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赤月さん、オムライスを作る。

 

 台所はそれなりに広いため、二人で並んで作業しても窮屈には感じません。

 しかし、大上君は本当に何でも出来てしまう人ですね。私が卵を溶いている間に、あっという間に野菜をみじん切りにしていました。


 ですが、間を置かずに「何だか新婚夫婦みたいだね」と話しかけてくるのは止めて欲しいです。砂糖は一切入っていないのに、作っているオムライスが甘めになってしまいそうです。


「二人で作業すると、出来上がりも早いね~」


「そうですね。あ、冷蔵庫に冷やしていた麦茶があるので、運んでもらってもいいですか?」


「はーい、任せて」


 飲み物の準備を大上君に任せてから、私は最後の仕上げへと取り掛かります。


 私が作るオムライスは一つ工夫が加えてありまして、野菜やウィンナー、ケチャップと一緒に混ぜたご飯と卵の間にスライスチーズを挟むようにしているのです。

 まろやかな感じになって、とても美味しいのでおすすめです。


「……」


 さて、ここで難関がやってまいりました。ご飯の上に薄く広げた卵がここにありますが、この黄色の上にケチャップで何を書くか迷っているのです。


 普通にケチャップをかければいいのかもしれませんが、大上君的には普通に描くよりも「ハート」の方が嬉しいのかもしれないと思うと手が止まってしまいます。


「うー……」


 いえ、「ハート」はさすがに恥ずかしいです。描いてしまえば、大上君が一生保存すると言って、オムライスを食べないかもしれません。それならば、別のものを描くべきでしょう。

 

 悩みに悩んだ挙句、私は黄色い卵の生地の上にとある動物の絵を描くことにしました。


 ケチャップで描き終わってから、二人分のオムライスを炬燵の台の上へと持って行き、大上君の目の前へと置きました。


 するとさっそく、大上君の視界にオムライスの絵が映ったのか、彼はぱっと喜びに満ちた笑顔を浮かべます。


「わっ……!」


 きらきらという表現が正しい程に、彼は目を輝かせていました。


「……ケチャップで絵を描くのは難しいですね。予想よりも上手く描けていなくて申し訳ないです……」


「ううん、そんなことないよ! 凄く可愛い……!」


 大上君のオムライスに描いた絵は狼……ではなく、犬の絵です。正直、狼と犬を区別して描くのが思っていたよりも難しくて、結局は犬の絵になってしまいました。

 私のオムライスにはお花っぽい絵を描いておきました。


「写真、写真を撮らなければ……! 本当は食べるのも勿体無いくらいだけれど、赤月さんが俺のために作ってくれたものは全て胃の中に入れたいし……!」


 大上君は大慌てでスマートフォンを取り出して、オムライスに向けて連続撮影していきます。まるでモデルの撮影会のような連写ですが、容量は大丈夫でしょうか。

 そんなにオムライスの写真を保存する必要はありますかね?


「早く食べないと、冷めてしまいますよ?」


 私は大上君へとスプーンを渡しつつ、促します。


「はっ……。確かに……」


 それまでオムライスの写真撮影会ではしゃいでいた大上君は私に同意するような表情を浮かべてから、スマートフォンを鞄の中へと仕舞います。

 そして、スプーンを右手に握ってから着席しました。


「……赤月さん、『あーん』は……」


「大上君、私と一緒にご飯を食べる時にいつもその提案を出してきますよね……。却下です」


「そんなぁっ……」


 悲壮な顔をしても、やりませんからね。その手には乗りませんよ。


「ほら、食べますよー」


「うぅ……。『あーん』は惜しいけれど……。……いただきます!」


「いただきます」


 大上君は最初、私が描いた犬の絵を崩すのは勿体無いと言わんばかりに、スプーンでどこから攻めていくか考えていたようですが、諦めたようです。

 一口分、掬ってから口元へと運んでいましたが、お味はどうでしょうか。


「……美味しい! チーズを中に入れるとこんなにもまろやかな味になるんだね!」


「そうですね。牛乳があれば、卵と一緒に混ぜて焼くと更に美味しくなりますよ」


「オムライスと言えば鶏肉かと思っていたけれど、ウィンナーでも凄く美味しいんだね」


 確かに普通のオムライスには鶏肉──チキンが定番でしょう。ですが、私が作るオムライスにはウィンナーを入れるようにしています。


「ウィンナーを入れる方が弟と妹が喜ぶので、我が家ではどちらかと言えばウィンナーの方が定番かもしれませんね」


「そうなんだ」


 大上君はにこにこと嬉しそうにオムライスを食べています。私もオムライスを一口分、掬ってから口へと運びましたが、とても美味しく出来ていました。

 普段、作る時よりも美味しく感じられたのは大上君と一緒に作って、一緒に食べているからでしょうか。

 そんなことを考えつつ、スプーンを進めていきました。

 

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