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第34話

「キーファちゃんねる~」


 ぱああっ


 ドローンカメラから照明が当てられ、光の中で両手と尻尾を振るキーファ。

 うう~ん、太陽系一カワイイ。


「みんなおはよう、キーファだよ!」


 <おはようキーファたん!>

 <かわよ>

 <アクスタ買ったよ!>

 <土曜の朝活、整うぜ!>

 <キーファちゃんの光に浄化されそう!>


 キーファの可愛さをたたえる書き込みがコメント欄に溢れる。

 素晴らしい事である。


「……大屋ケントだ。

 今日もキーファのこと頼むぜ?」


 <パパきたーーーーー>

 <おい寝癖ついてんぞ>

 <計算だぞ>

 <うっ、流石パパあざとい>

 <ケント様~~~~!!>

 <……ドラおじも女性ファン増えたよな>

 <ニュースで見たけど、桜下総合探索学院で起きたダンジョンブレイク、ドラおじがダンジョンに閉じ込められた美人JCを助けたらしいぜ>

 <マジか! 息をするようにイケメンムーブするな……>

 <JCにも手を出したのか……通報する?>


「いや、すんなし!」


 相変わらず俺がしゃべると遊び始めるフォロワー共である。

 楓子とはあの後何もないぞ(あっても困るが)?

 ……まあ、彼女の実家から定期的にA5ランクの和牛がキロ単位で送られてきたりするのだが。


「ごはん、美味しいねぱぱ!」


 キーファも成長期に入ったのか、我が家のエンゲル係数は上昇しっぱなしである。


 <ていうか、今日は単独配信なのか>

 <カナが隣にいないのはちょっと寂しいな>


 そう。

 今日のカナは自社案件があるという事で、俺たちの単独配信だ。

 キーファが寂しがるので、今日の夜にはプライベートで遊びに来てくれることになっている。


 <今日の舞台は……”クリスタル・ラビリンス”?>

 <あれ? Cランクダンジョンじゃん>

 <ドラおじもついに学習したのか笑>

 <これ、すぐ終わっちゃうんじゃね?>


「くっくっく」


 ざわつくコメント欄。

 彼らの”浅さ”につい笑い声が漏れてしまう。


「聞いて驚くなよ?

 今日はなんと……企業案件だ!!」


 企業案件……読んで字のごとく、企業の宣伝を主目的にしたダンジョン攻略配信だ。

 探索用武器や防具を出しているメーカー、回復アイテムを販売している製薬会社などがメジャーなクライアントだ。

 当然、ある程度のフォロワーを持つ配信者じゃないと企業案件は来ない。


 <あ、やっぱり>

 <そらそうだよな~、フォロワー数130万のキーファちゃんねるにドラおじだもん>

 <遅すぎたくらいだよな>


「……あれ?」


 これで俺達も一流配信者の仲間入り!

 サプライズ的に発表したつもりだったが……コメント欄の反応は鈍い。


 <ドラおじの企業案件相手と言ったら……格闘系装備を作っている帝拳テクノスとか?>

 <もしくはキーファたんメインのもふもふクッション解説とか>

 <ありそうwwwww>

 <オレの予想は……結婚相談所! ドラおじに学ぶ無意識イケメンムーブ講座!>

 <ねーよwwwww>

 <いくらイケメンムーブしても親バカで相殺されるって笑>

 <カナには効いてたけどな>


 くそ、コメント欄がおかしな方に行っている。

 ここはビジュアルでコイツらの心を鷲掴みにするしかあるまい!


「オマエラ注目!

 今日のクライアントは……桜下ファッション&ビジュアルズだ!」


 この会社は桜下プロダクションの関連会社で、主に十代女子向けの冒険装備や、有名配信者とコラボしたアパレルなどを扱っている。


 ここから導き出される答えは一つ……!!


 ぱぱぱぱっ


 5機のドローンカメラから光が当てられる。

 煌めくカクテル光線の中から現れたのは……。


「ぶいぶいっ、キーファだぜ♪」


 丈の短いピンクのシャツにチェックのミニスカ、ルーズソックスに茶ローファー。


「みんな、ついてこいよ?」


 平成初期のJKファッションを模した、ビジュアル重視の冒険着。


 <おおおおおおっ!?>


 キーファがポーズをとるたび、ちらりと可愛いおへそが覗く。


 そう、今日の配信の目的は……キーファのファッションショー!!

 桜下ファッション&ビジュアルズが発売する新作冒険着やアパレルグッズの宣伝である!!


 <そ、そのためのクリスタル・ラビリンスか!>


「そうだ!!」


 察しの良いフォロワーに投げ銭しておく。

 クリスタル・ラビリンスの壁面は水晶で出来ており、カクテル光線に照らされたキーファの姿が、壁一面に映っている。


 左右どちらを向いてもキーファ……つまりパラダイスである!!


 <すげぇ……キーファたんかわいすぎ!!>

 <ギャルファッションのキーファちゃん……は、鼻血が>

 <アクスタ販売希望!!>


「もちろん! 桜下ファッション&ビジュアルズからこの配信後に発売だ!!」


 <うおおおおおおおおおっ!?>


「ぱぱ、つぎのお衣装に着替えるね!

 つぎは~~~」


「なーすさん!」


 ピンクのミニスカナース姿に着替えたキーファが、注射器を持ってポーズをとる。


「回復薬を、注射しちゃうぞ?」


 <うはああああああああああああっ!?>


 沸騰するコメント欄。

 ……なんか、衣装のラインナップが偏ってね?

 その後も、キーファのコスプレファッションショーが続くのだった。



 ***  ***


 ――――― 同時刻 緋城プロダクション所有配信バス内


「はぁ……楽しそうだなぁ」


 今日のコラボ相手が来るのを待つ間、カナはキーファちゃんねるの配信を見ていた。


 色んな冒険着を着るキーファは奇跡のように可愛くて、自分もキーファの隣でファッションショーをしているシーンを夢想する。


「に、似合わないかも」


 何しろ自分は表情が硬い。

 でもでも、ケントおにいちゃんを誘惑♡する大チャンスだったのに!


 今日のコラボ相手は同じプロダクションに所属する女性探索者。

 新しく発見されたB+ダンジョンに潜り、内部調査をすることになっている。


 がちゃっ!


 ノックも無しに、控室の扉が開いた。

 立っていたのは少々化粧が濃い、30代前半の女性。


「最近チヤホヤされて調子に乗っているようだけど……緋城カナ、今日は負けないわ!」


「は、はい……?」


 いきなり煽られてしまった。

 困惑するカナ。


 彼女は探索歴10年以上でBランクの探索者だが、どうしてもブレイクする事ができなかったらしくフォロワーは2万人ほど。

 最近は契約終了が噂されているらしい。


「は、初めましてですね?」


 プロダクションの名簿で見たことがあるだけで、話したことは一度もない。


「……ちっ!

 オーナーの七光りのガキがっ!」


「…………」


 女性はそのまま控室を出て行ってしまった。

 何故初対面で、ここまでの敵意を向けられなくてはいけないのだろう。


「……そういえば、今日は生配信はないんだっけ?」


 レニィの話では、調査を優先するため、後日アーカイブ配信となるらしい。


「ううっ、ヤル気でないけど……。

 義父の意向なら、やるしかありませんね」


 クールなJK配信者、緋城カナの仮面を被ったカナは、鈍る足に気合を入れながらダンジョンに向かうのだった。



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書籍版1巻の立ち読みができるようになっています! エモエモなケントとキーファの挿絵も見れますのでぜひっ!
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