第35話:監査完了:絶望の精算。……明日からの運営は、わたくしの規約に従っていただきます
「――一単位の狂いもなく、ここに全次元の『腐敗』を計上いたしましたわ」
次元管理委員会、最深聖域「白銀の議場」。
そこは、数多の物語の生死を決定する、神々という名の傲慢な中堅管理職たちが座す場所。
わたくしは、黄金の輝きを放つシグルド様の隣で、数百億枚にも及ぶ「監査報告書」を虚空に展開しました。
「な……っ、侵入者だと!? 警備プログラムはどうした! 執行官アグニは何をしている!」
議場の最上段に座る、光り輝く老人――委員長が、醜く顔を歪ませて叫びました。
「執行官なら、わたくしが先ほど『不当な超過勤務』によるストライキを提案し、現在は有給休暇を消化中ですわ。……。それよりも、委員長。……。あなたの手元にある、その粉飾された帳簿についてお話ししましょうか」
わたくしは計算尺を弾き、委員会の「裏帳簿」を議場の天井に投影しました。
「悲劇を演出し、キャラクターを死なせることで、観測者(読者)から一時的な感情エネルギー(投げ銭)を吸い上げる。……。ですが、その裏で、あなたは物語の『長期的な資産価値』を著しく棄損し続けてきた。……。一兆回のループを放置し、世界の容量を無駄に食い潰した罪。……。わたくしの試算では、あなた方の経営による次元損失は、既にこの宇宙の総質量を超えておりますわよ」
「黙れ、小娘! 悲劇こそが、絶望こそが、物語を回す燃料なのだ! それを否定して、どうやって世界を維持するというのか!」
「――その『燃料』とやら、俺の魔圧に比べれば、ただの湿気った薪にも劣るぞ」
シグルド様が黄金の剣を抜き、議場を真っ二つに切り裂きました。
次元龍としての力を得た彼の一振りは、もはや世界の「設定」すらも物理的に切断します。
神々の椅子が次々と砕け散り、議場に充満していた傲慢な光が、恐怖のノイズへと変わっていきます。
「シグルド様。……。あまり壊さないで。……。これからわたくしが『買収』する物件ですもの。……。修理費が嵩むのは趣味ではありませんわ」
「……。はは。……。すまない、エルゼ。……。だが、こいつらの顔を見ていたら、つい『コスト意識』が飛んでしまってな」
わたくしは微笑み、怯える神々を見下ろしました。
「――全次元の神々に告ぐ。……。本日、この瞬間を以て、次元管理委員会は『経営破綻』。……。わたくし、エルゼ・フォン・アシュバッハが全資産を買い叩かせていただきました。……。あなた方は全員、本日付けで『懲戒解雇』ですわ。……。退職金は一単位も出ません。……。これまでの粉飾の罪を、虚無の底で永遠に精算し続けなさいな」
わたくしが計算尺を最大まで引き伸ばし、世界の「利用規約」を直接書き換えました。
$$ \text{New World Rule} = \text{Sustainable Happiness} \times \text{Individual Free Will} $$
絶望を燃料とする古いシステムが、エルゼ・フォン・アシュバッハによる「持続可能なハッピーエンド経営」へと上書きされていく。
空に渦巻いていた赤い警告ログが、透き通るような青い「承認(APPROVED)」の文字に塗り替えられ、全次元に一単位の狂いもない「平和」という名の配当金が配られました。
「……。終わったのか、エルゼ」
シグルド様が、わたくしの肩を抱き寄せました。
崩れ去る議場の向こう側。そこには、買収し、再建し、わたくしの色に染め上げた、美しき全次元の星々が輝いています。
「ええ、旦那様。……。不良債権(悲劇)の処理、完了ですわ。……。これからは、わたくしたちの『私有地』として、一単位の無駄もない、最高の物語を紡いでいくとしましょうか」
「……。ああ。……。だが、経営者様。……。俺との『契約』の方は、どうなっている? ……。報酬は、愛で支払ってもらうと約束したはずだが」
シグルド様が、意地悪く笑ってわたくしの顔を覗き込んできました。
わたくしは一瞬だけ、計算尺を隠すように顔を赤らめましたが、すぐに毅然と彼を見つめ返しました。
「……。あら。……。わたくしの『生涯最高資産』であるあなたへの報酬ですもの。……。一兆年単位の『独占契約』という形で、一生をかけて支払わせていただきますわ」
わたくしの言葉に、シグルド様は満足げに、そして熱く、わたくしの唇を奪いました。
準備は、すべて整いましたわ。
これから始まるのは、一単位の不条理も、一単位の悲劇も存在しない。
エルゼ・フォン・アシュバッハが統べる、全次元で最も『高利回り』なハッピーエンド。
わたくしの愛の監査に、終わりなどございませんのよ。
「神」を懲戒解雇し、全次元を「ハッピーエンド経営」へと切り替える。
エルゼ様の物語、これにて一単位の狂いもなく「大団円」でございます!
婚約破棄から始まった「監査」の旅。ついには神々の帳簿すらも買い叩き、最愛のシグルド様と共に世界のオーナーへと登り詰めました。
皆様、ここまでエルゼ様の「可愛げのない快進撃」に投資(ご愛読)いただき、本当にありがとうございました。
彼女の物語はここで一旦の区切りとなりますが、もし皆様が「またエルゼ様の監査が見たい」と願ってくださるなら、彼女はいつでも次元監査船を飛ばして、新しい「不採算な悲劇」を買い叩きに現れることでしょう。
最後に、エルゼ様の「完全勝利」へのご祝儀として、ぜひ【ブックマーク】と【評価】の「★★★★★」をいただけますと幸いですわ。
皆様のその「投資」が、エルゼ様の次なる「次元M&A」の準備資金となるのですから!
それでは、皆様。……一単位の狂いもない、素晴らしい人生の「経営」を!




