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赤月さん、大上君に味見される。

 

「た、食べるって、いつも言っていますが……。どんな風にお食べになるつもりなんですか」


「詳細に説明しておいた方がいいならば、そうするけれど」


 どうやら大上君が今から私を食べるのは決定事項のようです。


「君が俺の枷を外しちゃったんだ。……鎮まるまで、付き合ってくれるよね?」


「は……はい……」


 もはや、それしか返事が出来ませんでした。目の前の大上君がにこり、と嬉しそうに笑います。


 すると私の視界を更に覆うように、大上君の身体が重なってきました。体重を載せられているわけではないので重くはありませんが、真正面を向いたまま、しかも横になっている状態です。


 何をするつもりなのだろうかと構えていると、大上君の顔は私の肩口に沈んでいきました。


「赤月さんは肩が細くて白いね。夏場だと服が薄いから、熱を直接感じられる気がするよ」


 囁くように大上君は静かに呟きます。


「……それじゃあ、少しだけ。味見させてもらうよ」


「……っ」


 肩口へと沈んでいた大上君の顔は一度離れて、それから少しだけ服が引き下げられて露わになった私の肩口へと唇を押し付けました。


「っ……!」


 首筋ではなく、肩口に触れた柔らかさに私は思わず目を瞑ってしまいます。くすぐったさを感じているはずなのに、別の感情を感じてしまっている気がして、自分が自分ではない気分です。


「おお、か──」


「痕、付けさせて」


 返事を返す暇さえなく、大上君は私の肩口にかぷり、と歯を立てました。


「っ──」


 初めての感触に私は大上君の服を思わず握りしめてしまいます。怖いと感じてはいないのに、何故か大上君に縋るようなことをしてしまったのです。


「大上、君っ……。なんで、そんなところ……」


「……」


 何故と問いかけても大上君は答えることなく、私の肩口を軽く甘噛みしたままです。


 まるで犬がお気に入りのおもちゃを何度も噛んでは遊んでいる、そんな感じで大上君は私の肩を何度も甘噛みするのです。


「……美味しい……」


 ぼそりと呟かれた言葉に私は小さく身震いしてしまいました。大上君は私を食べたいと言っていましたが、それはもちろん比喩表現だと分かっています。


 それでもこうやって大上君に覆いかぶさられて、肩口を何度も甘噛みされるなんて、傍からみれば獣に食べられているような状況ではありませんか。


「甘美な匂いだけで我慢していたけれど、軽く甘噛みも出来るなんて……。舌先から、赤月さんの味がする……。もっと奥深くまで進めたくなってしまう……。服が少し乱れているところも、また良い……。何て扇情的なんだ……。赤月さんは無自覚に俺を煽るのが上手いよね」


「一々、説明しなくてもいいですからぁっ……。そもそも、服を乱したのは大上君です……」


「うん、だって、その方が舐めやすそうだったし」


「な、舐め……?」


「そうだよ。……それじゃあ、続きを始めるね」


「え、あのっ、ちょ……」


 私が止める前に、大上君は再び先程と同じ体勢に戻ってしまいました。少しだけ服が乱れた私の肩口に唇を触れさせつつ、今度は舌で軽く舐めてきたではありませんか。


「ひゃっ……」


 これも初めての感触です。ぞわりと鳥肌が立つような感覚が身体中を駆け巡ったというのに、「嫌だ」という気持ちは沸き起こりませんでした。

 つぅーっと、大上君はそのまま肩口から首筋にかけて、舌で舐め取るように沿って行きます。


「ぁ……っ、ぅ……」


 誰かに舐められたことなんてなかったので、それがどんな感覚なのかこれまで知りませんでした。


 いつの間にか、私の上に覆いかぶさるような状態から、跨るような状態になっていた大上君は私の両手を床に縫い付けるように掴み上げていました。


 それまでは手首を握っていたのに、手を這うようにしながら、お互いの指を絡めていきます。


 ──逃がさない。


 そんな意思が込められている気がしたのに、私は絡められた手を解こうとはしませんでした。


 ずっと、こうしていたい。そんなことを思ってしまうのは何故でしょう。

 大上君の指が私に縋るように絡められ、身体は組み敷かれたままです。


 ……ああ、やっと分かりました。私は、大上君に求められているということだったのですね。

 心だけでなく、身体も。何もかもを大上君は求めているのです。


 それが嬉しく思ってしまう程に、私の心も──大上君を求めてしまうのかもしれません。

 だから、初めて感じる感覚だったとしても嬉しいと思ったり、どこか気持ち良さのようなものを感じてしまっていたのかもしれません。

 

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