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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
第2章 帝国買収編:元婚約者は炭鉱送りでしたかしら? ――北方の女帝による無慈悲な再開発計画

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第18話:帝国再開発計画:ここは「わたくしのための」楽園になりますわ

かつて「白亜の牙」と謳われたバルトシュタイン帝国の玉座の間。

 歴代皇帝が大陸の半分を支配する命令を下してきたその神聖な場所は、いまや埃まみれの作業現場へと変貌していました。


 ガガガガッ……!


 重厚な石造りの壁が、北方の最新鋭魔導掘削機によって無慈悲に削られていきます。

 黄金の装飾が施された柱は次々と引き倒され、そこには複雑な銀の回路――魔力を効率的に伝導するための「マナ・パス」が、血管のように張り巡らされていきました。


「……リィン。玉座のあった位置の誤差、まだ数ミリ単位でズレていますわ。あそこは『アルカナ・コア』の接合部になる最重要地点。一単位の妥協も許しませんわよ」


「失礼いたしました、エルゼ様。ただちに修正させます」


 私は、手にした魔導端末に映し出される「帝都再開発三次元図面」を指先で操作しながら、瓦礫の山を優雅に歩いていました。

 私の足元、泥と埃にまみれた床には、かつての帝国の紋章が描かれた絨毯の無残な切れ端が転がっています。


「な……なんてことを……! アシュバッハ令嬢、貴女は悪魔か! ここは帝国五百年の歴史が詰まった場所なのだぞ!」


 瓦礫を運ぶ労働者の中に、かつての「典礼省」の長だった老貴族が混じっていました。

 彼は泥に汚れた手で、倒された柱に縋り付き、涙ながらに私を糾弾します。


「この玉座の間を潰して、あんな不気味な機械の塊にするというのか! 先帝陛下たちが草葉の陰で泣いておられるぞ!」


「あら。……典礼卿。お久しぶりですわね」


 私は、扇子を広げて埃を払い、彼を冷たく見下ろしました。


「歴史、ですか。……ふふ、その歴史とやらが、冬の帝都に温かいスープを一杯でも提供してくれましたかしら? ……この部屋を飾っていた黄金を売却し、この広大な空間を『魔力制御サーバー』に転用することで、帝都の乳児生存率は三割向上するという計算が出ておりますの。……あなたの言う『歴史』は、赤子の命よりも重いのかしら?」


「そ、それは……だが、伝統というものがあるだろう!」


「伝統とは、正しく機能して初めて価値を成すもの。……機能不全に陥り、民を飢えさせるだけの伝統など、ただの『産業廃棄物』ですわ。……わたくし、無駄な在庫を抱えるのは大嫌いなのです」


 私が指を鳴らすと、巨大なクレーンが玉座を吊り上げ、そのまま屋外の廃棄場へと運び出していきました。

 かつてエドワードが座り、私を見下ろしていたあの椅子は、いまや「質の悪い金床」として再利用されるのを待つだけの鉄屑です。


「……いい眺めだ、エルゼ」


 背後から、シグルド様が私の肩を抱きました。

 彼は新しく設置された青く輝くクリスタル・パネルを眺め、満足そうに頷きました。


「君がこの『古い檻』を壊し、新しい神経を通わせていく様子……。まるで、死んだ巨像が、君の手によって再び命を吹き込まれているようだ」


「あら、シグルド様。……わたくしはただ、ここを『わたくしのための楽園』に作り替えているだけですわ。……世界で最も計算が速く、最も魔力効率が良く、そして――」


 私はシグルド様を見上げ、いたずらっぽく微笑みました。


「――わたくしを『可愛げがない』と罵る不純物が、一人もいない場所へ」


「ふふ、それこそが最高に贅沢な設計思想だ。……エルゼ。君の望む通りにすればいい。……この帝都の地下には、君の知性を支えるための巨大な冷却プールを作る予定だったね?」


「ええ。……かつてマリアンヌ様が夜な夜な舞踏会を楽しんでいた地下ホール……あそこは、魔導計算機の熱を冷ますための『氷結水槽』に最適でしたわ。……無駄に広いだけの空間を、ようやく有意義に活用できます」


 私は、窓の外を眺めました。

 帝都全域で、古い建物が取り壊され、幾何学的な美しさを持つ北方の建築物が次々と建ち上がっています。

 

 それは、帝国の滅亡ではありません。

 エルゼ・フォン・アシュバッハという名の「OS」によって、この大陸そのものがアップデートされているのです。


「さて……次は、この中央管制室の起動テストですわ。……シグルド様。わたくしのスイッチ、押していただけるかしら?」


「喜んで。……君が世界を塗り替える、その最初の目撃者になれるのは、私の特権だ」


 シグルド様がメインパネルに触れた瞬間。

 旧宮殿全体に、青白い光の脈動が駆け巡りました。


 バルトシュタイン帝国、完全消滅。

 そして、北方の女神による「管理社会」の誕生。


 準備は、すべて整いましたわ。

 わたくしたちの楽園に、過去の亡霊が入り込む余地など、もう一ピクセルも残っておりませんのよ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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