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登校して既に何だかんだとあった奏と凛。だが二人の交際の影響は、放課後さらに顕著に表れた。
まずは凛。いつも校門で出待ちする女子生徒が通常の倍になり、まるで組織だったような統率感がある。
奏の終わる時間に合わせ校門を出れば、目を引くほどの愛らしい女子高生が凛の前に立った。
「何?」
早く奏に会いたい凛。行く手を阻まれ、不機嫌な表情と冷たい声に女子高生の肩がびくりと震える。
なまじ美しいと、怒った時にすごみが増すようだ。
だが眼の前の女子高生は凄まれた事などものともせず、媚びた笑みを自慢のその顔に浮かべ凛を見上げた。
「綾瀬君、今朝の女性とはどんな関係なの?」
「は?見ず知らずの赤の他人に、なんで言う必要がある?」
至極当然な反応である。だが、彼女等にとっては誰のモノにもならないと思っていた凛に、女ができた・・・・
彼女等の勝手な思い込みは、相手に対しての嫉妬と羨望、そして凛に対する失望感しか生まれない。
だが中には、自分も恋人になれるのではという、期待感も生まれた事も事実だ。
彼女等の勝手な感情を押し付けられる凛にしてみれば、いい迷惑だ。ましてや自分達の都合を押し付けてくる。
特に今の様に急いでいる時は、殺意しか湧いてこない。
あぁ・・・早く奏の安否を確認したい。
ただでさえ、陵介に言われた言葉が胸に刺さって、一日中落ち着かなかったというのに。
『彼女等の良くない感情が恋人に向かわないといいけど・・・まぁ、凛を奪った方に向かっちゃうのが、小説でも漫画でもあるあるな事だよな』
何があるあるだ。俺が誰と付き合おうと、他人に関係ある事なのか?しかも奪ったとはなんだ。俺はモノか何かなのか?と、憤っていたがその反面、心配でたまらなかったのだ。
自分の思考にどっぷりつかっていた凛は、話を聞いていなかった。
「で、何の用?」
面倒臭そうに言い放つ凛に、女子高生は顔を真っ赤にし狼狽える。
凛は全く聞いていなかったが、見ず知らずと言われた目の前の女子高生は自己紹介と、自称華やかな経歴を自慢げに語り、そして凛に告白していたのだ。
「用が無いんなら、そこどいてくれない?邪魔なんだけど」
断られるなどありえないと、根拠のない自信を持っていた女子高生ーー安藤きらりの自尊心が傷ついた瞬間だった。
きらりは男子達に人気があった。街でスカウトされティーン向けの雑誌の読者モデルもしており、そこそこ顔も売れていた。
幼少時から愛らしい容姿だった所為か周りにちやほやされて育ち、現在も学生に限らず男性達からは告白される事など日常茶飯事。
名前負けしないほど自分はきらきらしているのだと自負している。
そしてこれまでの経験上、どんな仕草が、どんな表情が、どんな言葉が男達の気持ちに刺さるのか。彼女は熟知していた。
これまで誰にも靡かなかった凛に彼女ができたらしい・・・
そんな話を聞き、ならば自分が声をかければ自分の事を絶対に好きになると、訳のわからない自信、痛々しいほどの自惚れから凛に告白をしたのだ。
綾瀬凛には、そんなものなど通用するわけがないのに。
断られる以前に、話すら聞いていなかったという事実に、恥ずかしさからなのか怒りからなのか、ブルブル震えるきらり。
用はないのだろうと、彼女の脇を急ぎ足でする抜けようとすると、「綾瀬君!」と引き留めようと叫んだ。
「はぁ・・・何」もう、不機嫌さMAXで、声も低い。
びくりと震えるきらりだったが「まだ、返事もらってない!」と、食らえついてくる。
凛の表情から、誰が見ても見込みがない事は明らかなのに。
「なんの返事?」
「綾瀬君が好きなの!私と付き合って!」
先ほどとは違い、庇護欲を誘うかのように潤んだ瞳で上目遣いに凛を見つめてきた。
あぁ・・・くだらない・・・
凛が感じたのは、そんな感情だった。
誰かが誰かに好意を抱くことに自分は興味がなく、好きにすればいいと思っている。
それが例え凛に向いていたとしても。
だがそれが勝手に凛の人格を決め付け、「そんな人だと思わなかった」だとか「やさしい人なはずよ」だとか、相手が勝手に作り上げた自分の理想の人物像にはめ込もうとする。
目の前の彼女もみるからにそうだ。
いかにも、自分が告白すれば必ず頷くだろうという、傲慢さがみてとれたから。
だから当然返事は決まっている。
「嫌だけど」
瞬殺である。奏以外など、問題外だ。
「返事したし、もういい?」
そう言って、奏の大学へ向けて急ぐように歩いて行った。
その無情な光景に、見守っていた女子達の間に、当然かな・・・と言う空気が流れる。
フラれたきらりの事は気の毒だとは思うが、元々彼女は女子に対する態度と男子に対す態度があからさまに違う事が有名で、女子全般から嫌われていたのであまり同情はされていなかった。
自分に振り向いてもらえるなどという妄想からの暴挙でもあり、自業自得だと。
なかには『ざまぁないわね』と溜飲を下げる者もいるくらいだ。
フラれた現実を受け止めきれず、呆然と立ち尽くすきらりを横目に、野次馬達は蜘蛛の子を散らすように静かに解散し始める。
彼女の告白に、凛が少しでも反応を見せたら自分も告白しようと思っていた女子数人は、脈ナシだと諦め。
噂には聞いていたが、凛のあまりの冷たさに引き気味の女子と、そこがまたたまらいないという女子が、喧々囂々と意味のない意見を交わし合い。
心の奥底では凛の目に留まりたいと思いながらも、野次馬に徹していた女子も自分が目が留まるなんてありえないよねと、残念そうに溜息を吐く。
そんな女子達の中でも、どうしても諦めきれず凛の彼女を確かめようと後を追うように数人の女子生徒が静かに移動する。
その波の中には早川萌も混ざっていた。
感情もあらわに言葉を発する綾瀬凛を初めて見た萌は、彼が生身の人間なのだと改めて感じ胸が高鳴るのを押さえる事が出来なかった。




