赤月さん、幼馴染達と電車に乗る。
大上君が実家へと帰省して数日後。私も白ちゃんとことちゃんと一緒に電車に乗って、実家がある田舎へと帰っていました。
新幹線に乗れば早く着くのですが、電車で時間をかけていくのも帰路の醍醐味だと白ちゃんが訴え、出来るならばお金を節約したいとことちゃんが財布の中身を見つめながら切なそうに告げたため、電車で帰ることになりました。
私も電車の外の景色を眺めるのは好きなので、二人の意見に賛成です。
大学に入る前までは登下校だけでなく、学校の休み時間もずっと一緒にいましたが、最近は一緒に過ごす時間が減ったなぁと感じていました。
なので今日は長時間、二人と一緒に短い旅を楽しむことが出来るのでとても嬉しく思います。
さすがに普通の電車の中で駅弁を食べるわけにはいかなかったので、電車に乗る前に三人で昼食を済ませてきました。
ことちゃんがいつものようにおかわりしていましたが、電車で酔わないことを願うばかりです。
家族へのお土産とそれぞれの飲み物を購入してから、到着した電車へと乗りました。
この駅からの始発の電車だったので、四人掛けの椅子に向き合うように座っています。
地元の最寄り駅まで1時間程の道のりなので、ことちゃんは案の定、窓に頭を寄せながら腕を組みつつ眠っているようです。
昨日まで部活動とアルバイトがあったと言っていたので疲れているのでしょう。到着する駅の二駅ほど手前で起こしてあげようと思います。
一方で白ちゃんは本を持参していたようで、一人で黙々と読み続けていました。
私は時折、窓の外を眺めたり、本を読んだりしながら過ごしていました。
今日は平日で、しかも混雑する時間からずれているので電車に乗っている人は少なく、車内はとても静かな空気が流れているので過ごしやすいです。
「……そういえば」
何かを思い出すようにそう言って、白ちゃんは本から顔を上げました。
「千穂は実家に1週間程、滞在する予定なんだよね?」
「そうですね。その後には大上君の家でのアルバイトが控えているので、長居はしないつもりです」
「それじゃあ、僕達も一緒に千穂と同じ日に帰るよ」
「いいんですか? 私に合わせてもらって」
「うん。三人で帰る方が気楽だからね。……別々で帰ると、無事に家に着いたかなって逆に心配になるし」
白ちゃんのからかうような言葉に私は頬を膨らませます。
大学生にもなって、私が一人で電車に乗れないみたいな言い方ではありませんか!
「もうっ……。私だって、一人で電車の乗り換えくらい出来ますよ! 小さな子ではないのですから」
「そう言って、中学生の時に乗り換えを間違えたり、電車の中で眠っちゃって終点の駅まで乗った人は誰だったかな?」
「うぐ……。数年も前のことなのによく覚えていますね……。……いいんです、間違えても次を間違えないようにすればいいのです。何事も練習ですっ」
私は本をぱたんと閉じつつ反論すると、白ちゃんは口元に手を当ててから、くすくすと笑いを返してきました。
小さい頃から一緒に居ると、お互いの失敗談を知っているのはよくあることです。
「千穂のことなら、何でも覚えているよ。もちろん、小虎のことも。……二人とも、僕の大事な幼馴染だからね」
そう言って、白ちゃんはどこか慈愛が含まれているような瞳で私と、私の隣で眠っていることちゃんへと視線を向けてきました。
「……白ちゃんは昔から、私達のお兄さんみたいですね」
「まぁ、誕生月は二人よりも遅いけれどね。……見守っていないと危ういことに手を伸ばしそうで怖いんだよ」
そういえば、白ちゃんは昔から動き回ることちゃんに注意を促したり、動きが遅れてしまう私を補助してくれたりと色んな場面で助けてくれていました。
「……大学生になったので今後は出来るだけ、白ちゃんに迷惑をかけないようにしますね」
「ふふっ、別に気にしなくて良いよ。僕が勝手に見守っているだけだから。……見守りたいだけだから」
最後の一言は何と言ったのか聞こえませんでしたが、白ちゃんは優しげな笑みを浮かべて微笑んでいました。
他の人には滅多には見せない、幼馴染だけが知っている笑みです。
すると、隣で眠っていたはずのことちゃんがびくっと肩を震わせて、そしてゆっくりと瞼を開きました。
白ちゃんとは小声で会話していましたが、起こしてしまったでしょうか。
「……んー……?」
寝ぼけた顔のままで、ことちゃんは私と白ちゃんの方に視線を向けてきます。
「ここ、どこだ……。今、何時……」
「到着予定時刻まで、あと20分程あるよ」
白ちゃんが腕時計に視線を向けつつ、ことちゃんからの質問に答えると彼女は満足したのか、こくりと頷き返してから、再び窓を支えに寝始めます。
完全なる眠りに入るまでの時間、わずか2秒ほどでした。
「……」
「……」
一瞬とも言える速さで再び眠りにつき、どこか気が抜けたような表情を浮かべていることちゃんを見ては、私達はお互いに顔を合わせ、そして眠っている幼馴染が起きないように小さく笑い合っていました。