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夏の失敗、ふたり分 悠斗視点  作者: たい


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15/18

夏のはじまりと自販機の前

夏が近づくと、


少しずつ空気も変わっていきます。


暑さ。

汗。

冷たい飲み物。

長い外出。


楽しいことが増える季節だけど、その分、


「大丈夫かな」


と不安になる場面も増えていきます。


第15話では、そんな“夏の始まり”をテーマにしました。


今回は大きな事件が起きるわけではありません。


でも、


* 自然に準備すること

* 無理をしないこと

* 「安心できる」が当たり前になっていること


そんな、三人の小さな変化を描いています。


そして悠斗くんも、少しずつ“自分で安心を選べる”ようになってきています。


何気ない夏の一日を、ゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいです。

七月。


学校帰り。


空気はかなり蒸し暑かった。


奈々は駅前へ着いた瞬間、大きく伸びをする。


「あっつ……。」


「まだ七月入ったばっかだけどね。」


美咲は苦笑いした。


セミの声。


強い日差し。


アスファルトから返ってくる熱。


完全に夏の空気だった。


その時。


『先ついた!』


悠斗からLINEが来る。


数分後、自販機の前で手を振っている姿が見えた。


「あ、おねえちゃんたち!」


今日は白いTシャツに半ズボン姿。


でも、前より少しだけ背が伸びて見える。


奈々は笑った。


「また先に来てる。」


「今日はちゃんと余裕持った!」


悠斗は少し得意そうだった。



三人はコンビニへ入り、冷たい飲み物を買う。


奈々は大きいアイスココア。


悠斗はスポーツドリンク。


美咲は麦茶だった。


その瞬間。


奈々が悠斗を見る。


「それ危ないやつじゃない?」


悠斗は一瞬止まる。


それから真顔で言った。


「だから今日は最初から安心優先。」


奈々は吹き出した。


「完全に口ぐせ。」


悠斗は少し照れながら笑う。


「だって夏って危ないし……。」


暑い日は飲み物も増える。


汗もかく。


でも、そのあと冷房へ入ると急に感覚が変わったりする。


悠斗も最近、それをかなり理解し始めていた。


そして今日は、家を出る前からちゃんと“安心できる準備”をしてきていた。


白ブリーフ。


その上に、いつもの“安心”。


さらに動きやすい半ズボン。


最近の悠斗にとって、それはかなり自然な組み合わせになっていた。



そのあと三人は、駅前のショッピングモールを歩いていた。


冷房の効いた館内はかなり快適だった。


奈々はほっとしたように息を吐く。


「生き返る……。」


「外暑すぎた。」


悠斗も頷く。


でも次の瞬間。


ぴくっ。


小さく肩が震える。


奈々はすぐ気づく。


「……もう?」


悠斗は顔をしかめた。


「冷房入るとちょっと近くなる……。」


美咲は苦笑いする。


「分かる。」


外でたくさん飲んで、

暑くて、

急に冷える。


かなり危険な流れだった。


でも。


前みたいな焦った空気はない。


奈々も今日は、最初から準備していた。


最近はもう、


「今日は長そう」

「暑い」

「飲み物多そう」


と思った日は、自然に“安心優先”を選んでいる。


美咲はもちろん最初からかなり慎重だった。


三人とも、“不安になる前に安心しておく”ことが当たり前になってきていた。


悠斗も小さく笑う。


「今日はちゃんと大丈夫だから。」


その声は、かなり自然だった。



ゲームセンター。


本屋。


雑貨屋。


三人はゆっくり店を回っていく。


途中、奈々が帽子を試着して笑ったり。


悠斗が変なキーホルダーを見つけたり。


そんな、普通の夏休み前みたいな時間。


でも一時間ほど経った頃。


奈々が小さく姿勢を変えた。


「……っ。」


美咲がすぐ見る。


「奈々?」


奈々は苦笑いした。


「ココア失敗した。」


悠斗が吹き出す。


「毎回言ってる。」


