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夏の失敗、ふたり分 悠斗視点  作者: たい


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16/18

夏祭りの帰り道

夏祭りって、楽しいです。


屋台。

花火。

人混み。

夜の空気。


特別な時間だからこそ、ついはしゃいでしまいます。


でもその分、


* 飲み物が増える

* 人が多くて動けない

* トイレへ行きづらい

* 帰り道が混雑する


など、“不安になりやすい条件”もかなり多い場所です。


第16話では、そんな夏祭りを舞台にしました。


今回は、三人がかなり自然に


「安心して楽しむ」


ことを選べるようになっている回でもあります。


特に悠斗くんは、最初の頃よりかなり落ち着いていて、


“安心できる準備をすること”


を、自分でちゃんと選べるようになっています。


夏の夜の少し特別な空気を、楽しんでもらえたら嬉しいです。

八月。


夕方。


駅前には、浴衣姿の人がたくさん歩いていた。


提灯の灯り。


屋台の匂い。


遠くから聞こえる祭り囃子。


奈々は人混みを見ながら笑う。


「夏って感じ。」


「すごい人だね。」


美咲は小さく苦笑いした。


その時。


「あっ!」


聞き慣れた声。


悠斗が手を振りながら走ってくる。


今日は紺色のTシャツに白い短パン姿だった。


奈々はそれを見て吹き出す。


「白なんだ。」


悠斗は一瞬止まる。


それから顔を赤くした。


「ち、違っ……これ普通の!」


美咲が笑う。


「誰も変な意味で言ってないよ。」


悠斗はさらに恥ずかしそうになる。


「もう……。」


三人は顔を見合わせて笑った。



今日は地元の大きな夏祭りだった。


花火大会もあるらしく、かなり人が多い。


屋台通りを歩くだけでも大変だった。


奈々はテンションが高い。


「あっ、りんご飴!」


「焼きそばもある。」


悠斗も目を輝かせている。


「かき氷食べたい!」


三人は屋台を回りながら、少しずつ食べ歩きをしていく。


ラムネ。


かき氷。


ジュース。


冷たいものばかりだった。


その途中。


奈々が小さく悠斗を見る。


「……今日も安心優先?」


悠斗は少し照れながら頷く。


「うん。」


最近ではもう、それがかなり自然になっていた。


今日は人も多い。


トイレも混む。


花火が始まれば、さらに動けなくなる。


だから悠斗も、最初からちゃんと準備してきていた。


白ブリーフ。


その上に、いつもの安心。


最近の悠斗にとって、それは“特別”じゃなくなってきていた。



神社の境内へ入る。


屋台の灯りが並び、人の声でかなり賑やかだった。


奈々は射的を見つけて笑う。


「やりたい!」


結果は散々だった。


奈々が一個も倒せず、美咲に笑われる。


悠斗は小さいお菓子を一つだけ取れて、少し得意そうだった。


そのあと。


三人は石段へ座りながら休憩していた。


夜風は少し涼しい。


でも、人混みの熱気でかなり蒸し暑かった。


悠斗はラムネを飲みながら息を吐く。


「なんか今日めっちゃ飲んでる……。」


奈々は苦笑いする。


「私も。」


美咲も静かに頷いた。


祭りって、歩く。


暑い。


飲む。


さらにトイレが混む。


かなり危険な条件が揃っていた。



その時。


遠くで花火の音が鳴る。


どんっ――。


歓声が上がる。


奈々が立ち上がる。


「始まった!」


三人は川沿いへ移動した。


でも。


すでに人でいっぱいだった。


立ち止まるだけでも大変。


奈々は周りを見ながら苦笑いする。


「……これ終わるまで動けなくない?」


「たぶん。」


美咲も少し困った顔になる。


悠斗も小さく呟いた。


「やばいかも。」


その声で、奈々と美咲が同時に見る。


悠斗は少し照れながら笑った。


「さっきラムネ飲みすぎた……。」


奈々は吹き出した。


「完全にフラグ。」


でも実際、かなり近そうだった。


しかも花火はまだ始まったばかり。


人も動かない。


トイレへ行ける空気ではなかった。



夜空へ大きな花火が開く。


