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赤月さん、大上君に泊まってもらう。

 

「……まずいな」


 大上君は私の両肩に置いていた手をそっと離しつつ、その手で自身の顔を覆い始めました。


「まずい、どうしよう……。赤月さんに求められて、凄く嬉しいのに……。身体が理性と欲望の間で揺れ動き過ぎて、まずい……。落ち着け、俺の下半身……」


 大上君は私に聞こえないくらいの声量でぶつぶつと呟いています。一体、何を呟いているのでしょうか。


「お、大上君……?」


「ううん、赤月さんは気にしないでね。まだ、知らなくていいんだよ、君は。そのまま純粋でいてくれていいんだからね」


 大上君はぱっと両手を顔から離して、何でもなさそうに答えます。ですが、その表情は何かに堪えているのか少しだけ強張っているように見えました。


「……我が儘を言って、ごめんなさい。あの、今の発言は……気の迷いだと思って下さい……」


 私が謝ると大上君は慌てたように手を高速で横に振りました。


「そんなことないよ! 我が儘だなんて思っていないし、むしろ誘ってくれて凄く嬉しいよ? ……ただ、俺の理性が保つかと言われれば、頷けないかもしれないけれど……」


「え? あの、今、何と?」


「ううん、こっちの話だから、気にしないで。……でも、赤月さんの部屋には俺が泊まることを見越した上での荷物を置いていないからな……。一回、家に取りに行った方がいいかもしれないね」


 大上君の言葉に私は、思わず驚きの声を上げつつ訊ねます。


「大上君? ……その、私の家に……」


「うん? 泊まっていいんでしょう? 赤月さんの許可が下りたんだから、もちろん泊まるつもりだよ?」


 どうしたの、と言わんばかりに大上君は首を傾げながら訊ねてきます。


「で、でも……。明日、実家に帰るならばその準備とか、部屋の掃除もしなければならないと言っていたではありませんか」


「うん、そうだね。……いっそのこと一度、家に戻ってから帰省の準備と部屋の掃除を終わらせて、お泊り用の荷物と帰省用の荷物を持って来ようかな」


「えっ?」


「よし、そうしよう。そういうわけで、赤月さん。俺は一度、自分の部屋に戻ってから、掃除と帰省の準備を終わらせてくるね。……そうだなぁ、二時間後くらいにまた赤月さんの部屋に戻ってくるよ。あ、お風呂は赤月さんの部屋のお風呂を借りてもいいかな?」


「あ、うっ、え……。は、はい……?」


 思わず返事をしてしまいましたが、大上君はありがとうと言ってから立ち上がりました。それにつられるように私も立ち上がります。


「帰省用の荷物も一緒に持って来るから、明日は赤月さんの部屋からそのまま直接、出発するつもりだけれど、いいかな?」


「ど、どうぞ……」


 つまり、大上君はこれから自室の掃除をしてから帰省の準備を整え、そして今夜は私の部屋に泊まってから、明日はそのまま実家へと帰るということでしょうか。


 大上君が、泊まる。それを改めて認識してしまった私は、自分で言い出したことなのに再び顔を赤らめてしまいます。

 そんな私の顔を見た大上君はくすっと笑ってから、右手で私の頬をなぞります。


「お泊りする時って、確かこんな風に言うんだっけ? ……──今夜は寝かさないよ?」


「っ……!」


 大上君の言葉に私の心臓は跳ね上がり、固まってしまいます。


「はは、可愛い反応だね、赤月さん。大丈夫、約束していた通り、まだ手は出さないよ? ……それじゃあ、色々と片付けてからまたここに来るから待っていてね?」


 ぽんっと私の頭を軽く叩くように撫でてから、大上君は自分の鞄を持って、部屋を出て行こうとします。

 その後ろを追いかけつつ、私は思わず言葉を口にしていました。


「おっ……大上君!」


「ん?」


 靴を履きかけていた大上君は私の方へと振り返ってから、首を傾げます。


「あ、あの……。……待っていますので」


「……うん」


 私の言葉に大上君は穏やかに笑ってから頷きます。そして、「それじゃあ、また後で」と告げて部屋から出て行きました。


 その場に残った私は暫く、立ったままでぼうっとしていました。まだ、現実に起きたことを脳で処理出来ていないのかもしれません。


「ど、どうしよう……」


 今更ながらに自分の発言の内容を思い出した私は両手で頬を押さえつつ、唸るように呟きます。


 決して、変な意味を含めて大上君を誘ったわけではありません。大上君も恐らく、そのように思っているのでしょう。


 それでも自分から大上君に、家に泊まってくれるように誘うなんて、今まで一度も思ったことがなかったので混乱してしまっているのです。


「うぅ……」


 大上君は掃除と帰省の準備を二時間で終わらせて、戻って来ると言っていましたが、果たしてそれまでに紅潮している私の顔は平常に戻るでしょうか。


 暫くの間、私は自分の顔を両手で覆っては誰も見ていないのに、悶絶するように恥ずかしがっていました。

 

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