第24話
「うわ~! でっかい学校だぁ!」
目の前に広がる光景に、尻尾をぶんぶん振り目をキラキラ輝かせるキーファ。
俺が開祖となる予定のキーファ教の経典にしたくなるほど可愛い。
「桜下総合探索学院……日本最大の規模を誇る探索者養成校ですね」
「はえ~」
探索者養成校に通えなかった俺は、カナの言葉に相槌を打つ事しかできない。
正門の横には普通の学校と同じように三階建ての校舎が5棟立っている。
大きな違いは体育館とグラウンドだ。
二階建ての巨大な体育館は、天井部分が解放型で、魔法などの威力を吸収する特殊フィールドが貼ってある(パンフレットにそう書いてあった)。
一辺400メートルはある広大なグラウンドの奥には、いくつものダンジョンへの入り口が。
G~Cランクまでの訓練用ダンジョンが備えられているらしい。
「それでは、理事長の許可は取ってありますので3分後に配信を開始します……おふたりともご準備を」
「了解です!」
桜下さんの合図に手を上げて答える。
まあ準備とはいっても、既に冒険着に着替えてるのであまりやることもないんだけど。
「ぱぱの新しい冒険着、ちょうカッコいい!!」
俺の熱い推しと彼女の希望で桜下総合探索学院の制服(赤いブレザー)を身に着けたキーファがてててっと駆け寄ってくる。
ああ、なんて可愛くて似合ってるんだ!
俺は制服姿のキーファを抱き上げる。
「グリーンドラゴンの爪を織り込んだジャケットですか。
防御力が大幅に向上するそうですね」
「おう!」
既に緋城カナモードなカナの言葉に大きく頷く。
先日退治した抹茶ドラゴン。
道中で退治したモンスターの分も合わせて、なんか物凄い収入をゲットしてしまったので、せっかくだからと装備を新調したのだ。
ちなみに素材は抹茶ドラゴンから採取したもの。
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氏名:大屋 ケント
年齢:27歳
種族:人間
HP:4000/4000
MP:0/0
攻撃力:1620
物理防御力:1200(装備効果+200)
魔法防御力:1200(装備効果+200)
魔力:0
必殺率:0
LV3格闘(右ストレート)
LV3間接(全回復)
レアスキル(超てかげん、非常脱出、キラキラ紙吹雪(キーファ演出用、【超だいじ!】))
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もちろんキーファ用の装備もデザインはそのままに素材を大幅にグレードアップした!
これでキーファの守りは盤石と言っていいだろう!
「わたしにも装備を頂いて……ありがとうございます」
「カナも大活躍だっただろ、当然だよ」
カナにプレゼントしたのは抹茶ドラゴンの皮であつらえた鞘に、爪を溶かして作ったローファーのソール。
鞘には魔力をブーストさせる効果があるらしく、ソールは敏捷性を大幅にアップさせる。
ちなみに両方俺のお手製だ!
自作すれば、素材代だけで装備が作れるからな!
「このソール、まるで羽根のように体が軽くなって……本当に気に入っています。
これほどの装備を手作りするなんて、ケントおにぃ……こほん、ケントさんは本当に凄腕なんですね!」
「あ~、魔石の精錬は難しくてよくわかんないけど……キーファの為に良い装備を作ってやりたくてな。
色々試行錯誤してたら何とか作れるようになった。
でもまあ、市販の装備に比べたら武骨だし……こんなの誰でも作れるだろ?」
「え……追加効果を持った装備はAランク以上のクラフトスキル持ちでないと作れない物ですが、ケントさんはクラフトスキルを持っているのでは?」
「え? なにそれ?」
「え?」
……またもやカナと俺の認識にずれがあるようだ。
「はいっ、それでは配信を始めます……5秒前!」
それを確認するより早く、桜下さんから配信の開始が告げられたのだった。
*** ***
プレ配信がスタートして数分。
桜下総合探索学院の敷地に足を踏み入れたカナは、歓声を上げる生徒たちに向かってクールに手を振っていた。
その内心は……。
(うおおおおおおおおおおっ!?)
(ケントおにいちゃんにプレゼント貰っちゃったああああああああ!!)
(まずは鞘!!)
(日本刀のように美しいお前を優しく包み込みたいというおにいちゃんからのメッセージ!!)
(つまり指輪の交換に匹敵する事は確定的に明らか!!)
(そしてローファーのソール!!)
(”お前と一緒にどこまでも歩いていきたい”……つまり一生添い遂げよう♡とのメッセージ!!)
(うおおおおおおおおおおおっ!!)
いつものごとく限界化していた。
(うっ、ふぅ……落ち着けカナ)
妄想しすぎるのは自分の良くないところだ。
ともかく、ケントとの絆はより強固になった。
これからもコラボ配信を通じて仲を深めていこう。
(それに……)
グリーンドラゴンの魔石と素材を売却して得られた莫大な収益。
それを3人の装備に充てた後、少しの蓄えを残しておにいちゃんは……。
(わたしのいた孤児院に寄付してくれた)
数億円の大金を手にしたにもかかわらず、ケントはそれに執着しなかったのだ。
自分たちを笑顔にしてくれた、かっこいいおにいちゃん。
(やっぱり、ケントおにいちゃんは最高だ!!)
逞しいその背中に、抱きつきたい衝動を必死に抑えるカナなのだった。




