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28-狂戦士

 ロックは信じられなかった。

 昔からとても仲が良く、性格もよく知っていた、婚約者のサナが裏切り山賊に手を貸すなんて。


 ロックだけではない。他の村人も同じであった。村長の娘が裏切る、それはにやかに信じがたいことである。しかし目の前でそれは起こってしまった。


 ナイフを刺され、気を失った傭兵。

 素行は悪いが、傭兵の腕は皆が認めていた。

 その傭兵が倒された。

 さらには村の財産までもが持っていかれた。

 畑も獣に荒らされ、残りも少ない。


 いくつもの問題が一斉に降りかかり、皆はその場から動くことができなかったのだ。


 ――夕暮れ、大きな振動を感じるまでは。


 ふと気が付けば、それはすぐ側まで迫っていた。

 畑を荒らした獣の大群。


 鹿や猪のような獣が混ざり、村の柵を目掛けて突進してくる。

 鹿には尖った大きな角、猪には鋭い牙と村の木でできた柵などは大群を数秒止めることすらもできずに崩れた。


 村人たちは止めることはしない。

 自分たちは傭兵のように大きな力もない。

 前に自分の畑を守るために立ち向かった男がいた。


 あれは酷かった。

 獣たちは自分たちの方が上だと理解しているのだろう。さらにはこちらから手を出したとなれば反撃されるのが獣だ。


 鋭い角に全身を串刺しにされ、猪の鉤爪に踏まれ、見るも無残な姿と男は変貌した。


 以来止めようとするものはいない。

 満足して獣たちが帰るのを待つことしか、村人たちにはできなかったのだ。


 目的の畑へとつき、土を掘り返し、育て上げられた作物を貪るように食い尽くす獣たち。

 まさに蹂躙。

 食べかすが宙に舞う。


「あぁ……あぁ…………」


 一人の男がガクリと膝から崩れる。

 大事に育ててきたものが、一瞬にして食い潰される。

 これから冬に入るというのに、絶望でしかないだろう。


 泣きっ面に蜂、村人たちは成すすべもなく項垂れた。


 ……その時だった。


「うぉおおおおおおおおお!!」


 マントをなびかせ、革鎧に見を包み、斧を構えた大男が獣たちに飛び込んで行ったのは。


 巨体と装備を思わせぬ速さで駆けて行った男は、止まることなく畑へと進む。


 獣たちは大男に気付き一斉に振り返るが、あまりの迫力、威圧感により一瞬怯んでしまった。

 その隙に大男が斧を振れば、獣の首が簡単に飛んだ。


 獣の皮や骨をものともしない、大男は次々と鹿の獣の首を中心にはねていく。


 ようやく獣たちは己を奮い立たし、大男へと突進していった。

 普通であれば獣に突進されただけでも大怪我を負うところだ。

 特に猪の獣は身体も大きく体高は一メートルはある。

 さらに鹿は鋭い角を、猪は尖った牙を向ける。


 数匹が大男に向かった。

 これではあの男の二の舞いだ。


 村人たちはその戦いに目を離せないでいた。


 しかし串刺しとなる人間を見るのは耐えられなかったのだろう、何人かが目をそらす。


 ……だが、聴こえてきたのは獣の断末魔であった。


「ふんッ!」


 大男はマントを翻して獣を誘い、突っ込んできた猪の獣を飛び越える。

 すかさず斧を横になぎ払い、数匹の獣の胴体が切り裂かれる。


「……なんだ、あれは」


 光景を見ていたロックからやっと出た言葉は、誰に聞くこともない呟きであった。


 信じられない。

 あの大男は、さっき村を遅い傭兵を倒し、更にはサナを連れていった男だ。

 しかも両肩には怪我を負っているはずなのに、その兆候が全く見えない。


 村人たちもまた、唖然とその光景を見ていることしかできなかった。


 大男の、獣の咆哮のような声。

 宙に舞う獣たちの首と血。

 村人たちの頭の中に、狂戦士という言葉がふと過ぎった。


 やがて残りの獣は一匹となった。

 さすがの大声も、肩で息をしている。

 一方的なただの力の暴力は、体力を大きく消費したのだろう。


 すると獣の一匹が逃げ出そうと背を向けた。

 敵わない相手、そして恐怖。

 本能から逃げるという選択をここで決めたのだろう。

 大男と獣には十分な距離があった。

 スピードも獣の方が上だ、確実に逃げられる。


 だがそれを大男は許さなかった。


「うおりゃぁああッ!」


 持っていた斧を獣へと投擲する。

 前回転で飛んでいった斧の刃は、見事獣の身体へと命中し、獣は息を引き取った。


 同時に大男も地面へとフラリと倒れた。

 残ったのは食いかけの作物、獣たちの死体。


 一つの畑は壊滅となったが、原因である獣たちが全滅したとなれば他の畑もある。


 村人たちはようやく現実にかえり、喜んだ。


「なにが、何なんなのやら……」


 ロックは状況についていけず息を吐く。

 が、血の臭いが入り少しむせてしまった。


 しかし驚きはそれだけでは終わらなかった。


「主! 主! 大丈夫!?」


 大男の側にどこからともなくサナが現れ、大男を心配し声をかけていたのだから。


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