赤月さん、大上君を部屋へと入れる。
大上君が私の部屋へと訪れる日曜日を迎えました。この日のために、昨日は部屋の掃除を頑張りましたよ。
でなければ、埃が一つでも残っていたら大上君が「お持ち帰りしたい」などと言い出しそうですからね。
確かに埃は不必要なものですが、持って帰るとか言われてしまうとドン引きしそうです。
なので、ごみ箱の中身も空にしておきました。
こちらも同じ理由です。
そして、夕飯用のカレーの準備も万端です。ご飯ももちろん、炊飯器の時間を設定しているので夕方になったら炊き上がります。
「ええっと、他に準備することは……」
そんな感じで確認を行いながら待っていると部屋のチャイムが鳴り響きました。
「はーい」
私はすぐにインターホンの画面で確認します。玄関前に立っているのはやはり大上君でした。
私の部屋に来る際にスーツで来た方が良いかな、などと言っていたので断固拒否しました。スーツで来ていたら、絶対に部屋へと入れないつもりだったので、私服で来てくれて一安心です。
鍵を開錠し、そして玄関の扉を開きます。扉を開いた先には、にこにこ笑顔の大上君が居ました。ちゃんと勉強道具も持ってきているようですね。
「こんにちは、大上君」
「お邪魔します、赤月さん!」
「どうぞ」
大上君が私の部屋に居るって、何だか不思議な感じがしますね。いえ、変な意味は全くないですけれど。
「あ、そうだ。赤月さん。これ、この前言っていた限定苺タルトだよ」
大上君は「はい、どうぞ」と言って、私に苺タルトが入った小さな箱を渡してきました。
「わぁ……。一日、三十個限定なのに、よく買えましたね」
「朝一で並んでいたからね!」
「それは……えっと、そこまでして頂き、ありがとうございます……。大事に食べますね」
大上君は苦ではないと言わんばかりに笑顔ですが、何だか一気に食べづらい苺タルトになってしまいましたね。一口を大事にしながら食べたいと思います。
靴を脱いで、部屋へと上がってくる大上君をさっそくリビングへと案内しようとしていると彼は突然、顔を両手で覆い始めました。
「赤月さんの部屋……!」
まるで抑えることが出来なかったと言わんばかりに叫んだのです。
「赤月さんが普段、生活を送っている部屋! 赤月さんが毎日、過ごしている部屋! 赤月さんが寝て起きて、色んなことをしている部屋に今、俺は居る……!」
「……」
心から感激したように叫んでいますが、言っている内容はほぼ同じです。
「どうしよう……! 赤月さんの部屋で、赤月さんと二人きりな上に、赤月さんが吸って吐いた息を俺が吸っている……! 赤月さんが触れている空気に俺が触れているなんて、どれほど最高過ぎる空間なんだ……! 全呼吸器官を総動員して、肺の奥底まで取り込まないと……。あ、ビニール袋持って来ていたかな……」
「あの、気持ち悪いんですけれど、特に後半」
さすがに空気を取り除くことは出来ないので、換気するしかありません。
「はっ……。ごめん、つい興奮して、本音を……」
そう言って取り繕ったような表情をしていますが、今更遅いですよ。
「大上君、本当そういうところは変わりませんよね。安定の変態です」
「安定の変態って何だかパワーワードだね? でも、安心して! 赤月さんに関することしか興奮しないから!」
「そういうところが変態だって言っているんですよ!」
何を言い出しているのでしょう、この人は。私は大上君の背中をぐいっと押しながら、リビングへと連れていきます。
「あっ、まっ、待って、赤月さんっ! まだ、俺……。リビングに入る心の準備がっ……あぅっ……」
「ごちゃごちゃうるさいです」
私は思いっきりに大上君の背中を押して、無理矢理にリビングへと入れました。
「ふわあぁ……っ。赤月さんの部屋……! か、可愛い……。本棚は講義で使うものと小説が分けて整理されているんだね、さすが赤月さん! 整頓上手! はっ……! テレビ台に置かれている小物も可愛い……っ! 写真、写真を……!」
「写真撮影は許可しかねます」
私の部屋を撮影して、一体何に使う気ですか、大上君。本当に油断ならない人ですね。やはり、大上君を私の部屋へと入れるのはまだ早かったかもしれません。