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赤月さん、御神木を見つける。

  

 大上君からお饅頭をいただき、皆でわいわいと食べ終わった後のことです。

 少し休憩してから再び、大上君による神社案内が始まりました。




「……あれ?」


 私は周囲を見渡します。周りには誰もおらず、一人になっていました。


 いつの間にか、神社の奥の方まで歩いてきてしまっていたようです。神社内を見学するのが楽しくて、他の皆を置いて、一人で黙々と歩いてきたのかもしれません。


 私の周囲には樹齢数十年と思える木々が立ち並んでいます。

 どれも、どっしりと根を下ろしていて時折、枝の剪定がされているのか、真っ直ぐ空に伸びるように立っています。


「うーん……。空気が澄んでいて……涼しいなぁ……」


 木々の隙間から夏の日差しが零れていますが、それでも身体の横を吹き通っていく風はとても爽やかで涼しいものでした。

 とても心地いい場所で、私はすぐに気に入りました。


 ふと立ち止まって、後ろを振り返ります。そこには木々の隙間を通る、細い道が神社の方へと続いています。


 ここまで一本道なので、いざ戻るとしても迷うことはないでしょう。それに木々の隙間から、神社の建物が見えますし。


 それよりも気になるのは今、歩いている道がどこに続いているのか、ということです。


 私が気付いていないだけで、道案内の看板か立て札はどこかにあったのかもしれませんが、この道の先を辿っていけば、どこかに辿り着くのかもしれません。


「……でも、どうして」


 そんな疑問をふと、口にしてしまいました。

 私はこの場所に訪れたことなど、一度もありません。


 それなのに──心の奥が騒ぎ立てるのです。

 この場所が、ひどく懐かしい場所であると、訴えてくるのです。


「……」


 このまま、先に進んでしまってもいいのでしょうか。


 もしかすると、私がいなくなったことで大上君達が探しているかもしれません。

 もし、この先が気になるならば、一度戻って大上君にここへ行きたいと話をしてから、再び訪れた方が良いかもしれません。


 ですが、ここは参拝者の方ならば誰でも通っても良い小道となっているようで、どこにも「関係者以外立ち入り禁止」といった立て札は立てられていません。


 そして、まるで「おいで」と誘っているように、私の後ろから吹いた風に背中を押されました。

 私は少し思案し、そして──何かに引っ張られるように先へと進みました。




 歩いて、歩いて、はっと気付けば目の前には一つの言葉では言い表せないほどに大きな木が立っていました。


「……うわぁ……大きいなぁ……」


 そんな感想しか出ない自分が恥ずかしいですが、本当にそうとしか言いようがありませんでした。


 これまで見てきた樹木の中で一番樹齢を重ねているのではないのでしょうか。幹も一人、二人が手を繋いで囲んでも足りないほどに太いです。


「あっ、そういえば大上君が樹齢三百年の御神木があるって言っていたけれど、この木のことかな?」


 もしかすると、この後に案内する予定の場所だったのかもしれません。一足先に来てしまったことを後で謝らないといけませんね。


 どうやら御神木の近くまで寄れるようです。

 触れるようなことはしませんが、間近で見てみたいと思った私はゆっくりと御神木へと近付きました。


「う、ん……? 何だか、今までと比べて不思議な感じがするけれど……」


 もしかして、ここはいわゆる「パワースポット」という場所でしょうか。

 

 ですが、形容しがたい力が身体の底から湧いてくるような感覚はしません。

 感じるのは──そう、既視感ともいうべき、奇妙なものでした。


「あ……」


 私は御神木の真下に石材で作られた小さな祠が建っているのを見つけます。


 祠の目の前にはお饅頭が載ったお皿と湯飲みが置かれていますが、随分と新しいお供え物のようです。

 私よりも先にこの場所へと訪れて、誰かがお参りしたようですね。


 祠の中を覗き込んでみれば、そこには小さな石像が佇んでいました。


「これは……『狼』?」


 先程、神社の鳥居の近くに建っていた狛犬──ではなく、狼の石像とそっくりです。

 ですが、あの石像と比べるとこちらの祠の中に佇んでいるものの身体は白く、そして凛々しさを感じますね。


 姿は凛々しいというのに、狼の石像の瞳はとても温かで、優しいものが含まれている気がしました。


「あ、れ?」


 気付けば、私の右目から涙が一滴、落ちていました。


 自分でもおかしいと思います。

 目にごみが入ったわけでも、あくびをしたわけでもありません。


 ただ、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に陥り、いつの間にか泣いてしまっていたのです。


 その場には自分以外に誰もいないというのに、涙を見られたくはなくて、私は焦るように右手で目を擦ります。



 その時でした。



「あらあら……。目を擦っては駄目ですよ。せっかくの可愛いおめめが腫れてしまいますよ」


「え……」


 自分以外の声がその場に響き、驚いた私は急いで後ろを振り返ります。


 少し離れた場所の大きな石の上にちょこんと座り、こちらを見ていたのは白い割烹着を着ているおばあさんでした。



  

 

忙しさにより、更新が不定期になってしまい、申し訳ございません。

どうぞ宜しくお願い致します。

 

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