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11-道中

 歩いていくと、すれ違う人々の視線が一瞬こちらへ向かう。それは俺が美形だからではない。

 串焼きも食べ終わり、俺が再び可愛らしい幼い少女と手を繋いでいる強面の大男だからであろう。


 騎士たちに仕事場へ連れて行かれる時は、囲まれたり頭を下げていたり布を被って隠したりしていたが、それがないので前よりも多く視線が向けられる。


 視線は慣れたが、何故か俺を見る人々の反応を見る度に上機嫌になっていくエンリの心理だけは全くわからなかった。

 ふんふんとその容姿をふんだんに活用して、可愛らしく鼻歌交じりに横を歩いている。


 歩幅が全然合わないので、俺がエンリにペースを合わせている。前世の頃から歩幅は関係なく歩く速度は早かったし、社会人になってからは誰かと歩くということもなかったので、人に合わせるというのは新鮮である。気分は悪くない。


 と、服屋へ向かう際、ギルドの前を通ることになった。

 ギルドは木造の大きな建物で、中からは活気溢れる男たちの声やらが聞こえてくる。


「明日には行けるといいな」


「うん!」


 等と(エンリ)と会話を交わすが、それよりも俺の気を引いたのがギルドの向かいにある飲食店らしき店の前で繰り広げられている喧騒だ。


 男たち十数人が、一人の中年男性を囲み文句を言っている。何かのクレームだろうか。

 気の毒だなぁと思いつつ、通り過ぎる様に聞き耳を立てたのだが、その内容に思わずドキリとした。


「カランちゃんがもういねえってどういうことだよ!」


「俺たちカランちゃん目当てで来てたんだぞ! いきなり辞めるなんて聞いてねえよ!」


「そうだ! せめて退職祝いでも俺たちにさせやがれ!」


 勢いの良い男たちの言葉に、中年男性……この店の店主だろう男性は「すみませんすみません」と苦笑いで対応するしかない状態であった。


 とりあえず手を繋いでいる妹の手を引き、その前をさっさと通り過ぎると、少し睨むような形の視線を妹へ向ける。


「お前……本当に無理やり辞めてきたんだな……」


「? お兄ちゃん、なんのこと?」


 ため息混じりの言葉に、屈託のない笑みで返す妹。本当に私何にも知らない私何も関係ないよと言わんばかりの態度である。

 さすがドッペルゲンガー、恐ろしい。


「いや、何でもない」


 俺は諦めて、そして頭からさっきのことは忘れ去ることにした。カランはもういない……いないのだ。

 それに今さらまだ働いてもらおうとも思っていないし、せっかく自由になれたのだ、エンリと過ごす時間は長い方がいい。


 ふと、前世を思い出す。


 俺も仕事に疲れ、何も言わずに自殺をしたが、会社は俺がいなくなっても何事もなく回っているのだろうか。

 それとも、先ほどのように困り果てているのだろうか。


 ブラックでこき使われて、文句しかないような会社であったのに、後者であったら嬉しいと思ってしまうのは何故だろうか。


「お兄ちゃん、どうしたの……?」


 歩きながら、心配そうな顔でこちらを伺ってくる妹。どうやらまた顔に出てしまっていたらしい。

 いけないいけない。


 前世とはもう違うのだ。それに、何があっても、認められるような事を成し遂げようと決意したではないか。


 過去の記憶を頭から振り払い、微笑で心配してくれる相棒へ返す。


 それからは他愛のない、俺の好みの味の話でもしながら、服屋へ歩くのであった。




 〜〜〜




「ここだよ、お兄ちゃん!」


 繋いでいた手を離し、くるりとボロマントをひるがえして周り、後ろで手を組みながら笑顔でいう(エンリ)

 うーむ、あざとい。


 それはさておき店の方だ。

 外観は煉瓦のような石造りで、他の建物よりかはオシャレである。しかも大きい。看板にも衣服が売っていることを示す、わかりやすい服の絵が描かれていたので、ここで間違いないだろう。


 大通りに建っていて道行く人も多く、立地的にも最高の場所だと思う。エンリの情報で、質も良いということなので、安心して買い物ができるだろう。


 俺の容姿を除けば、だが。

 エンリの下着を買うのが第一の目的ではあるが、俺の衣服も買っておきたい。この看守に貰った麻の服一セットでは足りない。同じものが後一セットはほしい。


 前世であれば、一日一着、別のものへと着替えていたが、この世界では、いや今の状況ではそんな贅沢もできないし、面倒でもあるのでこれでいいと思う。


 典型的なダメ男の思想ではあるが、エンリは俺の考えを肯定してくれる。このままではますますダメ男が進行しそうではあるが、何だか心地よいので良しとする。


「エンリの下着はまあ、値段は気にせず買ってくれ。俺の方は安いので済ますつもりだから、金貨一枚だけ貰っておくな」


 そう言って、麻袋から金貨一枚を取り出し、袋を妹へと渡す。が、何だか不満そうに、ぷくっと可愛らしく頬を膨らます。


「私は、お兄ちゃんにもかっこよくなってほしいなぁ……」


「俺は元々格好いいだろう?」


「それはそうだけど……うーん、でも格好良くなられたら逆にそれはそれで困るかな……」


 ほんの冗談をあっさり肯定で返され、自分で言っておいて照れてる俺を置いて、何やら腕を組み考える(エンリ)

 まあ、横を歩く奴がみすぼらしい格好をしてるのはあまり気分はよくないよなぁ。


 だが俺の容姿では今さらな感じもするし、これからはほとんど防具を装備してから外へ出るので、俺としてはそちらに金は使いたいのだ。


 その主旨を伝えると、既に考えは決まっていたのか、すんなりと受け入れてくれた。 


 さて、入店である。

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