大上君、赤月さんに印を付けたい。
いつもの余裕を取り戻してきた大上君は私を抱きしめたまま、何かを深く噛み締めるような声で呟き続けます。
「はぁ……。赤月さんが可愛い。赤月さんが柔らかい。赤月さんが良い匂い。赤月さんが美味しそう……」
「その、羊を数えるような呟きを止めて下さい。聞いているこっちは恥ずかしいのですが」
ぶつぶつと呟く大上君に対して私は小さく訴えましたが、あまり効果はないようです。
それどころか、大上君の中の何かを解放させてしまったようです。
「だって、ずっと感じたいと思っていた赤月さんの全てを今、この瞬間に感じることが出来て最高に幸せ過ぎるというのに、その感動を吐き出さずにはいられないよ! この感動をどうにか表現したいけれど、出来ないんだよ! 幸せって、どうやって表現するの!? 赤月さんのおかげで、俺は最高に幸せなのに!」
世界で一番、自分が幸せだと言わんばかりに大上君は訴えてきます。
ですが、必死な口調とは裏腹に両腕の力を強く入れ過ぎて、抱きしめている私を潰さないように注意してくれているようです。
ですが、その腕には私を逃す気はないという明確な意思が宿っているように感じました。
すると、急に我に返ったように大上君は静まりました。一体、どうしたのでしょうか。
「……赤月さん」
「は、はい……」
かなり真面目な声色ですが、何となく良からぬことを考えているのではと思ってしまいました。何を言うつもりなのでしょう。
私が静かに待っていると、彼は捲くし立てるように一気に言い切りました。
「痕を付けてもいい? あまり見えないところに付けるから」
「……」
やはり、そんなことを考えていましたか。いえ、何となく予想は出来ていましたが。
「……どうして、そんなに痕を付けたがるのですか」
私は大上君の方に振り返ることなく、訊ねてみます。彼は小さく唸ってから、そしてどこか拗ねたように答えました。
「……俺以外の男が赤月さんに近づかないように、牽制したいんだもん」
「牽制?」
「純粋無垢なところは赤月さんの素敵な長所でもあるけれど、その身に危険を呼ぶことだってあるかもしれないからね。だから、赤月さんはすでに俺のものという印を付けることによって、他の男どもを跳ね返すための抑止力にしたいなぁと思って」
「……えーっと、つまり、私が他の男性に言い寄られるかもしれないと?」
「うん」
生まれて十八年が経ちましたが大上君以外の人間から熱く、激しく言い寄られたことなんてないので、そのようなことはないと言い返したいのですが、大上君の口調がもの凄く真面目だったので本気で心配している様子が受け取れました。
本当に過保護ですね。過保護さで比べるならば、白ちゃん達にも負けていないでしょう。
「……駄目かな?」
「……駄目だと言っても、大上君は別のことで補おうとするでしょう」
「よく分かったね」
自分のことを理解してもらえて嬉しい、とその口調に含まれている気がして、私は言い返す気力もないまま熱がこもった吐息を静かに吐き出すしかありませんでした。
「……あとは、まぁ……個人的に赤月さんを……食べたいなぁ、なんて思っていたりして」
「……」
どうやらこちらが本音だったようです。
「あ、もちろん、食べると言っても、赤月さんを軽ぅーく、甘噛みしたり舐めたり、その他色々と様々な箇所を触ったり……」
「……つまり、先日のようなことをしたいと……?」
先日、大上君に「食べたい」と言われた私は、肩口を甘噛みされたり、腹部を触られたりしました。それと同じことをしたいと大上君は言っているようです。
「……したい、です」
切望するように呟きましたね、今。
ですが、明日からはお互いに離れて過ごすことになるのです。
今日くらいは少し大目に……大目に見てあげたいのですが、羽目を外し過ぎたりしませんよね、大上君?
そのあたりが少し心配です。でも、私も大上君に「触れられる」ことにもっと慣れなければならないと思っているので、これは「練習」と思うことにしましょう。
内心ではもの凄く恥ずかしいと思っていますが。