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第33話

「閉鎖された実習ダンジョンを点検しろって……なんでわたしが?

 あーもう、今日はケントおにいちゃんの家で打ち上げする予定だったのにぃ!!」


 実は手料理を振舞おうとこっそり練習していたカナである。

 空気を読まない企業案件にイライラしてくる。


 実習用Eランクダンジョンの入り口には規制線が張られており、学院の警備員とカナのマネージャーが立っていた。


「緋城カナ、到着しました」


「……予定時間より3分遅れています。

 すぐ来るようにと言ったはずですが」


「……すみません」


 レニィは相変わらずドライだ。

 一緒にいるだけで心が湧きたつ、ケントとキーファのことが早くも恋しくなる。


「実習用ダンジョンでダンジョンブレイクが発生したことは極めて異例……詳細な調査を緋城グループが担当する事になりました。

 学院との契約は済んでますので、魔石を始めダンジョン内に存在する素材はすべて回収してください。アナタ以外にも回収部隊が入ります」


「は、はあ……」


 なんと、自社案件だった。

 ダンジョンブレイクが発生したとはいえ、しょせんはEランクダンジョンである。

 たいした素材が回収できるとは思えなかったが……。


「……なにか不満でも?」


「いえ」


 プロダクションの運営には、義父の意向が絶対的に影響する。

 下手にへそを曲げて、ケントおにいちゃんとのコラボを解消されたくはない。


「それでは、調査に移ります」


「緋城コンツェルン所属の緋城カナです。

 入域の許可を」


 感情を消したカナは警備員に話しかけ、実習用ダンジョンの調査を開始するのだった。



 ***  ***


「うーん、特におかしい所は……」


 上層部も中層部にも特に気になるところはない。

 魔法剣で焼き払った中層フロアの焦げ跡もそのままだ。


「ふふ、ちょっと自信ついたかも」


 ケントにプレゼントされた装備のお陰で、自分の剣技スキルは大きくレベルアップした。それだけではなく、二人と一緒にいることで自分がどんどん強くなれている気がする。


「スキルポイントもたくさん買えたし」


 プロダクションから貰った特別ボーナスで、だいぶステータスを強化できた。

 ケントおにいちゃんの隣に立つのに、ふさわしい姿へ!


 さっさと仕事を終わらせて、次のコラボを提案しよう!


 そう意気込むカナは下層フロアに降りて行ったのだが。


「……ん?」


 漂う空気に僅かな違和感を感じる。


 ぱち、ぱちん


 マナというか魔力というか……ぞわぞわする感覚というのが近い。


「キーファちゃんがアレを使ったから?」


 ケントおにいちゃんから聞いた衝撃の事実。

 キーファちゃんは重いマナ欠乏症に掛かっていて、ライフポイントと呼ばれる寿命を延ばすためには人間の中に自然に生まれる天然物のダンジョンポイントが必要らしい。


(手伝って……あげないと!)


 何しろ、ケントと一緒になれば自分の娘ちゃんになるのだ。


(やば……そうなったら最高だよ!!)


 カッコいいケントおにいちゃんと可愛いかわいいキーファちゃん!

 思わず妄想に沈みかけるカナだが……。


「ん、これ?」


 いつの間にか、楓子を助けた場所まで降りて来ていた。


「あ、魔石……」


 彼女を助けるのに忙しくて、魔石の回収を忘れていた。

 トロールの魔石は、そこそこの値段がつく。


義父ちちはこれが欲しかった?」


 とはいえ、何人も会社の人間を投入するほどの価値はないはずだが……。


「んん? なんか色が……?」


 魔石には、楓子の血がベッタリとついている


 カナは魔石を拾い上げると、タオルで付着した血を拭いた。


「う~ん」


 いつもの魔石より色が濃い気がする。


「まあいいか」


 さっさと仕事を終わらせて家に帰ろう。

 カナは深く考えず、魔石をポーチにしまうのだった。



 ***  ***


「ふふ、やはりオレの仮説は正しかったか……!」


 深夜の執務室。


 緋城 ジル・ドミニオンは義娘に回収させたトロールの魔石を手の中で弄んでいた。


「まだ速報ベースの鑑定結果ですが」


 レニィが分厚いバインダーを開き、資料を読み上げる。


「魔石に含有されるマナが平均値の10%アップ、魔力を用いたエネルギー変換効率も7%ほど上昇しています。これはいったい……?」


「……7年前に発生した小規模なダンジョンブレイク」


 首をかしげるレニィの様子にかまわず、独白を始めるジル。


「死者、行方不明者87名を出す痛ましい事故だったが」


 こつん


 トロールの魔石を執務机の上に置く。


「ダンジョンブレイクの発生元は何の変哲もないDランクダンジョンだったにもかかわらず……制圧部隊が回収した魔石は、やけに上質なものが揃っていたという」


「!!」


 ジルの言いたいことを察したのか、息をのむレニィ。


「公式記録から抹消された事実を知った時……オレはこう考えた。

 人を”喰った”ダンジョンの魔石は、より美味しくなるのではないか」


「そ、それは……」


 まさか、今回のダンジョンブレイクは?

 その可能性に思い当り、絶句する。


「それは君の想像に任せよう……まだまだ研究途上だがな」


 ジルはレニィの表情変化を面白そうに観察している。


「前ダンジョン庁長官の尽力により、ダンジョン探索はより安全になった。

 回復魔法や装備の進歩により、近年はダンジョン内での死者は多い年でも5人を超えない」


「だが今回、たかが探索者養成校の生徒がEランクダンジョンで死にかけただけで……この成果だ。さて、我が緋城プロダクションの誇る配信者を高ランクダンジョンに喰わせれば……分かるな?」


 ぞくっ。

 執務室の空調が効きすぎているのではないかと、レニィには感じられた。


「……はい。

 我々がダンジョン業界の覇権を握る……そのためには必要な事かと。

 素晴らしいお考えです」


「くくっ。

 さっそく”実験”の第二段を実行する」


(それに……)


 ジルは窓の外に広がる摩天楼を見やる。


(”本命”は彼らだ)


 前長官である大屋凱人おおやがいとの孫で珍しいワーウルフの父親。


「は、はははははっ!」


 ジルは沸き立つ心を抑えきれず、高笑いを上げるのだった。



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