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24-吹っ切れ

「あら、ニーナちゃん、今日も買い出し? 安くしておくよ!」


「ありがとうございまーす! まあ、今日は少し違うんですけどね……?」


 あれから一旦、荷物を置いて身軽にしようと話し合って宿に戻り、革鎧を脱いで軽装にした俺は、細かい貨幣を持って街に出ようとした。

 すると、気になったのか受付をしていたニーナがどこへ行くかと聞いてきて、旅用の保存食等を買いに行くと伝えたのだが、「ならお勧めのお店があります!」 と俺の手を引いて連れてきてくれたのだ。

 俺の事が大好きなのだろう。手を引く彼女の顔は終始笑顔であった。


 中は狭いが、商品が所狭しと並べられており種類事態は充実している。古くからの雑貨屋さんみたいな感じで店の雰囲気もいい。

 店番のおばちゃんも俺を見て驚くも、敬語で話したら笑ってくれて、ここに居ても居心地は悪くない。


 俺の前で、おばちゃんと会話を楽しんでいるニーナ。宿屋用の買い出しに何度か来ていたのか、会話が自然と弾んでいる。

 お得意様というやつだ。


 と、会話を一旦止め、ちらりとこちらへ顔を赤くして振り向くニーナ。

 今日はエプロンをしておらず、半袖半ズボンと動きやすそうな服装だ。頭にはバンダナを巻いたままだが。

 その様子を見たおばちゃんは、今日一番の笑顔を見せる。


「なんだ、デートかい? ニーナちゃんもやるわねぇ!」


「ち、違いますよ! ライクさんはただの宿泊客です!」


「はいはい、分かってるって! それも含めてサービスしてあげるよ!」


「だから違いますってぇ!」


 豪快に笑う気のいいおばちゃんに、顔を真っ赤にさせて必死に否定するニーナ。その様子は好きな相手の前で誤魔化してるようにしか全く見えない。


「ライクさんも、何か言ってください!」


 そうして、腕を組み同じく笑っていた俺に振るニーナ。おいバカ、やめろ。

 お前のせいでこっちは笑ってることしか出来ないんだぞ。


「はは、俺なんかじゃニーナにつりあいませんよ」


「そうかしらねぇ。お似合いだとは思うんだけど」


 冷や汗を浮かべながら、無難な言葉でその場を凌ぐ。

 しかし、マジかこのおばちゃん。俺、ニーナとワンチャンあるのか。

 なんて現実逃避しながらもニーナの襟首を掴み、抱き寄せおばちゃんから離れる。


 その様子を見て黄色い悲鳴をあげるおばちゃん。店の客は幸い俺たち以外に居なかったのが救いであった。


「……エンリ、そろそろ誤魔化せなくなるからこの辺にしような?」


 さて、お気づきだろうがこのニーナはエンリが化けていた者である。こんなデート紛いの事はしてくれる筈もないし、宿を出ていく時も後ろでほっと胸をなで下ろしているのが見えたのでこんなことは絶対に有り得ない。


 宿から出た後、(エンリ)に手を引かれ路地裏に入れば、姿を一瞬にしてニーナへと変化させ、再び手を引いて道へと出る。

 その鮮やかな行動に俺は何も言えぬままこの状態となった訳だ。


「エンリって妹ちゃんのことですか? もう……兄妹仲がいいのは知ってますけど、私がいるんですから、今は私だけの事を見てください」


 俺の言葉にぷくっと拗ねたように頬を膨らますニーナ。まるで、元々その体を使っていたかのように自然な、とても可愛らしい仕草に俺は騙されそうになるも、鋼の心を持ってその頬に手をかけて引っ張る。


「いい加減にしような〜?」


「い、いひゃい、あるひ……ごめんっへ……」


 お、柔らかいな……全模倣なので、この柔らかさはちゃんとニーナ本人の柔らかさだろう。すべすべで女の子らしい弾力がある。

 ほっぺを堪能していると、ようやくエンリが涙目で素を出し観念した。


 店の隅に寄り、小声で体を寄せ合いながら話す男女。これがまず誤解されるとも俺は知らずにそのままの体勢で話し続ける。


「流石に本人の知り合いの前でやるのはまずい、我慢してくれ」


「ん……大丈夫ですよ、そんな頻度で会うわけでもないですし。ライクさんは気にしすぎですって」


 確かに俺が心配性なのもあるが、知り合いはまずいだろう。加えてあのおばちゃんの性格だ、今度買い出しに来た本人(ニーナ)を絶対茶化す。


 そうなると俺とイチャイチャ買い物に来た記憶のないニーナは困惑し……と問題が起きる。エンリはおばちゃんにも常連客のニーナとして振舞っていたし、そっくりさん作戦も意味は無い。

 が、余裕のエンリ。本当に俺の気にしすぎなのだろうか……?


