第23話
ぴんぽ~ん!
「!! カナおねえちゃんだ!」
ランドセルを背負ったまま、玄関に突進していくキーファ。
今日は来週行われるカナとのコラボ配信の打ち合わせ。
桜下プロダクションの会議室でしても良かったのだが、キーファの学校行事(授業参観!!!!)の都合で自宅での開催とさせてもらった。
(キーファが勉強を頑張る姿……最高だったな!!)
デビュー配信と先日のコラボ配信でゲットしたダンジョンポイントのお陰で、キーファのLPは1200日を超えた。
ダンジョン配信を優先して学校をおやすみする事も多かったのだが、しばらくはちゃんと通わせてやれそうだ。
「いらっしゃ~いっ!」
「お、お邪魔します」
キーファに手を引かれ、おずおずという感じでリビングに入ってきたのは緋城カナ。
フォロワーは170万人を超え、名実ともに若手No1ダンジョン探索者となったカリスマ女子高校生だ。
「ふおお……(ケントおにいちゃんの、おうち!!)」
きょろきょろと興味深げに周囲を見回すカナの服装は、藍色のブレザーにグレーの膝丈チェックスカート。
長い髪はお団子にして、眼鏡をかけている。
変装の意味もありそうだが、孤児院でキーファと遊んでくれていた年長さんの”山下”カナはこちらのイメージに近い。
「打ち合わせと言っても大したこと話さないと思うし、のんびりとくつろいでくれ~」
俺は微妙に緊張しているカナに声を掛けると、冷蔵庫からお手製クリームブリュレを取り出す。
くくく、俺のスイーツバリエーションは無限だぜ!
「わ~い! ぱぱのお菓子だ~♪」
「え!? ケントおにいちゃんが作ったんですか!? スゴイ!!」
テーブルの上でキラキラと輝くクリームブリュレに釘付けのカナ。
ふふ、孤児院を思い出すな……差し入れのお菓子を嬉しそうに食べてくれたっけ。
思わず懐かしい気持ちになる。
(おっと、今のカナはトップ探索者だったよな)
銀座の高級洋菓子店(適当)で買ったスイーツとかの方が良かったかもしれない。
「ぱくっ……お、美味しいっ!!」
「ね~、ぱぱのお菓子は最高なんだよ!」
……どうやらお気に召して貰えたようだ。
美少女ふたりのスイーツ顔は、額に入れて飾りたいほどに尊い。
俺はスイーツ第2弾攻撃を仕掛けるべく、オーブンレンジのスイッチを入れるのだった。
そして当の緋城カナは……。
(うおおおおおおおおっ、ケントおにいちゃんの手料理!!)
(これを食べたわたし、ケントおにいちゃんと一心同体になったと言っても過言じゃないのではああああああ!?)
(再会して5日で自宅訪問……ならば一か月後には、挙式!!!!)
(うっはあああああああああっ!?)
「カナおねえちゃん、鼻血たれてる」
無事限界化していたのであった。
*** ***
『……えっと、スイーツの物産展ですか?』
「すいません、少々張り切りすぎまして」
テーブルの上を埋め尽くすスイーツの山に、桜下さんが苦笑している。
彼女は別件で九州に出張中なので、本日はリモート参加だ。
『……私も行けばよかった』
「ぱぱ~、おかわり!」
「くうっ、ここでチーズケーキまで食べてしまうと、わたしの体重が危険ゾーン! でも食べたい!」
「え、なんです?」
スイーツ大好き女子二人の相手をしていたら、桜下さんの言葉を聞き逃してしまった。
『な、なんでもありません。
配信は先ほどご説明した通り、桜下総合探索学院で来週火曜13時から。
4回に分けてレクチャーいただきますが、外部受講者も含めて希望者が殺到していまして……抽選に四苦八苦しています』
「そうなんですか?」
俺なんぞの脳筋講座を聞いても面白くないと思うんだが……。
あ、そうか!
カリスマ配信者のカナがいるもんな!
それに、ちゃんねる登録者がめでたく50万人を突破したキーファも!
日本の誇る二大アイドルが訪問してくれるのだ。
人気になるのも当然と言えた。
「……ケントおにいちゃんっていつもこうなの?」
「そうだよ~♪
そこがカッコいいんだ!」
「確かに!!」
『ふふ、カナさんもよろしくお願いしますね』
「は、はいっ!
ケントおにいちゃんのサポート、精一杯務めさせていただきます!!
むしろ一生!!」
「……たーげっとK、最初からかんおちっと」
そういえば桜下さんって昔は超有名な探索者だったらしい。
カナが興奮するのも当然だろう。
……そしてキーファは何をメモしてるんだ?
『そうそう、忘れないうちにお伝えを』
これで打ち合わせも終わりかな?
そう考えていると、桜下さんが何かを思い出したようだ。
『ケントさんが先日協会に売却されたイフリートのコア、鑑定結果が届いてましたよ』
「ぶっ!? イフリートのコア? え、聞き間違いかな?」
何故かお茶を吹き出すカナ。
おお、そういえばそんな事もあったな!
ここ最近のゴタゴタですっかり忘れていたぜ。
「100万くらいにはなりましたかね?」
『……4000万円です』
「……は?」
『正確には4032万円ですね。ダンジョンブレイクの被害者であるケントさんには税金の減免措置がありますので……』
ぴっ
俺の電子口座に現金が振り込まれる。
「え、さんぜん……ななひゃくまんえん!?」
「ふおおおおおおおっ!?」
口座の残高が、一桁増えていた。
「ぱぱ、おかねもちだよ!!」
「うおおお、あのケトル、そんなに高かったのか!?」
「……ケトル?」
『ま、まあ……今まで数十個しか入手されたことのないレア魔石ですからね。精錬後は数倍の値段で取引されると思います』
あの魔石、そんなにレアだったのか……湯沸かしくらいにしか使えなかったのに、ビックリである。
「よし、これで!
新しい洗濯機と、キーファの新装備が買えるぞ!!」
「やった~!!」
喜ぶケントたちの横で秘匿会話を凛に繋ぐカナ。
(ちょっと凛さん!)
(なんでしょう?)
(イフリートのコアって……ケントおにいちゃんが討伐したってことですか?)
(にわかには信じられませんが、ケントさんの実力ならさもありなんという所ですね。それに、他にも謎アイテムがたくさんあるって言われてました)
「うっ!?」
そう言われれば、キッチンカウンターの上に載っている花瓶、その中からヤバい気配を感じる。
観賞魚が泳ぐ水槽の中に沈んでいるビー玉はもしや……?
「やべぇ、ケントおにいちゃんやべぇ……」
憧れのおにいちゃんは、想像以上にヤバい探索者のようだ。
その彼を支えるべく、傍らに立つ自分……つまり愛のパートナー!
(うっはあああああああああっ!?)
『……やれやれです』
例のごとく限界化するカナにため息をつく凛。
先日討伐したグリーンドラゴンの魔石が、協会のオークションで数億円の値を付けたことは、まだ言わない方が良さそうだった。




