赤月さん、アルバイトを受ける。
「は、い?」
大上君から苦笑交じりに告げられた言葉に、私を含めた幼馴染三人は同時に首を傾げます。
「神社?」
一体、何の話だと言わんばかりにことちゃんは復唱しました。
「確か、伊織の実家は大上神社という神社だったよね」
「さすがに知っていたか。うん、そうだよ。そして、俺は大上神社の次男坊なんだ」
「へぇー、意外だな」
さっそく興味を無くしたのか、ことちゃんはラーメンのスープを一気に飲み干していきます。ことちゃんからしてみれば、大上君の実家に関することはあまり興味がないのかもしれませんね。
「それでね、大上神社では小規模だけれど、夏の時期にお祭りが行われるんだよね。その際に一時的にアルバイトを雇って、お祭りに参加している人の応対やお守りの授与を任せたりしていたんだけれど……」
すると大上君はしゅんっと落ち込んでいるような表情を浮かべて、言葉の続きを話し始めました。
「……前年までは、近所に住んでいる高校生達にアルバイトとして手伝ってもらっていたんだけれど、別の県へと引っ越ししたり、受験勉強で忙しいから今年は手伝いが出来ないって断られちゃって」
「なるほど。それで伊織の友人で手伝いが出来る者がいないか、実家から連絡が来たということか」
白ちゃんが腕を組みながら訊ねると大上君は肩を盛大に竦めてから頷き返しました。
「そういうこと。お祭りまで一ヵ月は切っているから、今からアルバイトの募集をかけても中々、人が集まらないだろうし、それなら俺の友達に頼れそうな人はいないかって、連絡が来たんだ」
「神社でのアルバイト、ですか……」
「特に難しいことはないよ。巫女装束を着装してから、参拝者にお守りを授与するだけだし。あとは神社内の掃除や雑用かな。俺も当日は付きっきりになりたいけれど、兄の代わりに神楽を舞わなきゃいけないし……」
そう言って、大上君はどこか遠いところを見るような瞳をしました。
「えっ、大上君が神楽を舞うんですか?」
意外過ぎて、つい声に出てしまいました。
「うん。本当ならば毎年、俺の兄と父が神楽を舞うんだけれど……。神職の資格を取るために都会の大学院に行っている兄が、今年の夏の時期には実習の予定が入っていて、実家に帰って来られなくなっちゃって……。だから、夏休みが始まったらすぐに実家に戻って、神楽の練習をしなきゃいけなくなるんだ……」
「わ、わぁ……」
夏休みの前半が丸ごと潰れてしまうことを恨んでいるのか、諦めているのか、どちらなのかは分かりませんが大上君の表情は無と呼べるものでした。
「それと巫女神楽も舞わなければならないんだよ……」
「え」
「……それはつまり、伊織が巫女装束を着るということ?」
白ちゃんも目を丸くしたまま、大上君へと問いかけます。
「うん、そういうこと。でも、数は少ないけれど、男性神職が女装して、姫面を付けてから巫女神楽を舞う神社もあるらしいよ。……俺の場合はがっつりとした女装で、面は被らないけれどね」
「た、大変そうですね……」
大上神社でのお祭りがどのようなものなのかは詳しくは知りませんが、大上君の表情を見れば、とても大変な行事なのは理解出来ました。
「それに他にも色々とやらなきゃいけないことがあるから、今は猫の手も借りたいくらいなんだよ……。そういうわけで、三人とも。俺の家でアルバイトしない?」
もはや必死さを含めているような表情でしたが、大上君が助けを求めているのは分かります。
私は白ちゃんとことちゃんの方に視線を軽く向けました。二人は同時に頷き返します。どうやら私と同じ考えのようですね。
「分かりました。では、微力ながらお手伝いさせて頂きたいと思います」
「いいの!?」
「神社でのアルバイトは初めてだから、詳しいことを色々と教えて欲しいかな。あと、滞在中の宿泊先はあるの?」
白ちゃんはスケジュール手帳を取り出してから、さっそく日にちを確認し始めます。
「あ、俺の家に泊まってくれると嬉しいな。滞在中の宿泊先の確保と一日三食お替りし放題で更におやつ付き、そしてアルバイト代も出るという条件なんだけれど、どうかな」
三食お替りし放題とおやつに反応したのはことちゃんです。ことちゃんも大上神社でのアルバイトに乗り気なようですね。
「良い条件だね。でも、三人も寝泊まり出来る場所はあるの?」
「あるよ。俺の家、結構広いからね。三人分の布団も用意出来るよ」
つまり、大上君の家に行くということですか。何だか急に緊張してきましたね。
大上君のご家族はどのような方々なのでしょう。もし、「こんな彼女じゃ駄目だ!」って言われてしまったらどうしましょうか。とりあえず、粗相がないようにしないといけませんね。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
諸事情により、連続での更新が出来ない日もあるかもしれませんが、
これからも頑張って更新していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。