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赤月さん、実家に帰る。

 

 小桃さんに赤月家の近くまで送ってもらい、白ちゃん達とはそこで別れることになりました。この後、ことちゃんをお家に送ってから帰るそうです。

 送ってくれた小桃さんにお礼を告げてから、私は荷物を抱えなおして、赤月家へと続く道を歩きます。


 舗装はされているのですが、周りは畑か田んぼ、雑木林しかありません。平地にぽつんと一軒家が建っているわけではなく、隣家との距離が離れているだけです。


 ここから一番近い家だと、敷地内に道場を持っている山峰家でしょうか。

 ことちゃんと白ちゃんが同級生達の中で、最もお互いの家の距離が近かったので、よく遊びに行ったり来たりしていました。


 そんなことを思い出しつつ、帰路を歩き続けます。夏の日差しが少しだけ暑く感じますが、家までもう少しなので我慢です。


「ふぅ……。つい先日、家を出たばかりなのに何だか長い時間が経っているような気がするなぁ……」


 大学に入学してから、まだ数ヵ月しか経っていないのに、あまりにも早く時間が過ぎているように感じて、数年ぶりに家に帰って来た気分です。


 思い返せば、あっという間の数ヵ月でした。

 充実していたかと問われれば、充実していました。


 脳裏にふと大上君の顔が浮かび上がり、私は口元が緩みそうになるのを何とか抑えました。

 恐らく、彼からは今日の夜に電話が来ることでしょう。それが少しだけ楽しみなのです。


 そんなことを思っていると、いつの間にか赤月家の門を通り過ぎていました。


 実は赤月家は家を構えている敷地だけでなく、結構な広さで山や土地を所有しているそうです。

 なので、管理や維持はとても大変で、昔ならまだしも今の時代、土地を持っていてもあまり良いことはないと家族が言っていました。


 実家の敷地もそれなりにありまして、家は私の背を軽々と越えてしまう程の高い塀で囲ってあり、池や庭もあります。

 車庫もあるので色々な部分を合わせていったら、かなりの広さになるでしょう。


 昔は弟と妹、そして白ちゃん達と一緒に赤月家の敷地で色々と遊んだものです。

 さすがに最近はお互いに年頃なのでそのような遊びはしなくなってしまいましたが、また皆で遊びたいものですね。


 門から玄関まで続いている石畳の部分を軽やかに歩きつつ、私は玄関の戸を思いっきりに横へとずらすように開けました。


「ただいまー」


 冷房を入れていないはずなのに、戸の向こう側からはひんやりとした空気と木の匂いが流れてきて、何となく安堵の溜息を吐きました。

 赤月家の匂いもそこには混じっていて、知らないうちに穏やかな気分になっていたのかもしれません。


 私の声が聞こえたのか、ぱたぱたと二つ分の足音が奥から聞こえてきました。


「あっー! 姉ちゃん!」


「お姉ちゃん! 今日、帰って来る予定だったの!?」


 慌てるように玄関へと駆け付けてきたのは弟の千明(ちあき)と妹の雪穂(ゆきほ)です。

 千明は中学三年生、雪穂は小学五年生で、少しだけ歳が離れています。


「皆を驚かせようと思って、お母さんにしか今日、帰ってくるって伝えていなかったの」


「えっー! お母さんだけ、ずるーい!」


 頬をぷっくりと膨らませる雪穂に対して、私はよしよしと頭を撫でました。妹はいつになっても可愛い存在です。


「姉ちゃん、おかえり! お土産! お土産は!? お土産はあるの!?」


 一方で、弟は挨拶もそこそこにやはり食い気が勝ってしまうお年頃のようですね。

 私は小さく笑ってから、紙袋に入っていたお土産をその場で千明に手渡ししました。


「はい、茶団子だよ」


「やったー! ありがとう、姉ちゃん!」


 お土産がお菓子だったことが余程嬉しかったのか、飛び上がるように弟ははしゃぎます。


「あっ、まずは仏壇に一度、上げてから食べるんだよー!」


「分かっているって!」


 弟はお土産を頭上に掲げたまま、その場から走り去っていきました。


「もうー、せっかくお姉ちゃんが帰って来たって言うのに、食い気を優先するなんて……。お兄ちゃんってば、本当に子どもなんだからー!」


「まぁ、まぁ。試食してみたけれど、凄く美味しかったから雪穂も後で食べるといいよ」


「うん! あ、お姉ちゃん。荷物を部屋まで持って行くの、手伝うね!」


「ありがとう。重いかもしれないから気を付けてね」


「このくらい平気、平気。いつも農作業、手伝っているから前に比べたら足腰が強くなっているんだよ?」


 そう言って、雪穂は私が持っていた荷物をひょいっと取り上げるように抱えました。本当に軽々と持っているようですね。

 学校では運動部に入っていると言っていたので、私よりも筋力が多いのでしょう。子どもの成長は本当に目覚ましいものです。


「農作業のお手伝いも良いけれど、夏場だから脱水症状や熱中症に気を付けるんだよ?」


「はーい。ほら、それより爺ちゃん達に挨拶しておいでよ。今頃、縁側でおやつでも食べていると思うよ。さっき、農作業がひと段落したばかりだし。お姉ちゃんを見たら、きっと驚くと思うよ~」


「うん。ありがとう、雪穂」


 私の荷物を二階の部屋へと持って行ってくれる妹にお礼を告げてから、私は家の奥へと進みました。


 

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