二次元文化の中心地
前回のあらすじ:虹村くんが女の人と抱き合っていましたが、ただのお絵描き仲間のお姉さんだったようです。
「売り子さん……?」
「今度の即売会でシブキさんのスペースを手伝ってくれない?てことだね」
「そういうこと。優華ちゃんかわいいから買う人もきっと喜んでくれるよ」
「なるほど……。でも、シブキさんもすごい綺麗じゃないですか。モデルさんみたいで羨ましいです」
「そう?まあ、ありがとね。ただ、アタシと優華ちゃんとじゃタイプも違うからより広い層をカバーできるし、むしろ客層としては優華ちゃんみたいなのがタイプに近い人が多いと思うよ」
「そうなんですね……」
「ちなみにちゃんとバイト代も出すし、なんならヒロくんと同じシフトで働いてもらってもいいよ」
「え、自分働くの決定すか」
「最初から頭数に入れてるから抜けられるとつらいんだけど……」
誰から見てもわかる白々しい泣き真似をしてみせるシブキさん。
「ブラックサークルかな?いや、まあ、いいんすけどね」
「ということだけど、どうかな?」
どうせ行くつもりではいたし、はじめてだから詳しそうな人が一緒だと心強い。さらにシフトが虹村くんと一緒ということは一緒に働けて、一緒の時間にまわりに行けるということだろう。棚からぼた餅。非常に魅力的な条件だ。
「はい、ぜひやらせてください!」
「ありがとう、じゃあよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「やったぜ、ヒロくん。美少女売り子さんゲットだ」
「そりゃおめでとうございます」
「えーっ。なんか冷めた喜びかたじゃない?君たちからすればお姉さんかもしれないけど、世間的にはまだケツの青いガキだからなかなか頼める人もいなくてたいへんなんだよ?」
たしかになかなか年上の人には頼みづらいよね。
「ちなみにおいくつなんですか?」
「ハタチだよ。大学三年生。そうだ、立ち話もなんだし座れるお店でゆっくり話そうか」
「ご一緒していいんですか?」
もともとの予定もあったろうから確認してみる。
「もちろん!もともとそういう予定だったしね。じゃあ行こうか」
そう言うとシブキさんは広場を、駅から離れた方へ歩き出す。向こうには大通りのようなものが見えるが、車は通り抜けできなさそうだ。
「歩行者天国……」
看板にある文字を読み上げてみる。
「ああ、優華はハルバはじめてか。日曜日の昼間はこうやって車を通れなくして大通り全体を歩けるようにするんだよ」
「なるほど。日曜の昼間しかやってないならたまたま来た初のハルバでこれを見られるのは結構ツイてるのかもしれないね。……って、あっ!すごい!」
大通りに出ると二次元文化の聖地って感じのする雰囲気が一気に伝わってくる。周りのビルのあちらこちらに二次元キャラで彩られた巨大な広告が見られる。
「僕もはじめて来たときは感動したなぁ。別の出口だと駅を出てすぐにわりと雰囲気のある通りに出るんだけど、こっちはここまでは普通って感じだから気がついたらハルバの中心にいるって感じがして圧巻だよね」
「反応が新鮮でかわいいよね、ほんと」
通過儀礼を懐かしむように二人が語る。
「ちなみにどちらに向かってるんですか?」
質問してから気づいたけど、聞いてわかるわけないか。
「ん?セイゼだよ」
まさかのセイゼ。ちょっとどころでなく意外。
「え、なんかメイド喫茶とかそういうとこじゃなくてセイゼなんですか?」
「行きたかった?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「まあ、アタシやヒロくんは基本的にリアルのメイドさんにはそこまで興味ないからね。だからセイゼの安さに吸い寄せられてしまうんだよ」
そういうものなのか。なんにせよ今日はお弁当用意しなくてよかった。
「ほかにご注文はございませんか?」
「ありません、ではお願いします」
「かしこまりました、ではドリンクバーはセルフサービスとなっております。あちらにございますのでご利用ください」
店員のお姉さんがテーブルを離れていく。
「さて、まずは本題からとっとと済ませてしまおうか。君たち付き合って何ヵ月なの?」
「シブキさん、それは本題ではありませんし、そもそも僕は優華と付き合ってすらいません」
「わ、私飲み物入れてきますね。何がいいですか?」
そろそろ本題とやらに入るとのことだったので、特に関係のなさそうな私が飲み物を入れに行くことにする。
「お、ありがと。じゃあアタシはオレンジジュースで」
「僕もそれでお願いしようかな」
「おっけーです」
そう言い残してドリンクバーのコーナーに歩き出す。私もオレンジジュースにしようかな。




