赤月さん、大上君に力説される。
真剣な表情で私を見下ろしてくる大上君から視線を逸らしつつ、ぽつりと言葉を零してしまいます。
「……大上君、意外と誠実なんですね」
「俺は赤月さんだけには誠実かつ紳士でいたいからね。……だから、本当はこの右手を赤月さんの胸の辺りまで伸ばしたいけれど、ぐっと我慢しているところなんだよ?」
「……私、胸が小さいんですがそれでも触りたいと思うんですか?」
撫でるようにしながら、大上君は私の腹部を指先でつぅーっと沿っていきます。そのくすぐったさに私はつい、声を上げてしまいました。
「触りたいよ? 赤月さんが俺の手を感じてくれるように、そして指先から伝わる柔らかさを味わうように触りたいと凄く思っているよ」
「小さいのに……」
「うーん、大きさよりも大事なのは感度だと思うなぁ」
「か、感度っ……」
初めて聞いた言葉のように、私はつい復唱してから顔を赤く染めていきます。
「うん、感度。確かに胸が大きい方が揉みやすいなんて言うけれど、俺は赤月さんの胸ならば、大きくても小さくてもどちらでもいいんだ」
大上君はどこか楽しそうに笑いながら、私の腹部を掌でゆっくりと撫でました。これ以上、手が上に上って来てしまったら胸に到達してしまいそうです。
でも、私の胸のサイズは恐ろしく小さいので、どこからが胸なのか分からないかもしれません。
「それに赤月さんが大きい胸になりたいと思っているなら、協力するよ?」
「え?」
「ほら、揉んだら大きくなるって言うだろう? 俺が赤月さんの胸を揉んで、育てるよ!」
「……」
思わず絶句していました。いや、羞恥で声が出なかったのかもしれません。大上君は何でもなさそうに言いましたが、私は恥ずかしさでいっぱいでした。
「……大上君の変態っ」
「涙が零れそうになるくらいに恥ずかしがっている上に、上目遣いで訴えてくる姿が凄く扇情的なんだけれど……。襲っても良い?」
「駄目ですっ!」
即答すると大上君はからからと笑ってから、私の上から降りました。
離れて行く熱を少しだけ寂しく思ってしまったのは、まだ私の中の何かが大上君を求めているからでしょうか。
くすくすと楽しそうに笑っている大上君でしたが、私に手を伸ばしてから支え起こしてくれます。
「今日のところの触れ合いはこのくらいにしておくね。……ごめんね、赤月さん。噛んだり、舐めたり、触ったりしちゃって」
「……二人きりの時ならば、別に構いません。公共の場では控えて欲しいですけれど……」
「本当っ?」
大上君は嬉しいと言わんばかりに表情を輝かせていきます。
「大上君に……求められるのは嫌いではありません。ですが、こういうことって回数を重ねないと慣れないでしょうし……。そっ、それに、その……。あの、本番の時には……先に触れ合うことに慣れていないと、顔も見られなくなりそうなので……」
私が恥ずかしさを押し殺しつつ、顔を背けながら伝えると大上君はぱぁっと更に笑顔になっていきました。
「うんっ、そうだね! 本番に向けて、今から色々と練習していこうね! 俺もどうすれば赤月さんをもっと気持ちよく出来るか、しっかりと勉強しておくから!」
「そういうことは公言しなくて良いんですっ、もう!」
そのようなことをはっきりと言える大上君は本当に凄いと思いますが尊敬はしません。
あと、人前では言わないで欲しいですね。私が恥ずかしさで爆散します。
「あ、それと赤月さんに一つ、謝らなければならないことがあって」
「え? 何でしょうか」
「あのね……。肩に痕を付けちゃったから、肩口が見える夏服は着ない方がいいよ」
「っ! そ、そういう大事なことはもっと早く言って下さいっ!」
「俺はちゃんと言ったよ? 痕を付けるよって」
「っ……!」
私は頬を膨らませてから、すぐさま立ち上がります。駆け抜けるように洗面台へと向かって行き、肩口を鏡へと映すとそこには歯型がしっかりと付いていました。
「もうっ、大上君っ!」
お互いに触れ合う練習は必要だと先程、話し合ったばかりですが夏の時期は止めて欲しいです。
でなければ、幼馴染達だけでなく、他の友人や先輩、教授にも「痕」が見られてしまう可能性があるからです。
私は涙を瞳に浮かべつつ、とりあえず肩口が見えないようにと服で隠すしかありませんでした。