赤月さん、大上君に熱を向けられる。
私の首筋を何度も辿るように舐めていた大上君はゆっくりと顔を上げていきます。お互いの視線が重なり合えば、大上君はすっと目を細めていきました。
まるで熱に浮かされているような表情をしており、その顔は私の瞳には妖艶に映っていました。頬が紅潮しており、瞳はとろんとしていて、酩酊のような状態にも見えました。
「……本当はもっと、もっと、君を求めたい。でも、嫌われたくはないんだ。それなのに、この身体は君を食べたいと何度も訴えてくる」
まだ食べ足りない。もっと味見したい。
そんな感情をぶつけるように、彼は小さな声で呟きました。
「もう少しだけ……。この先をあと少しだけでいいから、味見してもいい?」
怖がらないで、と付け加えるような瞳で大上君は了承を得ようと私を見下ろしてきます。
「もっと、奥に触れてもいいかな? 赤月さんの誰も、触ったことのないところを……俺が最初に触りたい」
「っ……」
いつもならば、何を言っているんだと言い返していたでしょう。ですが、大上君の熱の込められた視線と温度に私も浮かされてしまったようです。
これ以上は限界だと思える程に顔が赤くなっているはずなのに、私は大上君の言葉を了承するように頷き返してしまいました。
私が答えると大上君は嬉しそうに目を細めてから小さく微笑みました。その表情を見てしまえば、胸の奥に何か深いものが突き刺さったような感覚に陥ってしまいます。
「痛いことはしないけれど。でも、少しでも嫌だと思ったら、言葉にして欲しい。俺は赤月さんが嫌だと思うことはしたくはないから」
それまで絡め合っていた指をそっと解き、その言葉に私はこくんっと強く頷き返します。
「それじゃあ……触れるね」
そう言って、大上君が触れ始めたのは私の肩口や首筋などではなく──腹部でした。
私の服の下にゆっくりと右手を沿うようにしながら、滑り込ませていきます。
「ゃぁ……っ……」
人に腹部を触られることに慣れていない私は短い声を上げてしまいます。
「嫌、だったかな」
大上君が確かめるように声をかけてきましたが、私はふるふると首を横に振りました。
「だ、大丈夫、です……。あの、慣れていないので……」
「うん。無理矢理なことはしないよ。……でも、いつかお互いの素肌が触れ合う時が来るかもしれないからね。それまでに触れられることに慣れていて欲しいな」
「っ!」
その言葉の意味をすぐさま理解してしまった私は一瞬にして顔を茹でられた蛸のように真っ赤に染まっているでしょう。
「まだ当分、先の話だけれど……。赤月さんは俺と……素肌で触れ合うのは、嫌かな?」
それが何を意味しているのか、さすがの私でも分かるつもりです。
恥ずかしさから、涙が瞳には浮かんでいましたが、私は大上君の言葉を咎めるように少しだけ訴えかける視線を向けました。
「大上君は……私と、したい……んですか」
大上君ならば私が言った言葉の意味をすぐに理解するでしょう。案の定、彼はゆっくりと頷き返しつつ、右手を更に服の奥へと差し込んできました。
「ゃ、んっ……」
喘ぐような声を出してしまえば、大上君はどこか満足するような笑みを薄っすらと浮かべます。
「そうだよ。俺は赤月さんとしたい。心だけでなく身体を重ねて、全てを重ね合わせて……。そうやって、赤月さんと一つになりたいって心底思うよ」
空いていた左手を使って、大上君は私の右頬に添えるように触れてきます。
私の頬と同じくらいの大上君の手は熱いものでした。
彼もまた、大きな熱を身体に帯びているのです。
「こんな状態だけれど、今は凄く抑えているんだ。……君が本当の俺を見たいって言ってくれたから、こうやって見せているけれど、それでもまだ半分にも満たないくらいだ」
「半分にも満たない、のですか」
「そうだよ? ……男というものは夜に本性が出るものだからね」
そう言って、大上君は低く笑います。
「……だから、まだ君には手を出さないよ。今まで以上に、密接に触れ合うことはあるかもしれないけれど……その先はしないと約束する」
大上君は目を細めつつ、薄く笑っていましたがそこに偽りは映ってはいませんでした。本当に心からそう思っているのでしょう。