赤月さん、大上君と電話する。
夕食を食べた後はお風呂の時間です。ですが、七人も順番で入らなければならないので入るまでに時間がかかってしまいます。
私は母と一緒に食後の食器の片付けをしてから、その後は自分の部屋へと戻りました。
妹に宿題で見て欲しいところがあると言われましたが、お風呂の後に見ることを約束して、今は断らせてもらうことにしました。
何故ならば、──そろそろ時間だからです。
私が鞄の中に入れていたスマホを手にした瞬間、着信音が鳴り響き始めました。スマホの画面に浮かび上がっている名前を見て、思わず口元が緩んでしまいます。
電話を取れば、昨日の夜ぶりに聞こえる声が耳へと入ってきました。
『──こんばんは、赤月さん』
大上君です。約束通り、大上君は毎晩、電話を私へとかけてくれます。
私からかけましょうかと言ったのですが、電話代は自分が持つと言って譲ってくれませんでした。
「こんばんは、大上君。今日もお疲れ様です」
『はぁぁぁぁ……。赤月さんの声を聴いただけで、疲れが一気に吹っ飛ぶよ……。ありがとう、俺の唯一の癒し……』
電話越しからかなり長い溜息が聞こえてきましたが余程、疲れているようですね。
大丈夫でしょうか。
「えっと、今日はどのようなことをなさっていたんですか?」
『んー……。今日は午前中に舞の練習をして、それから午後は当日のお祭りの際に参拝者に渡すお守りの数を揃えたりしていたかなぁ。午後からは冷房が入っている室内だったから、作業がしやすかったよ』
私が熱中症のことを気にしていると覚っているのか、大上君は先に体調について教えてくれました。
お手伝いは大変だったようですが、今日も元気に過ごしたみたいで良かったです。
『赤月さんは今日、実家に帰ったんだよね? 実家の人達は元気そうだった?』
「ええ。皆、体調管理には気を付けているようで、安堵しました」
『そっか。それなら良かった。赤月さんも体調には気を付けてね』
「はい」
そこで一度、お互いの会話が止まってしまいます。本当はもっとたくさん話したいことがあったはずなのに、止まってしまうのです。
そんな中、先に口を開いたのは大上君の方でした。
『……早く、会いたいな』
スマホを耳に当てて電話をしているため、その一言が真っ直ぐ耳の奥へと入ってきた私は思わず顔を赤らめてしまいます。
ここが私の部屋で本当に良かったと今更ながらに思います。でなければ、誰にもこんな表情を見せたくはないからです。
『あと、一週間程したら会えるって分かっているけれど……。でも、長いな』
「大上君……」
『ねぇ、赤月さん』
電話越しの大上君の声が少しだけ柔らかいものになった気がして、私は耳を澄ませます。
『残りの一週間、君がいない日常を頑張ることが出来たら、ご褒美をくれる?』
「ご、ご褒美ですか……」
何でしょうか。何か、変なものを要求されないといいのですが。
『うん。……ちゃんと頑張れたら、君をぎゅっと抱きしめてもいい?』
「……」
瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を抱きます。どこか辛そうに聞こえる声に、私はすぐに返事を返すことが出来ませんでした。
「……ご褒美の、約束をしたら……頑張れますか」
『うん、頑張れるよ』
「……分かりました」
本当は恥ずかしくて、声を出すことさえも難しかったのですが、そのように返事を返すと電話越しの大上君の声があからさまに明るいものへと変わっていきます。
『ありがとう、赤月さん! あ、それなら赤月さんにもご褒美をあげないと』
「え。……いえ、私は別に……」
大上君から貰っているものはたくさんあります。……そう、気持ちとか、色々です。
『うーん、何がいいかなぁ……』
「あの、本当にお気になさらず。私は別にご褒美を必要としていませんので……」
『俺だけが貰ってばかりだと申し訳ないからね。それに赤月さんも実家でお手伝いとか頑張るつもりでしょう?』
「それはまぁ、そうですけれど……」
『でも、赤月さんって基本的に物欲がないもんねぇ……。うーん、ちょっと考えておくね』
「はぁ……」
どうやら大上君から私へのご褒美は決定事項のようです。せっかく、大上君が考えてくれるということなので、楽しみにしておきたいと思います。
『──あっ、親から呼ばれているから、そろそろ電話を切らなくちゃいけないかも』
どこか口惜しそうな声が聞こえたため、私は苦笑しつつ言葉を返しました。
「それではまた明日の今頃の時間に電話しましょうか」
『うん、そうだね』
本当はもう少し電話をしていたいと大上君は思っているようです。ですが、親御さんからの呼び出しならば、すぐに行かなければならないでしょう。
「では、また明日」
『明日も体調には気を付けて過ごしてね』
「はい。……おやすみなさい、大上君」
『おやすみ、赤月さん』
名残惜しさを残したまま、大上君はゆっくりと電話を切ったようです。通話が切れたことを確認してから、私はふっと息を吐きました。
「……ご褒美、かぁ」
大上君は私へのご褒美を考えておくと言っていましたが、本当に必要はないのです。
何故なら、私にとってのご褒美は大上君に会えること、それだけで十分なのですから。
そんなことを思いつつ、一週間後に会えるのが楽しみだなぁと先のことに思いを馳せるのでした。
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