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赤月さん、耳を甘噛みされる。

 

 私は一つ、深い息を吐いてから大上君に答えました。


「……良いですよ」


 それでも彼に表情は見せないようにと、背を向けたままで答えます。どちらにしても、大上君が後ろから抱き着いているので私は振り返ることは出来ませんが。

 私からの答えが意外だと思ったようで、大上君は「えっ」と驚きを口にしていました。


「いいの? ……ちょっと、今日はこの前よりも激しくしちゃうかもしれないけれど」


「は、激しく……ですか」


 具体的には、どのように激しくするおつもりなのでしょうか。ちょっと色々と想像してしまい、私は頬が紅潮していくのを感じていました。


「この前は一か所だけにしか印を付けていなかったけれど、今回は……隈なく、しようかと」


「く、隈なく……」


「肩口だけじゃなく、その他の場所にも、隈なく」


「……へ、変なところには……しません、よね?」


 私が確認するように訊ねると、大上君からはごくり、と唾を飲み込む音が聞こえました。


「……しない、ように頑張る……」


「……」


 大上君は絞り出すように答えました。その声色はどこか切羽詰まっているようにも聞こえて、思わず胸の奥が切なくなってしまったように締め付けられて行きました。


「も、もちろん、約束はちゃんと守るよ? 変なことはしないって。……でも、好きな子を抱きしめている上に、自分のものだって痕を付けるような状況となってしまえば……」


「なってしまえば……?」


「……俺の理性がいつか欲望に負けてしまいそうだなと思って」


 その発言に私はぐっと喉の奥に言葉を詰まらせます。


「俺はね、いつだって理性と欲望の間で揺れ動いているんだ。最終的には理性が勝つけれど、何度か危ない時はあったよ。それも全て赤月さんが可愛すぎるから……」


「全面的に私が悪いみたいな言い方しないで下さいっ」


「だって、赤月さんを目の前にすると俺はまたたびを与えられた猫みたいになっちゃうんだよ! 大上()だけれど! 思考と感情がとろけちゃうのっ!」


 大上君は反論しながら私をぎゅっと抱きしめてきます。もはや、抱き枕感覚で抱きしめていませんか。

 大上君の身長がとても高いので、私の身長くらいだと抱きしめやすいのかもしれません。


「……君の匂いを嗅ぐと俺は酔ったような気分になるし、触るたびにもっと君に触れたいと思ってしまう。俺が君に抱く欲は一生、尽きることはないのかもしれない」


 そう言葉にしつつ、大上君は私の耳に軽く口付けて来ました。

 軽やかな音と共に、微かな吐息が耳にかかり、私はつい身じろぎしてしまいます。


「っ……。あの、耳は……」


「耳に触れられるの、苦手?」


「……得意ではありません」


 何故ならば、くすぐったいからです。


 それなのに大上君はどこか満足そうに「そうなんだ」と言葉を零して──私の耳をはむっと甘噛みしてきたのです。


「っ!?」


 突然の行為にさすがに驚いた私は身体を大きく震わせます。


「ぁ……、お……大上、君っ……?」


「んー?」


 ですが、大上君は私の耳から唇を離す気はないようで、曖昧な返事をした後はまるで飴でも楽しむように舐めてきました。


「ひゃぅっ……!?」


 少しずつ侵していくように、大上君の舌が私の耳を甘噛みしては舐めていくのです。

 その感触は初めて感じるもので、ぞくりと何かが私に迫ってきているようにも思えました。


「……はぁ……。赤月さんの耳、小さくて柔らかいね……。うーん……これは癖になりそう」


「は、んっ……。……あのっ、耳元、で……」


 喋らないで欲しい、と告げようとしていたのに大上君には私の言葉が届いていないようで、彼は更に耳をはむっと噛んできます。


 彼の唇や舌が私の耳に触れるたびに、小さな声が私の口から漏れ出てしまい、恥ずかしさで身体が熱くなってしまいました。


 大上君も今の私がどのような状態になっているのか分かっているはずなのに、止めようとはしません。


 癖になる、と言っていましたがまさにその言葉通りで、大上君は私の耳を噛むことをゆっくりとじっくりと楽しんでいるようです。


 しかし、そんな大上君から逃げることは出来ません。私の身体は彼の両腕に囚われているため、その場から動くことさえも出来ませんでした。

 



勢いで「白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中」という新しいお話の連載を始めました。

もし、興味がある方がいらっしゃるならば、よろしければどうぞなのです。

 

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