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赤月さん、連投に赤面する。

  

 大上君のお母さん──伊鈴さんは、本当に大上君のお母さんなのかと思ってしまうほどにおっとりとした人でした。

 ほわほわとお花が周囲に咲いているように緩やかな空気がこちらへと伝わってきます。とても優しそうな雰囲気な方ですね。


「お名前を教えてくれて、ありがとう。……伊織に訊ねても、言葉を濁してばかりで、中々教えてくれないから、困っていたの」


「……母さん」


 大上君が苦いものを食べたような顔で、伊鈴さんに苦々しい視線を向けています。

 ですが、伊鈴さんは大上君のそんな視線を微塵も気にすることはありません。


「こんな形になってしまったけれど、伊織の彼女さんとお友達に会えて、良かったわ。一度、ちゃんとご挨拶しておきたいと思っていたの。……この子、ちょっと変わっているから、気心知れたお友達が少ないのよねぇ。地元に帰ってきても、高校までの同級生と遊ぶなんてことも全くないし。……なんというか、他人にあまり興味を持たない子だったから。だから、あなた達が伊織と仲良くしてくれて、とても嬉しいの」


 伊鈴さんは右手を頬に添えつつ、ふぅっと深い溜息を吐きつつ、大上君の方に視線を向けます。

 大上君は気まずそうに視線を逸らしていました。


「ねえ、良かったら伊織が大学でどんな風に過ごしているのか、教えてくれないかしら? 伊織に聞いても、顔を顰められるだけで教えてくれないのよねぇ。照れ屋だから」


「ちょっ……母さんんんんんんっ!? やめてよぉぉ!! なんで、そんな話を俺の目の前でやるのぉぉ!?」


「この子、家だとずーっと、ぶすっとした機嫌が悪い顔をしたままなの。でも、あなた達の前だと、ころころと表情が変わって……。年相応の男の子みたいなところもあるのねぇって、思ったの」


「やめてぇっ! ここで公開処刑しないで! 俺の精神が死ぬ! 別に機嫌悪かったわけじゃないからぁっ! 実家に帰るのが面倒だったのに無理やりに帰らされたことに対する反抗だっただけで……! そんな態度を取っていたことは謝るからぁっ!」


「それに毎晩、にやにやと楽しそうに自室で電話……」


「かああぁさぁああんんんんっ!? いつのまに見てたのぉぉっ!? ねぇ! やめよ? この話、やめよう? ねえ!? 誰が得するの!? ねぇっ、ほらっ、車に乗ろうよ! 早く三人を家に連れて行こうよぉぉ!」


 にこにこと楽しそうに笑っている伊鈴さんの隣で悲壮な表情を浮かべながら大上君は訴えています。


 伊鈴さんの印象はおっとりとしたものだったのですが、大上君を愉快げにからかう様子は、最初に抱いたものからかけ離れていました。

 息子をからかうのがよほど、楽しいのでしょう。


 一方で大上君は顔を真っ赤にしたまま瀕死の状態になっていますが。


 中々に珍しい光景なので、私だけでなく白ちゃんやことちゃんも少し目を丸くしていました。

 あ、白ちゃんがこっそりとスマートフォンを取り出して、顔を真っ赤にしている大上君の写真を撮りました。……その写真、あとで私のスマートフォンに送って欲しいです。


「ふふふっ……。それじゃあ、そろそろ車へと向かいましょうか。家まで車を使って、三十分くらいの距離があるのよ。ここは暑いけれど、家がある場所は山と川が近いから割と涼しくて、過ごしやすいはずだから、安心してね」


「あ、はいっ。お邪魔いたします」


「よろしくお願いいたします」


 こっちにおいでと伊鈴さんが手招きしてきたので、私達はその後ろへと付いていきます。


「……大上君? 大丈夫ですか? 行きますよー?」


 私は後ろを振り返り、涙目になっている大上君へと声をかけます。


「うぅっ、赤月さん……」


 涙目でぷるぷると震えている大上君は、まるで叱られた大型犬のようです。

 お母さんにからかわれたことがよほど、恥ずかしかったのでしょう。頬だけでなく、耳まで真っ赤なままです。


 そんな様子が可愛くて、私は思わず、くすっと笑ってしまいました。


「大上君、お家だと結構、無愛想な感じなんですね」


「うぐっ……。だって、家族に愛想よくする理由もないし……赤月さんもいないし」


「ふふっ……。大上君の意外な一面、発見……ですね。猫を被っていない大上君も見てみたいです」


「うぅ……。恥ずかしい……。なんだ、これ……めちゃくちゃ恥ずかしい……」


「……まぁ、その気持ちは分かります」


 ですが、これ以上、からかうのはやめておきましょう。このままで大上君は顔を真っ赤にしすぎて、溶けてしまいかねないので。

 私は少しだけ背伸びしつつ、右手で大上君の頭をよしよしと撫でました。


 私の当然の行動に大上君は驚いたようで、瞳をぱちくりと瞬かせながら、こちらを凝視してきます。


「でも、私は……私の知らない大上君を一つ、知ることが出来て、とても嬉しいです」


 真っ赤になっているところも可愛いなぁと思いつつ、更によしよし、と頭を撫でていけば、大上君はわなわなと震え始めて、そして頭を撫でていた私の手をがっしりと掴みました。


「赤月さんっ!」


 恥ずかしさによる頬の赤みは一瞬で治まっていました。そして、急に真剣な表情をしていますが、一体どうしたのでしょう。


「は、はい?」


「結婚しよう」


「唐突過ぎませんっ!?」


「前々から常に思っていることだし、むしろ初めて君を見た時から思っていたくらいだし、唐突じゃないよ!」


「そういう意味で言っているわけではありませんっ!」


 今度は私の方が顔を赤らめる番でした。というか、ここは往来ですよ。大上君は人の目を気にする、ということを知らないのでしょうか。


「はっ、そうだよね……。まずは赤月さんの御両親にご挨拶に行って、そして俺の嫁だということを大上家の人間に紹介して……。式の日にちや場所も考えないといけないね。やることはたくさんあるね……!」


「順番について指摘しているわけでもありませんからね!? ほら、もう行きますよっ! 皆、車の方に向かっているのに、私達だけ置いて行かれているではありませんかっ」


 私は握られていた手を無理に離してから、大上君に背を向けます。そして、車が駐車されている方に向かって速足で歩き出しました。


「あっ、待ってよ、赤月さーん! ちなみに俺は赤月さんには白無垢もいいと思うけれど、やっぱりドレスも似合うと思うんだ! せっかくだし、どっちも着るというのはどうだろうか!」


 慌てたように追いかけてくる大上君の声が聞こえましたが、無視です。何故なら、頬が熱いからです。


 全く、大上君はこっちの気も知らないで、真っ直ぐな言葉を連投してくるので困ります。今から、大上君の家に向かわなければならないというのに表情が戻らなかったらどうするんですかっ。


 私はどうにか平常心を取り戻そうとしばらくの間、心の中で必死に素数を数えていました。


 

 

ついにこの日がやってきました。

詳しくは活動報告を読んでいただければ、と思います。

どうぞ宜しくお願いいたします。

 

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