「だって冷たいの飲みたかったんだもん!」


三人は笑う。


でも、実際かなり近かった。


悠斗も少し落ち着かない様子で歩いている。


「ぼくもちょっとやばい。」


「結局全員じゃん。」


奈々が笑った。



夕方。


外へ出ると、空は少しオレンジ色になっていた。


昼間よりは涼しい。


でも歩き疲れたせいか、三人とも少しぼんやりしている。


駅前のベンチへ座った瞬間。


奈々が大きく息を吐いた。


「疲れたぁ……。」


悠斗も隣へ座る。


「ぼくも。」


その時。


駅前のアナウンスが流れる。


『人身事故の影響で、電車に遅れが出ています』


三人が同時に止まる。


数秒沈黙。


奈々が小さく言った。


「……あ、これ危ないやつ。」


悠斗も真顔で頷いた。


「長くなるやつ。」


でも、不思議と誰もパニックにはならない。


奈々は少し笑う。


「まあ、今日は安心優先だし。」


悠斗も頷いた。


「うん。」


その空気が、前とはかなり違っていた。



電車を待つ間。


三人はホームのベンチへ座っていた。


夕方のホームは少し蒸し暑い。


奈々は小さく息を吐く。


「……もう限界近い。」


美咲も苦笑いする。


「私も。」


悠斗は少し照れながら笑った。


「ぼくもたぶん。」


でも。


三人とも無理して我慢しようとはしていなかった。


“安心して帰れる”。


それを優先できるようになっている。


奈々は小さく肩の力を抜いた。


じゅわっ……。


温かさがゆっくり広がる。


「……はぁ。」


その表情は、ほっとした安心感に近かった。


悠斗は少し顔を赤くしながら笑う。


「見てたら余計……。」


奈々は吹き出した。


「また連鎖?」


その数秒後。


悠斗も小さく肩を震わせる。


「あっ……。」


じゅわぁ……。


小さく息を吐く。


「……助かった。」


白いブリーフの内側へ広がる安心感。


その上にある“いつもの安心”が、ちゃんと受け止めてくれている。


だから悠斗も、前みたいに強く焦ってはいなかった。


美咲は二人を見ながら苦笑いした。


「ほんと連鎖するね。」


でもその直後。


ぴくっ。


美咲自身も小さく肩を震わせる。


奈々が笑う。


「美咲もじゃん。」


美咲は少し照れながら笑った。


「今日は暑かったから……。」


そのまま、そっと力を抜く。


じゅわっ……。


張っていた感覚がゆっくりほどけていく。


数秒後。


三人は顔を見合わせる。


そして、同時に吹き出した。


「結局また全員!」


ホームへ電車が入ってくる音が聞こえる。


夕焼けの光。


少し暑い夏の風。


その中で三人は、小さく笑い合っていた。

第15話「夏のはじまりと自販機の前」を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、“特別な出来事がなくても安心できる関係”をテーマに書いた回でした。


これまでの三人は、


* 夜行バス

* 温泉旅行

* プール

* 雪の日


など、“不安になりやすい場所”をたくさん経験してきました。


その中で少しずつ、


「安心優先」


という考え方が自然になっています。


今回の話では、


* 飲み物を選ぶ時

* 電車の遅延

* 夏の暑さ


など、小さな場面でもその変化が出るように描きました。


特に悠斗くんが、


「今日はちゃんと大丈夫だから」


と自然に言えるようになっているのは、かなり大きな成長だと思っています。


最初の頃は、


「失敗しないこと」


ばかりを考えていた三人。


でも今は、


「安心して過ごせること」


を優先できるようになっています。


それは、“弱さ”ではなく、


“自分を安心させる方法を知った”


という成長でした。


また今回は、


“特別な旅行”ではなく、


駅前やショッピングモールという、普通の日常を舞台にしました。


だからこそ、


三人にとって“安心できる場所”が、


特別な場所ではなく、


「一緒にいる時間そのもの」


になっていることを感じてもらえたら嬉しいです。

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