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赤月さん、大上君とレポートをやる。

 

「目移りする気持ちは分かりますが、とりあえず座って下さい」


 私の部屋には椅子とテーブルはありません。普段から机として使っているのは炬燵の台です。

 大上君が座りやすいようにと炬燵の台の前には座布団を置いておきました。


「えっ、この座布団ってもしかして、赤月さんの手作り……!? つまり、俺は今、赤月さんの上に……うっ、は、破廉恥だ……っ」


「あなたの頭の中が一番、破廉恥だと思います」


 何を言っているのでしょうか、大上君は。

 座布団、引き抜きますよ。


「うぅっ……。この空間全てが尊すぎる……。俺はここに居ていいのだろうかって罪悪感が込み上げてくる……」


「……」


 座布団の上に座った大上君はそわそわと肩を揺らしながらも落ち着かない様子で周囲を見渡しているようです。


「……苺タルトに合いそうな、美味しい紅茶があるんですが、一緒に出しましょうか?」


 飲み物は緑茶、紅茶、コーヒーを用意していたんですが、苺タルトには紅茶が合いそうですね。


「う、うんっ……。はっ、赤月さんが普段から使っている茶器を使わせてもらえる、だと……!? つまり、間接的に唇を重ねるということ……っ!? こ、心の準備を……」


「お望みならば、紙コップも用意出来ますが」


「陶器のカップでお願いします!!」


 あまりにも全力です。


「まぁ、カップで飲む方が紅茶は美味しいですよね。用意してくるので待っていて下さい」


「うん、ありがとう」


 お湯を沸かすために使うのはヤカンではありません。瞬間湯沸かし器というとても便利なものを愛用しています。

 お湯が沸くまで、ティーカップとティーポットの準備をすることにしました。花模様が描かれている茶器は私のお気に入りです。


 そして、戸棚からお気に入りの紅茶の茶葉を取り出してから、沸いたお湯を使って、さっそく紅茶を淹れ始めます。

 時間を計っている間に、大上君から頂いた苺タルトをお皿に並べましたが本当に美味しそうですね。食べるのが楽しみです。


 全ての準備を整えてから、お盆に並べて、リビングへと運びました。


「お待たせしました」


 先程よりも大上君は落ち着いているようで、炬燵の台の上には彼の勉強道具が広がっていました。

 私の部屋へと訪れた本来の目的を忘れていないようで良かったです。


「ありがとう、赤月さん」


 紅茶と苺タルトが載ったお盆を二人が作業する際に邪魔にならない場所へと置いてから、私も同じように座布団の上へと座ります。


「こちらこそ、美味しそうな苺タルトをお土産に下さり、ありがとうございます」


「勉強するには甘い物が必要だからね。……本当は色々と赤月さんの部屋を物色したいところだけれど、そこはぐっと我慢して、真面目にレポートをやることにするよ」


「うん? もしレポートが終わったとしても室内を物色することへの許可は出しませんからね? それに物色したら、部屋から叩き出すか、もしくは白ちゃん達を電話で呼びます」


「しません」


 即答でした。

 ですが、このくらい脅しをかけておかないと大上君は……やりかねないので。


「それではさっそく、始めましょうか。お互いにレポートが多いと思いますが、頑張って終わらせましょうね」


「うん!」


 そうやってお互いに健闘を称えたところまでは良かったのですが、空気は一瞬で変わりました。


 つい先程まで、にこにことした表情を浮かべていた大上君は一体、どこへ行ってしまったのでしょうか。

 目の前に座って、紅茶を飲みながら参考資料の本を読み進めては、覚え書き用のノートに何かを書き込み、そして持参していたパソコンに片手で早打ちしている彼は一体、誰でしょう?


「……」


 何度見ても目の前に居る彼は大上君です。


 大上君、真面目な表情をしていると整っている顔が際立って、更に格好良く見えるのにどうして普段はあんな感じなのでしょうか。不思議です。


 それにしても片手でパソコンに入力するって、その技術の高度さ、どこで培って来たんですか。

 指が長いとキーボードが届く範囲が広くなっていいですね。いえ、そういうことではなく。


 そして、凄い集中力です。やはり、レポートが七つもあると情報整理が大変なのでしょう。私だったならば、てんてこ舞いになってしまいそうです。


 私も気合を入れて、目の前のレポートを終わらせないといけませんね。


 そう思いつつ、大上君から頂いた苺タルトをフォークで切り込み、一口分のサイズにしてから口へと運びます。

 ……凄く美味しいです。恐らく、今まで食べて来たタルトの中で頂点に立つ美味しさです。


 朝一で店の前に並んでまで買って来てくれた大上君には感謝しなければなりませんね。


 この美味しい苺タルトのおかげで、私のやる気もうなぎ上りです。

 レポートの数は大上君よりも少ないですが、今の勢いだと大上君があっという間にレポートを終わらせてしまいそうですからね。私も頑張るとしましょう。


 もちろん、片手作業なんて器用なことは出来ないのでこつこつとやっていきたいと思います。

 

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