる場所”の始まりが、少しだけ生まれていたのかもしれません。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