赤月さん、ゼリーを食べる。
それにしても、大上君はご飯を食べる時もその姿が本当に様になりますね。何というか、食べ方が洗練されていて、とても綺麗に見えます。
私がじっと見つめていたことに気付いた大上君は次第に顔を赤らめていきます。
「ど、どうしたの、赤月さん……! 俺の顔をそんなに見て……」
普段は私のことを凝視している大上君ですが、逆の立場は気恥ずかしいのでしょうか。
「いえ、ただ大上君は食べ方がとても綺麗に見えたので」
「ああ、そういうこと……。熱っぽい視線で見つめているから、俺のことが大好きなのかと思ったよ……」
何という前向きな自意識過剰でしょうか。いえ、別に嫌いな人を凝視したりしないので、大上君の見解は半分以上あっています。
大好きかどうかは、今は置いておきますが。
「うーん、食べ方は小さい頃に鍛えられたからなぁ」
「厳しいお家だったのですか?」
やはり、実家が神社だと何事も厳しく躾けられてきたのでしょうか。
「ううん、そんなことないよ。ただ、綺麗に食べる方が一緒にご飯を食べている人も気持ちが良いからって理由だよ。……大上家の人間は、外面は良いけれど、内面は緩いというか自由な心を持った人達ばかりだから」
「そ、そうなのですね」
「それに赤月さんの食べ方も凄く洗練されていて、綺麗だよ? 動画撮影したいくらいに。動画のタイトルは『赤月さんの食べ方特集』でどうかな」
「それはやめてください。何ですか、その放送一回目で終了しそうなタイトルは」
大上君、すぐに記録に残そうとする癖、治りませんかね。データ容量がすぐに上限にいきそうです。
私は話題を逸らすために、大上君が興味を抱きそうな別の話題を提示します。
「そういえば実家から送られてきた夏みかんがあるんですけれど、昨日、それを使ってゼリーを作ったんです。……宜しければ食べますか?」
「食べます!」
まるで子犬が好物を見つけたような笑顔で大上君は答えます。この人は本当に、私が作ったものならば何でも食べたがりますね。
ちょっと嬉しく思いながらも私は席を立ってから、冷蔵庫に入っている夏みかんゼリーを取りに行きました。
ゼリー用の透明なプラスチックのカップを使って、ゼリーを作っているので、見た目も綺麗なゼリーとなっています。私は夏みかんゼリーを大上君の前へとそっと出しました。
「わぁ……。透明な緑色のゼリーか。綺麗な色だね。夏みかんがゼリーの中に閉じ込められているみたいだ」
宝石箱みたいだと言って、大上君はゼリーを色んな方向から見ては楽しんでいるようです。
「ゼリーを作る素を買って、材料を混ぜて固めただけのゼリーですよ?」
「ううん、ただのゼリーじゃないよ。赤月さんが夏みかんを自分で剝いたということは、つまり赤月さんの……」
「言わせませんよ、それ以上。……変なことを言うならば、夏みかんゼリーは没収します」
私は大上君の前に出していた夏みかんゼリーをひょいっと奪い取ります。
「うわぁぁっ、ごめんなさいっ! 変なことは頭の中から抹消するので、食べさせて下さいっ!」
かなり必死な様子で謝って来るので、心から夏みかんゼリーを食べたいのでしょう。私はわざとらしく溜息を吐きながら、再び大上君の前へと夏みかんゼリーを置きました。
「ううっ、赤月さんの優しさに感謝しながら、一口ずつ噛み締めるように食べます……」
「いえ、そこまで重い雰囲気で食べないで下さい……」
スプーンを握りしめた大上君は夏みかんゼリーをこれでもかという程に味わいつつ食べ始めます。私も食べてみましたが、味は普通のゼリーです。
大上君の中ではこのゼリーは高尚で美味なるものとして位置づけられているのでしょうか。
気に入って頂けているようでしたら、また機会があれば作りたいと思います。
夏なので、やはりシャーベットやアイスなどを試しに作ってみるのもいいかもしれませんね。実は私、料理だけでなくお菓子作りも好きなので。
「美味しいよぉ……。赤月さんの……柔らかい……ぷるぷる……甘くて……。俺の口の中で……」
「あの、単語で言葉を話すのをやめて頂けますか。何だか際どく感じてしまうので」
本当、危ういですね。せっかく、身体を冷やすために冷たいゼリーを食べているというのに、何だか気恥ずかしさで身体が火照ってきたような気がします。
私は大上君をちらりと小さく睨みつつ、透明な緑色の塊を一口分、口元へと運びました。