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バタバタと騒々しく走っていく加奈達の後ろ姿を眺めながら、奏はホッとしたように古都美に抱きついた。
「ことちゃん、ありがとー!もうちょっとでキレるとこだったー!」
「なんだ、奏がキレるんだったら私余計な事しちゃった?」
「まさか!ことちゃんだったからあの程度で済んだのよ。私だったら、もう完膚無きまでやっちゃうから・・・まずいでしょ?」
見た目とは裏腹に、奏は容赦ないところがある。自分でも自覚しているので、あの手の人間とは関わらないようにしているのだが、向こうから絡んでくるのだから例え再起不能になったとしても自業自得である。
「おぉ、怖い怖い」と笑う古都美だが、急に真面目な顔になり「綾瀬凛と付き合ってるってホント?」とぶっこんできた。
「うん、そうだけど。なんで、凛と付き合うだけでそんなに騒がれるの?ってか、なんでみんな凛の事知ってるの?」
奏は本当に分かっていないようで、首を傾げる。
大学でも凛は当然有名だ。ただ単に、奏が興味を向けなかっただけで。
高校生の時は、隣の市に住んでいた古都美。なのに、凛の噂だけは知っていた。実物を見たのはこの大学に入ってからだったが、噂に違わず美形だと衝撃を受けた事だけは鮮明に覚えている。
同じ人間なのに、こうも違うのか・・・・と、落ち込んだものだ。
まったくわかっていない奏に、古都美は飽きれたように溜め息を吐いた。
「あの綾瀬凛だよ?まるでモデルか何かの様なスタイルに、あの美貌。少なくても女子だったら、学校年齢関係なく皆彼に憧れてるわよ」
そこまで?・・・・その手の話には興味がなかった奏には、正直なところ信じられなくて困惑しかない。
確かにカッコ良すぎるほど凛はカッコ良いし美しい。でも、メディア関係に顔を晒した事はないはずだ。
いくらカッコいいからと、これほどまでに騒がれるものなのか・・・・奏には分からない。
「綾瀬凛もだけど奏、あんたもそこそこ有名人よ」
「え?マジ?」
「マジ。だから小松加奈の撒餌にされてたんじゃない」
「撒餌・・・・なかなか辛辣・・・」
「あんたが回りに興味なさすぎるのよ。私が綾瀬凛の噂を聞いたのは、彼が中学生の時だからね」
まじかー・・・と、古都美に言われ、反省する奏。
まぁ、高校は各地域から生徒が集まってくるから、ネットで拡散されていくんだろうけど・・・
なんだか、想像以上で怖いわね・・・・凛は大丈夫かしら・・・
アスモデウスに影響を受けていなくても、女性の思い込みや嫉妬は怖い。そこに付け込むのが、悪魔なのだが。
そんなことを考えていると、携帯にメッセージの着信があり画面を見れば、凛から。
奏を心配する言葉に思わず、口元が綻ぶ。
すぐに返事を返せば、今度は『もう、会いたくてたまらない』という旨の内容が送られてきて、愛おしさ半分、心配半分でてたまらす『私もだよ』と返す。
だって本当に心配なんだもの。まさか、こんなに影響があるなんて・・・・私と付き合った事で何かあるかもしれないと思うと・・・
目の前で女に組み敷かれていた凛を思い出し、思わず表情が険しくなる。
凛を守る為にシロには気合を入れないといけないわねと、先ほどまでの不快な加奈の囀りもすでに記憶の彼方。
凛の事ばかり考え早く帰りたいと溜息を吐いた。