赤。


青。


金色。


周りから歓声が上がる。


でもその数分後。


奈々が小さく肩を震わせた。


「……っ。」


美咲がすぐ気づく。


「奈々?」


奈々は苦笑いする。


「冷たいの飲みすぎた……。」


悠斗が吹き出しそうになる。


「奈々ちゃんもじゃん。」


「うるさい。」


三人は小さく笑う。


でも、誰もそこまで焦ってはいなかった。


今日は三人とも最初から“安心優先”。


“もしもの時も大丈夫”。


その安心感がある。



花火の音が響く。


どん、どんっ――。


人混みのざわめき。


夏の夜風。


その中で、奈々は小さく息を吐いた。


「……使う。」


そう呟いて、少しだけ身体の力を抜く。


じゅわっ……。


温かさがゆっくり広がる。


奈々はほっとしたように肩を落とした。


「……はぁ。」


その表情は、“恥ずかしい”より“助かった”に近かった。


悠斗は少し顔を赤くしながら笑う。


「見てたら余計近くなる……。」


奈々は吹き出した。


「また連鎖?」


その数秒後。


ぴくっ。


悠斗の肩も小さく震える。


「あっ……。」


じゅわぁ……。


白ブリーフの内側へ広がる温かさ。


ちゃんと準備してきた安心感。


悠斗は小さく息を吐いた。


「……助かった。」


花火の音が大きいから、自分たちにしか分からない。


それが少し安心だった。


美咲は二人を見ながら苦笑いする。


「ほんと最近多いね。」


でも次の瞬間。


ぴくっ。


今度は美咲自身も肩を震わせた。


奈々が笑う。


「美咲もじゃん。」


美咲は少し照れながら頷く。


「……今日は無理しない。」


そのまま、そっと力を抜く。


じゅわっ……。


張っていた感覚がゆっくりほどけていく。


数秒後。


三人は顔を見合わせる。


そして同時に吹き出した。


「結局また全員!」



花火大会が終わる頃。


人の流れが少しずつ動き始める。


奈々は大きく伸びをした。


「めっちゃ綺麗だった。」


「うん。」


悠斗も嬉しそうに頷く。


その顔は、かなり満足そうだった。


最初の頃だったら、


“途中で不安になること”


ばかり気にしていたかもしれない。


でも今は違う。


ちゃんと安心できる。


そして、一緒に笑ってくれる人がいる。


それだけで、祭りの楽しさはかなり変わっていた。


駅へ向かう夜道。


提灯の灯りが少しずつ遠ざかっていく。


悠斗は眠そうにあくびをした。


「今日めっちゃ楽しかった。」


奈々は笑う。


「夏休みって感じだったね。」


美咲も静かに頷いた。


夏の夜風はまだ少し暖かい。


でも三人の間には、それ以上に安心できる空気が流れていた。

第16話「夏祭りの帰り道」を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、


“楽しい場所だからこそ不安もある”


というテーマを意識して書きました。


夏祭りや花火大会は、


* 長時間外にいる

* 飲み物をたくさん飲む

* 人混みで動けない


など、このシリーズではかなり“危険な条件”がそろっています。


でも今回の三人は、以前ほど強い不安を感じていません。


それは、


* 「安心優先」が自然になっていること

* 無理して我慢しなくなったこと

* 一緒にいられる安心感があること


が大きいからです。


特に今回の悠斗くんは、


“白い短パン”に少し反応してしまったり、


ラムネを飲みすぎたり、


まだ少し子どもっぽい部分もあります。


でも同時に、


「今日はちゃんと大丈夫」


と思える準備を、自分で選べるようになっています。


そこが、最初の頃との大きな変化でした。


また今回は、


“花火を見ながら三人で笑い合う”


という空気をかなり大事にしました。


以前なら、


「バレたらどうしよう」


のほうが強かった三人。


でも今は、


“安心して楽しめる”


ことのほうが大きくなっています。


夏祭りの帰り道。


少し疲れていて、

少し眠くて、

でも安心できる。


そんな三人の夏の思い出を感じてもらえていたら嬉しいです。

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