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赤月さん、幼馴染の姉と話す。

 

 実家から一番近い最寄り駅の駐車場には白ちゃんのお姉さん──冬木(ふゆき)小桃(こもも)さんの車が迎えに来ていました。

 小回りが利きそうな水色の車の運転席から顔を出して、華やかな雰囲気の女性がこちらに手を振ってきます。


「わーっ、久しぶりだねぇ、千穂ちゃん、小虎ちゃん!」


「小桃さん、お久しぶりです」


「お久しぶりです!」


 私とことちゃんがぺこりと頭を下げると小桃さんは右手をぶんぶんと横に振りながら、からっとした笑顔で言葉を続けます。


「もう、前みたいに『小桃お姉ちゃん』って呼んで~」


 小桃さんは相変わらず、明るいお方のようです。

 昔と同じように私達を可愛がってくれているのは分かっているのですが、大学生にもなって、お姉ちゃん呼びは少しだけ気恥ずかしく感じてしまいます。


 私とことちゃんはお互いに顔を見合わせます。そして、恥ずかしいのを我慢して、昔と同じように呼ぶことにしました。


「うっ……。こ、こもも……おねえちゃん……」


「小桃お姉ちゃん……」


「は~いっ」


 満面の笑みで小桃さんは返事を返します。一方で私達は心の中の何かが、がりがりと削れた気分になっていました。


「……姉さん。千穂達をあまりからかわないで」


 背後から呆れたような声色で、白ちゃんが声をかけてきます。


「いいじゃな~い。二人は可愛い妹みたいなものだもの~。それにお互いに大学生になると、長期休みの時しか会えないし、今のうちに二人の可愛さを堪能しないと!」


「はぁ……」


 白ちゃんは深く、深く息を吐いてから、小桃さんの車の後部座席の扉を開けます。そこを手で示しつつ、何事も無かったように私達へと勧めてきます。


「はい、二人とも後部座席に座っちゃって。荷物は座席の後ろに置くといいよ」


「う、うん」


「お邪魔しますー」


 私とことちゃんは後部座席へと座り、そして白ちゃんは小桃さんの隣、助手席へと座りました。


「絶対安全運転でよろしく。余所見したら減点だから。あと、むやみやたらに話しかけずに運転に集中して」


「もう、真白ってば冷たいんだから~! ……年頃の男の子だし、仕方ないわよねぇ。まぁ、これも一つの成長過程か……。うぅ、お姉ちゃん、寂しいっ……」


「そういうところが、面倒に思われるんだよ、姉さん。いいから黙って、安全に運転して」


「はいはーい」


 この二人のやりとりも相変わらずですが、久しぶりに見ると何だか微笑ましく思ってしまいますね。


 何て、そのようなことを口に出してしまえば、白ちゃんが顔を顰めてしまうと分かっているので黙っていることにしました。


「皆、シートベルトはちゃんとしたかな~? それじゃあ、お家に向かって、レッツゴー!」


「……」


 車はさっそく発進しましたが、ミラー越しに映っている白ちゃんの顔は心底面倒だと言わんばかりの表情を浮かべていました。

 恐らく、小桃さん独特のテンションについていけないからでしょう。いつも通りの反応です。


 小桃さんは弟の白ちゃんが可愛くて、可愛くて仕方がないのですが、年頃なのであまり構って欲しくはないのが白ちゃん本音のようですね。


 小桃さん、確か自動車の免許を取得してから一年程経っていると聞いていますが、運転は思っていたよりも穏やかでした。


「三人は大学生活に慣れたかな? 飲み会とか、合コンのお誘いとかあった? サークルは何をしているの~?」


「……集中しろと言ったのに」


 話しかけてくる小桃さんに対して、白ちゃんが毒を吐きます。

 そんなに邪見にしなくても、と思いますが、この姉弟はこれが通常です。小桃さんは一切、気にしていません。


「学部での飲み会なら、参加しましたよ。……でも、私は馴染むまで時間かかりそうですね」


「あはは……。千穂ちゃんは人見知りが激しいからねぇ。まぁ、こういうことって回数を重ねることで慣れていくものだから、無理に参加しなくていいと思うよ~」


「そ、そうでしょうか……」


「うん。だって、誰かとの交流を求めて無理に飲み会に参加しなくても、自分と気が合う友達はちゃんと見渡せば居ると思うし」


「え……」


「私、こんな性格だから周囲には突き抜けて明るい人だって思われているけれど、趣味が偏っているから本当の友達を見つけるまで、結構時間がかかったのよねぇ。でも、『友達』を得るために自分の好きな趣味を隠したり、捨てる気は全く無かったし。とことん、自分の道を貫いてやったわ」


「……」


 その言葉に私はぽかんと口を開けてしまいます。いつも明るく楽しい小桃さんでさえ、交友関係で悩んでいたようです。


「だから、周囲のために自分を無理に合わせなくてもいいんじゃないかなぁ。合わせてばかりだと疲れちゃうよ。自分の速度で、自分と気が合う人を見つけていけばいいんだよ~。世界は広いし、自分と気が合う人なんて、見つけようと思えばそこら中に居るって~」


 そんな風に気楽に言っていますが、言葉の中身に私はほっと息を吐くような安堵を覚えました。


 さすが、大学生三年目となる方の言葉です。隣のことちゃんも同意するように何度も頷いていました。


「姉さんが真面目なことを言っているなんて……。今日は雨が降るかもしれない」


「ちょっと~。真白の中の私って、どういう立ち位置なのよっ」


「うるさくてちょっと騒がしく、自己完結が得意な姉」


「酷いっ。そんなにうるさくないわよっ!」


 そんな二人のやり取りがもう一度始まったので、私は小さく苦笑してしまいました。

 


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