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赤月さん、祖父母と話す。

 

 縁側へと向かうと二つの影が庭の方へと視線を向けつつ、お茶を飲んでいました。

 傍に置いてあるのはかき氷を食べた後の器のようです。ここでおやつ休憩をしていたようですね。


 この場所は日陰になっていて涼しいので、休憩するにはちょうど良い場所なのです。

 私も夏休み中にはよく縁側でお昼寝をしたりしていました。


「──おじいちゃん、おばあちゃん」


 仲良く縁側に座っている二人へと私が声をかけると、祖父母はゆっくりと私の方へと振り返りました。

 

 そして、視界に私の姿を捉えるとぱぁっと明るく笑い返してきます。数ヵ月、会っていなかっただけなのにその笑顔に安堵してしまう自分がいました。


「おや、まぁ! 千穂ちゃん、帰って来ていたのねぇ」


「おお? 本物か? どうやって、帰って来たんじゃ? 車は今日は使っておったはずじゃが……」


 祖母はぱんっと手を叩きつつ、嬉しそうに笑っています。一方で祖父は嬉しそうな笑みを浮かべつつも驚きの方が大きいようですね。

 おじいちゃんが千太郎、おばあちゃんが咲子、というお名前です。


 私は苦笑しながら、二人が座っている縁側へと腰を掛けました。


「本物だよ。冬木さんのところのお姉さんに駅から車で送ってもらったの」


「そうじゃったか! いやぁ、千穂は夏休みには帰ってくるか、ばあさんとちょうど話しておったところだったが……」


「ふふふっ、元気そうで良かったわぁ」


 おばあちゃんが私の頭を優しく撫でてきます。高校を卒業し、大人の年齢へと近づく年頃となりましたが、いまだにおばあちゃんに頭を撫でられるのは好きです。

 撫でられている私はつい、口元を緩めてしまいます。


「ちゃんと食べとるか? 必要なものがあったら、じいちゃんに言うんやぞ。何でも送ってやるからな!」


 おじいちゃんは相変わらず心配性のようです。私のお父さんの心配性はおじいちゃんから受け継いでいるんだなぁとしみじみと思います。


「大丈夫だよ。お米も送って貰っているし、自炊もしているよ」


 赤月家は半農でもあるので、お米は自分の家で作ったものです。広い田んぼもあります。


 自家製のお米をいつも食べているので、今まで一度もお米を買ったことがなかったのですが、お店などで値段を見て、これが相場なのかと改めて理解しました。

 ……もっと、作った人達に感謝しながらお米を食べようと思います。


「でも、無理に自炊しなくても良いんだからねぇ。大事なのは食べることだから……」


「うん。……あ、おばあちゃんに教えてもらった野菜の煮物もよく作っているよ。味はまだまだおばあちゃんには及ばないけれど」


「ふふっ、作って来た年季が違うからねぇ。それに料理は食べてもらう相手のことを考えて作るものだから、千穂ちゃんにも良い人が出来たならば、煮物の味ももっと美味しくなるかもしれないねぇ」


「んぐっ……!?」


 おばあちゃんの爆弾発言に私は叫びそうになった言葉を何とか押さえ込みました。


 しかし、おじいちゃんには聞こえたようで驚いた表情でこちらへと勢いよく振り返ります。


「なっ……。千穂、まさかもう彼氏が出来たんか!?」


 料理の話題からそこまで一気に飛び火するとは思っておらず、どのように切り抜けようかと心の中で必死に言葉を巡らせていきます。


「あらあら、千穂ちゃんもお年頃だもの。でも、彼氏さんが出来たとしてもそれを聞くのは野暮ってものよ、おじいさん」


「し、しかしじゃな……」


「あまりしつこいようだと、嫌われてしまいますよぉ。このくらいの年頃の女の子は秘密を抱えて生きるものなんですからぁ」


 そう言って、おばあちゃんはガラスのコップに入っている麦茶を飲み干しました。

 ですが、ナイスフォローです、おばあちゃん!さすがは女の子をやってきた年数が違いますね。


 おばあちゃんに注意を受けたことでおじいちゃんは黙り込んでしまいました。ちょっとだけいじけているようですが、その表情は私のお父さんと同じですね。


「うぅ……。昔はおじいちゃん、おじいちゃんと言いながら、わしの後ろをちょこちょこと付いて来ておった千穂が大人になって……うぅっ……」


「あらあらぁ。面倒くさくなってきたわねぇ。……千穂ちゃん、おじいさんのことは放っておきなさいな」


「え」


「面倒な時は放置が一番よぉ。しばらくしたら、落ち着くと思うから。……どうせ、千穂ちゃんが結婚したことを想像して、勝手に落ち込んでいるだけよぉ」


「そ、そうなんだ……」


 おばあちゃん、長年おじいちゃんと連れ添って生きて来ただけあって、お互いの心情をすぐに察することが出来るようですね。


「それじゃあ、私はお母さんにも帰って来たって挨拶してくるから……」


「ええ、行ってらっしゃい」


「うぅぅ、千穂がぁ……。わしの可愛い初孫がぁ……」


 何故か男泣きし始めたおじいちゃんの背中をおばあちゃんは雑に叩いています。


 本当に放っておいてもいいのだろうかと思いましたが、この場に居座り、彼氏関係の話を振られる方が面倒くさいことになりそうなので逃げておきたいと思います。


 私は心の中であとは頼んだとおばあちゃんに向けてお願いしつつ、その場を離れることにしました。


 

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