-7 『星光祭』
雨季も遠くへと過ぎ去り、空には晴れやかな蒼が広がっていた。
今日は星光祭当日。
貴族学校と市民学校が併設された敷地内では、今日ばかりはどちらも遜色ないばかりに華やかな飾り付けを施されていた。
季節の花が校門を彩り、校舎へと続く道には一般生徒たちによる模擬移転が立ち並んでいる。市民学校とは普段触れ合う機会がないから、そこに見かける生徒たちも新しい顔ぶればかりだ。
それに加え、今日は生徒以外にも親類などおの外の関係者まで多く集まっており、校内はいつにない賑わいを見せていたのだった。
そんな中、私の後ろに隠れてびくびくと肩を縮こまらせている人影が一つ。
「……ね、ねえ。ユフィ」
「どうしたのよフェロ」
「……な、なんだか、みんな僕を冷たい目で見てきてる気がするんだけど」
おどおどとした調子でフェロは私の背中から顔だけを出していた。
事実、フェロの言うとおり、前を通り過ぎる人たちはみんな私たちを一瞥して去っていく。その視線は私というよりも背後のフェロへと明確に向けられている。
「どうしてかしらね」
「いや、絶対これのせいだよ!」
半ば涙目を浮かべながら、フェロは自分の格好を指し示した。
私はいつも通りの制服姿だが、フェロは違う。黒を基調とした生地に白いフリルのこさえられた、まるで給仕服のような格好だった。頭のカチューシャや膝元くらいの長さのスカートにもフリルやリボンが飾られており、まるでお人形のようなおめかしをしている。髪には長めのウィッグがつけられ、綺麗な金色の艶髪が腰ほどまで垂らされていた。
それはもう、一目見るだけで美少女だと脳が理解するほどだった。もともと色白で小顔、童顔なせいもあり、そこにいる少年は誰がどう見ても『女の子』と答えることだろう。
また、おどおどとした内気な態度や自身無げな内股がよりか弱い少女らしさを醸し出しており、私はその宝石のように可憐な美少女に興奮冷めやらぬ気分だった。
いますぐ振り返ってフェロを抱きしめたり撫で回したりしたいのを、血を流す気持ちで必死に堪えているのが現状だ。
「な、なんで僕がこんな格好を……」
細々と呟くフェロ。
――そんなの、似合ってるからに決まってるじゃない!
こほん。じゅるり。
心の涎がどばどば出てくるのを必死に隠し、心を押し殺す。
冗談はさておき、もちろん彼のこの格好にも一応の理由はあった。
「スコッティが出店をやるから売り子として手伝って欲しい、って言ってきた時に頷いたのはフェロでしょ?」
「そ、それはそうだけど。こんな格好だなんて聞いてないよ……」
そう。
この星光祭では生徒であれば許可さえ取れれば個人で出店を用意することが可能なのだ。賑やかな性格のスコッティは自分で食べ物を売りたいと声を上げ、個人的に用意を進めていたのだった。
スコッティが出したお店は焼きそば屋だった。大きな鉄板や調理器具を持ち込んで、ルックも手伝って設営をしていた。
出店場所は校庭の端っこの目立たない所だったので、少しでも人が来るように客引きしてほしいとお願いされたのが数日前だ。
「僕にできることならいいよ」とフェロが気前よく真っ先に頷いたのを見て、私はこれ幸いと目を光らせ、大急ぎでこの可愛らしい給仕服をアルに手配させたのだった。
「いい? 客を釣るには色目が一番。男性の客引きだと男はあまり食いつかないし、女はちょっと警戒するかもしれない。でも男は可愛い女の子に弱いし、可愛い女の子なら女性にも引かれる事はない。客引きが女の子の方がマイナスにはならないのよ。そこでこの給仕服を着れば、お客様をお待ちしています、っていう淑やかな印象を与えてぐっと心を掴むに違いないわ」
私はそんなよくわからない勝手な持論を早口でまくし立て、フェロを無理やり頷かせたのだった。
実際、可憐な美少女と化したフェロは往来の注目を十二分に集めている。これでスコッティのお店の看板を掲げれば集客効果は間違いないことだろう。
私が屋敷で内職をして用意した宣伝用の立て板を取り出し、フェロに手渡す。私が無理やり背後から引き剥がすと、フェロは小鹿のような心細い動きで震えながら立っていた。
「ゆ、ユフィが着ないの?」
せめて私を巻き込もうとでもいうのか。
けれど残念。私は可愛いものを眺めるのは大好きだけど、自分がそれを着たりするのはそれほど興味がない。
「ほら、私はそういうの担当じゃないし」
「どういうこと?!」
「似合ってるから仕方ないのよ」
フェロが着た方が、私が着るより間違いなく可愛い。誰だってそう思うだろう。だからこれでいいのだ。私としても、可愛らしい婚約者が見れて眼福すぎる。
そんな満足そうな私を見て、フェロがうらめしそうに私を見て呟いた。
「……ユフィだって可愛いんだし似合うと思うんだけど」
「――もう。そういうのいいから!」
吃驚した。
急にそんなことを言われるなんて思ってなかったから。
私は思わずその驚きを隠すように、私はフェロのお尻を叩いて人前へと押し出していた。それでようやく観念したフェロは勧誘の看板を掲げ、すぐ近くにあるスコッティのお店へと呼び込みを始めたのだった。
その効果は大きく、生徒や学校外の関係者達が時折足を止め、フェロに促されてスコッティの店へと流れていった。スコッティは開いた店先で鉄板を熱くさせ、香ばしいソースの焼けた匂いを漂わせながら焼きそばを作っている。最初は人の少なかったそこは、フェロの宣伝によってたちまち多くの人だかりができあがっていた。
そんな光景を、私はふと早くなった鼓動を落ち着かせながらのんびり眺めていると、
「げ、長ネギ」
出店が立ち並ぶ校庭の通路の向こうから、まるで人混みという名の畝から青々と茂っているように飛び出た見知った緑髪が目に入った。




