14-二年後と妹?
「はい、主!」
「よしきた、それやっ!」
エンリと契約を交わしてから二年が経った。
俺が15歳というこの世界では成人である歳になった。
が、俺は今も変わらず山賊の中に身を起き、日課の薪割りへと勤しんでいた。
だが変わったこともある。
それはエンリの存在だ。
「薪割りでも、次々に置いてくれる奴がいると楽で助かるなぁ」
「アタシも、置いたら綺麗に割れる木を見てるの、ちょっと面白くなってきた」
今までは一人でやっていた薪割り。
あの時はまだ何の関心もなくただ見ていただけのエンリ。
それが今、会話を交えながら楽しくできている。これは大きな違いだろう。
身体の成長につれて疲れは少なくなってきたが、単純作業というものは精神的に来るものがある。
だがその精神をそらす先があれば、いくらか苦が感じにくくなるのだ。
エンリと契約をした後に待っていたのは、まずは山賊の一人を殺したという責任。
しかしそれはあまりキツイものではなく、むしろ感心された。
あのライクが、あのセインを殺したのか。
セインというのは、エンリを襲った男のことである。
ナイフを主に使い、毒などを用いて確実に殺していく戦い方をしていた、山賊の中では上位に入る男だ。
それをあの弱虫泣き虫、ただの荷物持ちや雑用係であるライク、俺が殺した。
すぐにその事実は俺の親父である頭へと情報届き、俺は呼び出され、三年ぶりに父と会話をしたのである。
その時言われたことは、ただ一言。
「二年後を楽しみにしている」
二年後とはつまりは成人、そして今年だ。
父はそれだけ言うと俺を払い、お咎めはとくになく終わった。
まあ他の面子には、不意打ちでもしたんだろとけっこうな暴力を振るわれたが。
だから今もこうして問題なく雑用係として精を出しているのだ。
次にエンリの過去についても聞いた。
どうやら話さないと安心できず……というよりも、誰かに聞いてもらいたかったのだろう。
自分の辛さを。
自分の頑張り。
話すということはそれだけで楽になることもある。
俺はエンリが話終わるまで、頑張ったな、と時々うなずきながら終始聞き続けた。
こういう時には下手な同情なんかよりも、まずは相手のこれまでを認めてやることが大事だと聞いたことがある。
俺が相槌代わりにそう打つたび、エンリは今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように泣いた。
俺は迷ったが、抱き締めてあげることにした。話を聞けば、親も、他の者からも恐怖と侮蔑しか向けられなかったエンリには、人の温かさというものが必要と感じたからだ。
俺なんかでは役に対して色々不足していると思ったが、エンリは受け入れて抱きしめ返してきた。
とても力強く、縋るように。
あれ以来エンリはドッペルゲンガー特有らしいポーカーフェイスで、泣き顔などは見せなかった。
そのことで弄っても軽く受け流す、さすがは模倣の達人といったところだろう。
季節は秋、10の月の半ば。
これから寒くなるにつれ、薪の需要も高まり薪を割る数も木を伐採する数も増えてくる。
太陽が真上に登っていたので、薪割りに一区切りがつけ、一旦休憩に入る。
その趣旨をエンリに伝え、俺は切り株へと腰をかける。するとエンリはとことこと俺の元によってくると、幼い少女に化けて俺の膝の上に座った。
「はい、お兄ちゃんお水!」
手に持っていた竹のようなものでできた水筒を俺に渡した後は、足をぱたぱたとさせながら何が楽しいのか鼻唄混じりに身体を揺らす。
その姿は、俺と同じく赤みがかった黒髪、肩まで伸びたふんわりとした髪は上部にカチューシャがとめてあり、元の姿のボサっとしたくせっ毛の面影が微かに残る。虹色の瞳はこれまた同じく俺の黒い瞳になっていた。
曰く、俺の妹を意識した姿らしい。
俺とは全く違いとても可愛らしい姿をしているのだが、色の特徴などでまあ兄妹と言われても納得できる程度だ。
そしてその身を包むは相変わらずの俺のボロマント。
下には麻でできた簡素な服と短いスカートを履いている。
エンリの能力は強大ではあったが、今ではその膨大な魔力を失い俺の魔力を使って生きているので、大きく魔力を消費するエンリの能力は、大したものは使えなくなっていた。
今できるのは声や姿形の模倣。
それも元の姿の自分よりも小さなものにしか化けられない。
自分よりも大きなものへ化けたりするとその分魔力を消費するので今は無理だとのこと。
だが姿形、声、ちょっとした感触等なら触れなくても模倣することが可能だ。
後は腕力や魔力、記憶の模倣。
これは相手に触れることが条件であり、さらに相手の魔力量を上回っていることで初めてできる。
これは生き物以外も同じであり、武器なども含まれる。
武器に使われる素材には大きな魔力が込められていることがあるので、硬度などまで模倣するにはやはり魔力を使う。
しかもその模倣を保存しておける数は今は二つであり、さらに他の模倣をしようとすると元の一つがなくなってしまう。
エンリの頭の中に、エンリの本とは別に本棚があり、そこに別の人や情報の模倣という本を入れていく、といった感じと俺は考えた。
そしてこのどちらも、俺の魔力が高くなればエンリも制限に縛られることなくどんなものにも模倣でき、力も扱え、保存の数も増やしていける。
