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22-偽りの日常

「ただいま、パパ」


「おお、おかえり、サナ。あの子は満足してくれたかい?」


「うん、元気一杯でちょっと疲れちゃった。ごめんね、今からお昼作るから」


 ウノ村の村長であるカーノには、今年で十五歳となった一人娘がいた。

 五年前に母親を病気でなくし、村の者たちの協力を得ながらも男手一つで育てた、どこへ出しても恥ずかしくない娘。

 そうカーノは己の娘の評価をしている。


 大きな反抗期もなく、母がいないという環境なのに文句なし、それどころか私が代わりになると張り切り出す。


 帰ってきた娘を見て、カーノはつくづく思っていた。


 台所へ向かい、昼御飯を作る背中は母親にとても似ている。

 結婚は向かいと決まっているが、良い妻になるだろう。まったく、相手にはもったいない。


 カーノは椅子に座りながら、一つの用紙を眺めながら待つ。

 用紙の内容は村の利益についてだ。


 ここの村では畑で作る農作物が主な収入源となっており、今年の畑の荒れ具合は大きな打撃を生んだ。


 今まで山の獣が降りてくることはあったが、今年は群れをなしてきたのだ。

 予想外の事に対策などはしておらず、好き勝手に荒らされてしまった。


 こんなことは今までで初めてである。

 気候の変化も今までとは変わらない。原因を考えるとするならば二年前の大地震か。


 臨時に雇った傭兵もそこそこの働きはしてくれているが、雇う金が大きくかかった。

 さらには畑を襲いにきた獲物を狩った分は全てあの傭兵が総取りをしている。


 獣から毛皮などを剥ぎ取り売ればそれなりの金にはなるが、それができない状態だ。

 もし文句を言えばあの性格の男、何をしでかすかわからない。


 カーノは山積みの問題に頭を抱えた。

 村の財産も貯めていた分はまだあるがこのままでは次第になくなっていってしまう。

 もうすぐ近くの山に根付く山賊討伐のため、騎士達がやってくるそうだが、何とか獣たちも退治してくれないだろうか。

 いや、自分たちでどうにかせねば……。


 ふと、今日訪れた強面の男が頭によぎった。

 見た目に反して礼儀も正しく、終始下手であり自分の中では好印象である。

 あの男も仕事を探しにと来たが、もうあの傭兵を雇ってしまっている。

 期間の契約なのでキャンセルをすればその分の料金も支払わなければならない。


 あの傭兵がいなければ、条件次第では喜んで受け入れたが、もう払う金もないのだ。


「パパ、はいお水。あんまり無理しないでね?」


 悩みが表に出てしまっていたのだろう。娘にまで気を遣わせてしまった。


「あぁ、ありがとう」


「もう御飯も出来たから、一旦休憩しよ?」


「うむ、そうしようか」


 娘の言葉に頷くと、カーノはコップ一杯の水を飲み干してから立ち上がり出来上がった料理や食器を運ぶのを手伝う。

 家事も何から何まで娘に任せてしまっているのが申し訳なく感じた。


 やがて全てを机へと運び終わると、向かい合って座り食事を始める。


 二つの拳ほどのサイズのパンにここで採れた野菜のスープ。そして塩漬けされたトンキーという家畜の肉。


 これがこの世界では一般的な食事の内容である。

 まずは肉。やはり固い。

 保存は効くし単価は安いのだが肉の臭みが抜けきっておらず美味いとは言えない。

 次にパン。これも硬い。作り方は様々であるが娘が知っているのはこの硬いパンだけだ。


 暫く無言で食べ続けているが、娘はいっこうに食事に手を付けていなかった。

 どうしたのかとも思ったがあまり気にも止めずカーノはスープの入った食器を傾け飲む。


 するとようやくサナが口を開いた。


「それ、美味しいでしょ?」


「うん? ……あぁ、なんだかいつもと味が違うな」


 美味しいかと聞かれ、美味しいと答えられなかったのはいつもとは違い微妙な、草の味がしたからだ。

 よく見れば何かの葉が浮いている。


「何を入れたんだ?」


「わからない。あの旅の人に貰ったんだけど、何かの香草なんだって」


 なんだと?

 この娘は、今日初めて会った者から、しかもただで貰ったものを何の警戒も持たずに料理に入れていたのか。


 確かにあの男は信用できそうな雰囲気ではあったが、それとこれとは話が違う。


 カーノは叱ろうと食器を置き、テーブルへと手を付くが何やら身体がふらつく。


「それにしても、あの人かっこよかったな〜……私、あの人と結婚したいかも」


「何を馬鹿なことを!」


 その様子を見て、サナはくすりと笑いながら話を続けた。

 何やら娘の様子がおかしい。いくら何でもいきなりこんな話を冗談でもするような子ではない。


 カーノが怒鳴るが、サナは全く動じていなかった。

 それどころかニヤニヤと笑い出す始末だ。


「ねぇパパ。倉庫の鍵ってパパが持ってるよね?」


「あ、あぁ……」


 だんだんと意識が朦朧とし、まともな受け答えができない状態になっている。

 やはりおかしいと気付くが、カーノにはどうすることもできなかった。


 カーノの返事を聞いたサナはそっか、と頷くと立ち上がり、部屋へ戻って毛布を持ってきた。


 それをカーノへとかける。


 既にカーノはテーブルへと突っ伏そうとしていた。


「最近疲れてたでしょ? おやすみ、パパ。ゆっくり休んでね……へへっ」

 

 なんだ、ただ自分は疲れていただけだったのか。

 また娘に気を遣わせてしまったな。

 カーノは正常ではない意識の元そう納得する。

 薄れ行く意識の中、最後に見たのは娘の見たことのないニヤリと歪んだ笑顔であった。


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