「それに、本人となんて絶対こんな事出来ないんですから……ライクさんも、一緒に楽しみましょうよ?」


 ニーナがしないような、にやりと歪んだ顔。


 エンリは悪戯好きだ。特に他の女の子に化けて俺を揶揄うのがとても好きである。

 ドッペルゲンガーの性質なのか、エンリの性格なのかは分からないが……そんなエンリは、凄く楽しそうで、俺も強くは言いたくないし、共に楽しみたい。本音を言えば、こうしたニーナとの擬似デートは凄く楽しい。


 だが、人間関係を考えると危険が付き纏うのだ。


 俺のそんな複雑な表情を見て、しゅんと眉を下げるニーナ。


「……わかった。ごめんね、主……」


 反省しているのだろう、声も先程までの元気はない。悪戯好きだが、素直でいい子なのだ、エンリは。


 ……本当にこれでいいのか、俺?

 エンリの精生を充実させると決めたんだろう?

 まだまだ俺たちの先は長い。

 こんな小さなことを気にしてどうする。

 他人への多少の迷惑より、大切な相棒の笑顔を取るのが男ってもんだろ!?


 俺は吹っ切れとも言う決心をすると、ぎゅっとニーナを抱き寄せる。革鎧は脱いで来たので、シャツ越しの硬い胸板にニーナの顔は収まった。


「……いや、やっぱりいい。エンリの好きにしてくれ。俺だって楽しいしな」


 ニーナは突然顔を胸に抱き寄せられ、パニックで耳まで顔を真っ赤にしていたが、俺の言葉を聞いてゆっくりと顔を上げた。


「でも、主の迷惑になるし……」


「もう気にしないさ。多少の迷惑がなんだ、俺とエンリが楽しめれば、それでいいだろう?」


「主、困らない……?」


「困っても乗り切る。俺はお前の主だぞ? 精霊の悪戯くらい、笑ってさせてやれなくて何が主だ。……それに、もしもの時はエンリも力を貸してくれるだろ?」


「……うん!」


 笑顔を見せ、元気良く抱き着いてくるニーナ。

 ……良かった。人としては間違った事を言ってしまったのかもしれない。

 だが、ちまちまと気にしていた時よりも、遥かに気分が清々しかった。


 最悪、宿を変えればいい。街だって、刑期が終われば出ていけばいい。

 元々俺の評判は悪いんだ。今さら何か嫌われたところで問題はない。

 俺は村を襲った時から、他人よりもエンリの事を優先すると決めていたんだ。

 相棒がしたい事は、好きにさせてやる。


 前までの俺なら、人に迷惑をかける人生なんて選ばなかった。成長したのか……それとも、エンリへの気持ちが強まったのか。

 だが、悪くない変化だと、思う自分がいた。


 ……少しは、主らしく振る舞えただろうか。


 ぎゅむぎゅむと柔らかな体を寄せ、俺の胸に顔を擦り付ける様にして甘えるニーナ。

 胸を当たり、女の子の良い匂いが鼻腔をくすぐる。


 一通り甘えきると、瞳を潤ませた上目遣いでこちらを見る。俺も少し照れながらも、ちゃんと見つめ返す。


「これからも、主に悪戯していい?」


「おう、返り討ちにしてやる」


「他の人間にも悪戯していい?」


「程々に、後はドッペルゲンガーとバレなければな」


「なら、ミィルに化けてギルドで主の靴を───」


「それは本当に勘弁してください」


 二人、吹き出して笑い合う。

 エンリも、こんな事を言っているがいい子なんだ。本当に危険なことや、取り返しのつかない迷惑をかけることは絶対にしない。

 だから俺も、信頼してこう言える。


 再び買い物を再開し、ニーナが笑顔で腕に抱き着きながら店の商品を見て、ドライフルーツやパン、干し肉等を購入した。


 エンリの悪戯に付き合って貰ったおばちゃんには悪い事をした。これからもこの店はご贔屓にしよう。


 小声で話していたおかげで、会話内容は聞かれなかったが、一部始終を見ていたおばちゃんが会計の際に再び茶化してくる。


「あらあら、そこまでしておいて、本当に付き合っていないの?」


 俺は、何か言おうとしたニーナを押さえ、胸を張って答える。


「はい、付き合っていませんよ。俺が本当に愛してるのは……エンリっていう、悪戯好きの少女ですから」


 別の女を抱き寄せておいて、何と最低な発言だろう。これで俺の評判も地に埋まった。

 おばちゃんも、俺の雰囲気と言葉のギャップに面を食らった後、腹を抱えて笑った。笑顔で躊躇いなく、爽やかに最低な発言をしたので、怒るよりも笑いが勝ったのだろう。

 そして、「面白いけど、こんな最低な男とは早く別れなさいよ」と涙を拭いながらニーナへ言った。


 そう忠告を受けたニーナは……ずっと、俺の腕に顔を隠すようにして抱き着き、黙って俯いていた。


 持ってきた麻袋に荷物を詰め、店を出る。

 今日も清々しい晴れ。

 俺の気分も、清々しかった。


 さて、と。

 バレた時は、土下座で許してくれるかな……。


4月24日


所持貨幣

大金貨15枚

金貨5枚

大銀貨1枚

銀貨7枚

大銅貨1枚


所持G

812500G


食料(大量) -5100G

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