赤月さん、巫女装束を着る。
大上君の叫びは、そのまま続きます。
この場所が周囲に隣家がない一軒家で本当に良かったです。
「赤月さんの純真過ぎる愛らしさと巫女装束の清廉さと高潔さが合わさり、目がやられてしまう程に恐ろしいものが出来上がっているよぉぉ!」
そう言って、大上君は両手で顔を覆い隠しつつも、その隙間からしっかりとこちらを見ていました。
「掛襟によって、白い首元が際立っている……何という造形美……。緋袴に仕舞われた白い小袖による腰回り……。袖から出る細い手……うっ……。白と緋色の黄金比が美しすぎる……」
「え、えっと……」
「千早も着せたい……! 赤月さんの可憐さに更なる神聖さを加え、一生愛でていたい……! とりあえず、写真に撮ってもいいかな!? 百枚くらい! 現像して部屋中に飾るからっ!」
「せめて十枚くらいにして下さい」
「そんなっ、どうか慈悲をぉぉっ!! だって、赤月さんの激レア衣装だよ!? 巫女装束だよ、巫女装束! うぅっ、絶対似合うと思っていたけれど、生で見るのは想像以上過ぎて心臓が追い付かない……。尊い……これが尊いという気持ち……。……どうしよう、今後のために個人的に赤月さんサイズの巫女装束を購入しておこうかな……」
想像力と語彙が豊富ですね、大上君。
一方で、彼のお姉さん方は完全に引いております。
「うへぇっ……」
「我が弟ながら、最高に気持ち悪いわ……」
「私達も恋人に対して、彼の全てを絶賛することはよくあるけれど……」
「ここまでではないわね」
大上君の言動に引いているお二人に向けて、大上君は小さく睨みます。
「姉ちゃん達だって、好きな人が恋人になった時には三日三晩、お祭り騒ぎの宴三昧だったじゃないか!! 俺が今、どんな気持ちを抱いているか分かるだろう、同じ血が流れているならば!」
「それはまぁ、分かるけれど」
「でもねぇ……本人の目の前で瞳を爛々と輝かせつつ、更に頬を紅潮させながら、つらつらと感想を言える伊織の変態度合いは天元突破しているわ」
「……で、心の奥に隠している本音は?」
「自分の手で一枚ずつ、衣を脱がしたい」
「うっわ……」
「いっそ清々しいわぁ……」
詩織さんと花織さんは大上君の言葉にどん引いているようです。
確かに発言自体はかなり、まずいものが含まれていますが大上君は私に許可なく、嫌なことはしないと分かっているので、いつも通りだなぁと思ってしまいました。
これは大上君の変態さに絆されてしまったのか、それとも脳が麻痺して慣れてしまったのでしょうか。
「千穂ちゃん、こいつに嫌なことをされそうになったら、問答無用で股間を蹴り上げるのよ」
「後ろから抱き着かれそうになったら、踵で足の甲を思いっきりに踏むのよ」
「は、はぁ……」
何故か変質者に対する護身術的なものを教わっていますが、真顔なお二人に同意するように、白ちゃんとことちゃんも腕を組んで深く頷いていました。
「それにしても、どうしてこうなったのかしら……」
ふぅ、と深い溜息を吐きながら詩織さんは目を細めつつ大上君を見据えます。
「でも、高校生の時まで、何をやっても関心を持たない子だったから、今の方がましなのかも……」
「そうね……。あの頃の伊織は反抗期、そして今は変態期……いいえ、発情期と言ったところかしら」
「あら、詩織。良い表現ね」
「でしょう」
頷きあう双子のお姉さん方に、大上君が吠えました。
「姉ちゃん達は俺のことを何だと思っているの!! そりゃあ、まぁ、赤月さんを目の前にしたら色々と抑えているけれどさぁ!」
大上君、正直ですね。
おっと、ことちゃんが私の一歩前に出て、冷めた瞳で大上君を見つめています。
「──とにかくっ! 赤月さん、巫女装束、すっごく似合っているよ!」
きらきらの瞳で大上君が真っ直ぐにそう言ってくれたので、私は小さく笑ってからお礼を告げます。
「ありがとうございます。……まだ、慣れていないので少しだけ歩きにくいのですが……」
「うっ……。赤月さんの照れ顔……ありがとうございます……ご褒美です……」
胸を抑える大上君に、白ちゃんが盛大に肩を竦めました。
「ほら、伊織。僕達はそろそろ部屋から出よう。夜に女の子達の部屋に長居するのは紳士として、いただけないことだよ?」
そう言って、白ちゃんは大上君の襟元を掴み、後ろへと引っ張り始めます。もう、扱いに手慣れている感じがしますね。
「そんなぁっ……! せ、せめて写真を撮ってから……! 一枚だけでもぉぉ!」
「はい、はい。今日は試着なんでしょ? それなら、次の機会に撮ろうね。……それじゃあ、僕達はこの辺りで。おやすみなさーい」
「はーい、おやすみなさい」
「おやすみー!」
「お、おやすみなさいです……」
私は白ちゃんに引っ張られていく大上君に向けて、小さく手を振りました。
「うわぁぁん、赤月さぁぁんっ!」
「ま、また今度……ゆっくりと撮って下さって、構いませんから……」
「約束だよぉおおおっ!」
大上君の声が家中に響きました。
そろそろ夜の八時を過ぎているので、他のご家族にも配慮した方がいいと思います。
「……千穂ちゃんは懐が大きいなぁ……」
大上君達を見送った後、花織さんがぼそり、と呟きます。
「弟のあれを見ても、拒絶せずに受け入れているって……もしかして、他に何かされた!?」
「い、いえ……。大上君は……私が本当に嫌がることはしないと分かっているので……」
一度走り出したら中々止まれない変態さんですが、それでも優しい人だと分かっています。
「うぅっ……こんなにも優しくて心が広い子が弟を選んでくれるなんて……奇跡と呼ぶに相応しい……。それに弟のあんな姿を見ても、何も変わらずに友達として接してくれる小虎ちゃんと真白君、優しいよぉ……。何て恵まれているの……うぅっ……。お姉ちゃん、嬉しい……」
「伊織、ひどい時期は家族でさえも無視、無言、無関心だったからね……。感情が成長するって素晴らしいわ……」
両手で顔を覆う詩織さんの肩を花織さんはぽんっと優しく叩きます。
大上君、一体どのような反抗期を過ごしていたのでしょうか……。
少し気になりますが、自身の過去を知られたくはない場合もありますし、大上君が自ら話そうとしない限り、問わないようにしたいと思います。
その後は、歩き方や座り方、白の小袖と緋色の袴の畳み方をお二人から教わりました。
慣れないことなので色々と手間取ってしまいましたが、短時間の練習にしては上達した方だと思います。
次に巫女装束を着る際には、自分で着るのに挑戦したいですね。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
おかげさまで、「大赤」、200話到達致しました!
更新は相変わらず不定期で申し訳ありませんが、
これからも少しずつ更新していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。