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赤月さん、実家を出発する。

  

 日にちが経つのは本当にあっと言う間で、とうとう実家を出発する日を迎えました。

 ゆっくり過ごせたような、毎日色々と忙しかったような、そんな気分です。


 お母さんの運転で、白ちゃんとことちゃんも一緒に車に乗せて、最寄りの駅へと送ってくれるそうです。

 なので、家族の見送りは実家までです。


 特に妹の雪穂は私に抱き着いて、「次は冬休みに帰って来てねぇぇ! 絶対だよぉぉ! お姉ぇぇちゃぁぁぁん!!」と若干叫びつつ、可愛い額を私の胸へとぐりぐりと押し付けてきました。

 どうやら心底、寂しがっているようで、目元がちょっと赤いです。


 弟の千明は「次は抹茶のバームクーヘンがいい! 分厚くて、でっかいやつ!!」とお土産を催促してきました。ちゃっかり、自分の要望も入れています。

 本当に食い意地で生きていますね、この子は。まぁ、成長期なので食べ盛りなのでしょう。

 次も美味しいお土産を買ってくるつもりなので、ぜひ楽しみにしておいて欲しいです。


 おじいちゃんとおばあちゃんは私の頭を撫でつつ、しっかりと食べて、元気に過ごすんだよ、健康第一だよ、と言ってお小遣いを持たせてくれました。

 とても嬉しいのですが、何だかもったいなくて使えないですね……。大事に、大事に使わせて頂きたいと思います。


 お父さんはお仕事の時間が早いので、朝一でお別れを済ませました。

 少し泣いているように見えたのですが、まさかその顔のままでお仕事に行ったわけではありませんよね?



「──千穂。真白君と小虎ちゃんが来ているわよー」


 私が玄関先で靴を履いていると、先に外に出て、車庫に入れていた車を出していたお母さんから声がかけられました。


「い、今、行くっ……」


 大きな荷物を抱えた私は、くるりと後ろを振り返り、見送りをしてくれている家族に向けて、明るく言いました。


「それじゃあ、行ってきまーす!」


「いってらっしゃい、千穂ちゃん」


「身体に気を付けるんだぞ」


「お姉ぇぇちゃぁぁぁん!」


「お土産! お土産宜しく、姉ちゃん! 絶対、買ってきて!」


 家族からの別れの挨拶を受けて、私はそのまま玄関の外へと出ました。


 門の内側には、よく我が家に遊びに来ていたことから、幼馴染の二人が慣れたように入ってきていました。

 白ちゃんとことちゃんは私を見るなり、右手を軽く挙げます。


「やあ、おはよう」


「千穂ぉっ!」


「わふっ!?」


 つい一週間ほど前に会ったというのに、ことちゃんはいつも通り、私へと抱き着いてきました。


「はいはい、小虎。そのあたりにしておきなよ。見ているとかなり、暑苦しいから。それに渡すものがあるんでしょ?」


「……あ、そうだった。駅まで美穂おばさんにお世話になるから、ついでに朝に収穫したばかりの野菜を持っていけって言われていたんだ。ほいっ、とれたて新鮮夏野菜!」


「わぁ、ありがとう! お母さんに渡しておくね」


 ビニール袋に山盛りに入れられた野菜は恐らく、ことちゃんのお家の畑で収穫されたものなのでしょう。


「三人ともー。準備は出来たかしら?」


 声がした方に視線を向ければ、車庫から出した車の傍に立っているお母さんが「おいで、おいで」と手招きしています。

 どうやら、向こうも準備が終わったようですね。


「はーい、今、行きまーす!」


 私達はすぐにお母さんが待っている場所へと駆け足で向かいました。


「お邪魔します、美穂おばさん」


「宜しくお願いしまーす!」


「はい、どうぞー」


 私達はさっそく車へと乗り込みます。助手席に座った私は、お母さんへとことちゃんから貰った野菜を渡しました。


「この野菜、ことちゃんのお家からだって」


「あらっ、こんなにたくさん。何だか悪いわねぇ~」


「いえいえっ! こちらこそ、車で送って頂き、ありがとうございます!」


 にかっと、ことちゃんは笑います。夏の日差しのように眩しい笑顔です。


「ううん、あなた達二人にはいつも千穂がお世話になっているもの。お礼を言っても足りないのはこちらの方だわ。本当にありがとう。……この子、人見知りが激しいから、大学では友達が出来るか少し心配だったの……。でも、とても楽しく過ごしていると聞いて、安心したわ。どうか、これからも仲良くしてあげてね」


 目の前で私のことを話されると少々、気恥ずかしいのですが。


「お、お母さんっ。電車の時間に遅れちゃうよ……!」


 私は話を逸らすようにお母さんを急かします。

 私の心情を察しているのか、後部座席に座っている白ちゃんはくすくすと笑っているようです。全く、恥ずかしい限りです。


「それじゃあ、出発しましょうか。三人とも、シートベルトはしっかりね」


「はーい」


 お母さんの運転による車はゆっくりと動き出します。


 窓の外の景色は画面が切り替わるように流れていきます。やがて赤月家の家は少しずつ遠くなっていきました。


「……」


 少しだけ、寂しさのようなものを感じつつも私は前を向き直ります。


 次に赤月家へと帰って来る時には、私は前進しているでしょうか。

 赤月家の日記のことも、「千吉さん」のことも、そして──大上君との仲も。


 頭の中に浮かんできたのは満面の笑みで私へと両手を伸ばしてくる大上君です。

 毎晩、電話をしていましたが、「赤月さん成分が足りないよぉぉっ!」と言って泣いていました。実家のお手伝いも中々大変だそうで、そろそろ精神が限界だそうです。


 一応、お土産を買って持っていこうと思っているので、それで元気を出してくれると良いのですが……。


「早く……会いたいなぁ……」


 ぼそりと、心に抱いたものが口に出てしまいました。


「ん? 千穂、何か言った?」


 運転席のお母さんが前方を見つつ、私へと問いかけてきます。


「えっ!? え、うっ、あっ……今日も、暑いなぁって……」


 私は咄嗟に誤魔化すことにしました。

 ですが、内心では心臓が凄い勢いで脈を打っています。


「そうねぇ、相変わらず暑いわよね。……あ、ちゃんとこまめに水分を摂るのよ?」


「うん」


 どうやら、お母さんはその答えで納得してくれたようです。

 私は心の中で安堵しつつ、再び窓の外の景色へと視線を向けました。


  

 

いつも読んで下さり、ありがとうございます。

実は特大の嬉しいお知らせがございまして、詳しくは活動報告を見ていただければ、と思います。

どうぞ宜しくお願い致します。

 

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