表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/110

模倣者3

 アタシの思惑通り男が足を止め、少年もアタシの元の方へと顔を上げ、目を向ける。


 真紅の長髪に純白のドレス。高身長なせいで無駄に模倣に魔力を使ってしまったが仕方ないと割り切る。


「え、エイリーネ!? お前が何でここに!?」


 男は少年から意識をそらし、アタシへと向けた。

 その意識を手放さないよう、アタシはあの女の演技を続ける。


「私のライクに手を出すなんて……回復魔法は貴方たちが何もせずとも使うわ! なのになんで!」


「へ、へへっ、待ってくれよ。これには深いわけが……」


 手を揉んでいきそうな勢いで下手に出る男。さすがに状況がまずいと気付いたのだろう。

 アタシが、偽物とは気付かずに。


「うぉおおオォッ!」


 完全に少年に背中を向け、アタシに気を取られていた隙に、少年は斧を持って男の首へ斧を振りかざした。


「がハァっ!」


 斧はそのまま骨を砕く大きな音を立てながら男の首を切断し、斧は少年の手から離れてしまう。


 勢いよく、男の首から噴水のように四方八方へ飛び散る血。

 やがて勢いが収まると、湧き水のようにどくどくと赤い液体が流れ、その体は倒れた。


 人の死ぬところなんて見慣れたものだ。

 何も感じない。

 感じるのはただ、少年が助かったという喜びだけだ。


 ドサリっ。


 魔力がもう残り少ないのだろう。

 アタシは力なく倒れてしまった。


 それに急いで駆けつけてくれる少年。


「大丈夫か!?」


 背を持って抱き起こし、声をかけてくれる。

 大丈夫かって、アンタの方が大丈夫じゃないじゃん。もっと酷いのに、アタシのことなんかを優先してさ。

 なんだか可笑しくて、アタシは初めて、笑った。


「誰かのために生きる……アタシも、できたかな」


 貴方の役に立てたかな?

 恥ずかしくて、そうは聞けなかった。


「あぁ! あぁ! お前のおかげで俺は助かった! お前の力で俺は助かった!」


 が、少年は大袈裟すぎるくらいに、それも大声で言う。ああ、それなら良かった。

 好きな人の役に立てる。嬉しい。嬉しいって、こんな気持ちなんだ。


 アタシが浸っていると、少年は本当に優しい声で。


「ありがとう、エンリ。本当に、ありがとう」


 最後に、そう言い終えた。


 瞬間、模倣がとけ、姿へと戻る。


 ありがとう。

 初めての感謝の言葉。

 アタシのしたことが認められて、それが役に立ったって証拠。

 それのお礼。

 初めての……役に立ちたいって思った人からの、初めてのありがとう。


 アタシは泣いていた。

 それはもう止まらないほど涙を流して。


 あはは、涙も魔力でできてるんだから、消えるのが早くなっちゃうよ。


「えへへ……そっか……そっか……」


 アタシは何度も少年のありがとうという言葉を頭の中で何回も浮かべる。


 なんとか忘れていた笑顔で返すと、少年もまた涙を流していた。


 本当にわからない人だなぁ。


 興味の尽きない人。

 自分に生きることを教えてくれた人。

 自分に喜びを教えてくれた人。

 アタシが初めて、この人のためになりたいって思った人。


 さっきの模倣で力を使ってしまったのだろう、身体が消えかかっているのがわかる。


 ようやく死ねる。

 なんて思わない……生きたい。

 アタシは生きて、この人の役に立ちたい!


 すると少年はアタシを背負って、血反吐を吐きながら歩みをすすめる。

 自分も限界が近いのに、本当に、本当にこの人は……!




〜〜〜




「大丈夫」


「契約は当人、当霊の合意だけ。私は見てるわね」


 目を覚ましたアタシは、いつの間にかまた少年は抱きかかえてられていた。

 ……やっぱり、温かい。

 でも、何やら少年は真剣な顔をしている。


 アタシとの契約の話だろう。

 確かに契約すれば、アタシは助かる。


 アタシも、黙って見つめ返した。


「エンリは、生きたいか?」


 アタシは、死にたかったのに。

 前の自分を殴りたい。


 少年の問いに対する答えは、とっくのとうに決まっている。アタシは笑った。

 でも、不安もある。


 少年はまだアタシのことを完全に知っているわけじゃない。

 知っていくうちに化物と恐れていくかもしれない。


 それは、今まで感じてきた中で一番の恐怖だ。

 笑顔でいたアタシは、キュッと顔を引き締めると、ぽつりぽつりとなんとか話し始める。


「アタシは、貴方が知ってるドッペルゲンガーじゃない。全く違う、別物かもしれない化物。そんなアタシでも……契約してくれるの?」


 声が自然と震える。

 この人だけには拒絶されたくない。

 でも、本当のアタシを受け入れてほしい。


 そんなアタシのわがままに――少年は、即答した。


「あぁ、当たり前だ! 俺はエンリに助けられたし、その力に助けられた。それにほら見ろ、よっぽど俺の顔のほうが化物に近いぞ!」


 最後には冗談を混じえるくらいに。

 少年は迷わず大声で言った。


 ああ、この人は。

 アタシをアタシとして見てくれてる。


 溢れる涙が止まらない。

 この人とずっと一緒にいたい。

 ずっと一緒に生きたい。

 この人の役に立ちたい。


「貴方、は……あたじを、必要としてくれる……?」


「あぁ、俺はエンリが必要だ」


「あた、じを……認めてくれる……?」


「もう十分認めてるさ。エンリの力も、エンリ自身のことも」


 涙ぐんでいるせいで、声はくぐもり、途切れ途切れになっているアタシの質問に、少年は真摯に答えてくれた。


 もう。


 アタシは手で涙を拭う。

 もう迷わない。死にたいなんて思わない。


 だから、力強く答えた。


「アタシは……生きたい。あなたのせいで生きたいって思った。だから――」


 少年の背中へと手が回し、抱きつくような形になる。

 ……核が熱いのは、契約を今行っているからだろう。


 動揺している少年に、黙ったまま密着する。少年の上半身は裸であり、肌と肌の触れ合いがどうにも温かい。


 やがて契約も終わる。

 全てを捧げた契約だ。

 この人が死ねと言えばアタシは死ぬ。

 そんな契約。

 それでも構わない。


「へへ、よろしく、主!」

 

 これからは模倣して記憶やどう思ってるかを知ることはできない。

 けど、そんなことを言う人ではないと確信しているから。

 アタシは少年……ライクのことを主と呼んだ。


 生涯のアタシの主。

 ドッペルゲンガーのアタシが、人間の完全に下につく契約をするなんて思ってもいなかった。


 だけど、心がとてもすっきりしていて、清々しい。


 消えてしまっていた肩は完全に治っている。

 少年の魔力量は並であるが才能はある。

 このままいけばどんどん増えていくだろう。


 アタシにつけた名前の意味を聞いたが、返ってきたのは充実、という意味だった。

 アタシの人生が充実するようにって。


 うん、良い名前。

 主はアタシの人生が充実するようにって意味でつけたけど……エンリは、ライクの人生を充実させる。アタシはそう決意して名前を受け入れた。


 この人にさえ認めてもらえれば、他は何もいらない。

 この人のためだけに生きる人生……それがアタシの好きなこと、喜び。

 へへ……そういう人生もありだよね、主!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