エンリと契約している間は、俺は特に何も感じないが常に魔力を消費しているようなもので、人間で言えば常に走っている状態らしい。
魔法使いで言えば常に己の魔力を外に具現して魔法を放つ=エンリの存在を保つとなる。
なので二人で生きているだけで年月と共に魔力も上がっていくことだろうとのこと。
回復する魔力量は寝ていると大きく回復し、それ以外は一定。
俺と元のエンリの核を結合したおかげで人よりは早いので、今の状態で特に問題はないようだ。
化けるだけなら魔力の形を作り変えるだけなので特に回数に制限はない。
初めは力の大半を失って、役に立てないのではないのかとエンリは不安になっていたが、俺からすれば十分というかあまり関係ないので大丈夫だと頭をなでてやったらあっさり解決した。
しかし問題は別にあった。
下着だ。
エンリは下着を履いていない。
これは大きな問題であった。
特に俺が問題だ。
今は成長したのかエンリの身長は150センチほどになり、意識を持って生きてきた年月は今年で10年ということで10歳ということにした。
まあ、そういうわけで問題である。
急遽母に頼んで、母が山賊に頼んで一枚純白の下着手に入れた俺はすぐに履かせた。
これで今のエンリ、裸マントに下着一枚といった姿の完成である。
一回まじまじとその姿を見てしまったが、やはり俺の目に狂いはなかった。
純白の下着はとても似合っていた。
大変酷い姿だが、マントは大きく見を包めるほどでありフードもある、胸の辺りで結べば大事な部分も隠せるし、何よりどんな姿に化けてもボロマントと下着だけならエンリの模倣に問題がないという利点がある。
元の姿へと戻った時も楽だ。
何よりもエンリがあのボロマントを気に入っている。
というわけでボロマントと下着は実際のもの、今の俺の妹を意識した姿と服は普通の模倣といったエンリである。
服などに触れてみても特に違和感はなく、触れて模倣しなければならないのは鎧や上質な魔力の篭った服らしい。
そして服に触れてもエンリに感覚はないという。
模倣の本棚に入っているのは今はない。
服などは剥がれたりしたり身から離れると、それはすなわち魔力で模倣したものが離れるということで大きく俺の魔力を使うので注意が必要だ。
言ってしまえばエンリの身体が真っ二つにされても大きく魔力を消費するだけで死にはしない。
逆に俺が死ねばエンリもその時点で死んでしまうのだが。
膨大な魔力を有していた頃は、同時に人間と鎧、武器などを模倣して、余りある魔力の暴力で模倣したナイフや弓なども放ちそれはそれは凄いことをしていたらしい、と、エンリが胸を張って話していた。
「おう、ありがとう」
俺はエンリから水筒を受け取ると、一気に飲み干す。
くぅ〜、仕事の後の一杯の水は非常に体に染み渡り、とてもうまい!
エンリには食事や水分補給は必要なく、俺の魔力が何よりも大事なので俺が健康であることが一番。なのでエンリに関しての食料問題はなかった。
水筒を方脇に置いて、空を見上げる。
綺麗な青空。
このままの暮らしでも良いかも知れないと一瞬思ったが、頭を振って切り替える。
あくまで今の俺の俺の最終目的は母であるエイリーネを助け出すこと。
エイリーネは未だ洞穴で自由を縛られている状態だ。何年も、何年もだ。
俺は珍しい木の実を持って行ったり、前世の童話を語ったり、エンリが来てからはエンリも何かと化けては飽きさせないようにしてきたが……それも、今年で終わりだ。
「メイラックス男爵の兵が、ついに動き出す……そこが、チャンスだ」
考えていたことをそのまま声に出してしまう。
そう、メイラックス男爵……この山の最も近くにある領の領主であり、父たち山賊が襲い攫っていったエイリーネの父親である。
長らく力をため、他方の領にも援軍を呼び掛け、本格的にここの山賊を潰しにかかるのだ。
もちろん私怨もあるだろうし、エイリーネを助けるといった目的もあるが元々ここの山賊の規模はでかく、遠出などもしていたりするので他領に被害も多く出ている。
そういった意味をすべて含めての、山賊討伐である。
当然のようにその情報をつかみ、対策を練っている山賊たちも凄いと思うが、さすがに回避するのは無理だろう。
抗戦、逃げるといったどちらの選択を山賊がとっても俺には母親を助け出す策がある。
五年掛かったが、ようやく目的が果たせる。
「お兄ちゃん、そんなに笑って……顔が怖いよ……?」
む、どうやら顔に出てしまっていたらしい。
ナチュラルに俺の心を抉ってくるエンリの言葉は、純粋そうな姿の少女に言われるとさらに来るものがある。
顔は父譲り、これからもっと目つきも悪くなり、ゴツくなっていくだろう。
俺は少女の頭をワシャワシャと撫でる。
「えへへっ、くすぐったいよ、お兄ちゃんっ」
こうしていると、本当に妹とじゃれ合っているような錯覚に陥る。
いや、もうエンリも妹のようなものだろう。
俺はしばらくしてから手を離す。
「エンリ、その時はお前の力も必要になる。頼りしてるぞ」
「ん……へへ、安心して、このエンリちゃんに任せるといいよ!」
元の姿へと戻ると、そう力強く答えてくれた。
頼りにしてる、人によっては言葉の重みで負担がかかるだろうが、エンリはどうやら気合が入ったようだ。
いつだろう。
俺はその時を心待ちしながら、また薪割りへと戻った。
・エンリの模倣枠
なし
なし




