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赤月さん、大上君にお願いされる。

 

 大学生になって初めての夏休みまで、あと一ヵ月半を切りました。

 学期末にレポートを提出することで単位が取得出来る講義はこの時期から、レポートの「テーマ」が発表されます。


 私も受けている講義の中で、レポートを提出しなければならないものを確認したところ、五つの講義がレポート提出による単位取得条件でした。

 その他は試験のようです。


 講義ごとに試験の仕方は変わってくるようで、ノートや教科書の持ち込みが許可されているものもあれば、筆記用具のみの持ち込みしか許されていないものもあります。

 この辺りはちゃんと確認しつつ、しっかりと試験勉強を頑張りたいと思います。


 そんなことを計画しつつ、レポートを書く際の参考文献となる本を読んでいる時でした。


「……赤月さんの部屋に行きたい」


「……はい?」


 あまりにも唐突に大上君はそう告げました。


 講義がない時間を利用して、大上君と共に図書館の席に座って、自分がやるべきことを進めている時に、彼は突然そのように告げたのです。

 首を傾げる私に対して、大上君は至極真面目な表情を浮かべて言葉を続けます。


「赤月さんの、部屋に、遊びに行きたい」


「いや、ゆっくり言っても意味は何も変わっていませんからね?」


 それまで大上君は参考文献を読みながら、日本文化史のレポートを書いていたはずです。集中力が切れてしまったのでしょうか。


「俺、提出しなければならないレポートが七つもあるんだよね……」


「私より二つも多いんですね」


「それでね、レポートの提出日がいくつか被っていてね……」


「それは大変そうですね」


「なので今、レポートがちゃんと提出出来るように頑張っているんだよね」


「はぁ……」


 大上君、何が言いたいのでしょうか。私が相槌を打つように言葉を返すと大上君は真剣な表情のまま、このように告げました。


「ご褒美が欲しいです」


「はい?」


「赤月さんの部屋で一緒にレポートをやりたいです。あわよくば、赤月さんの部屋が見たいです。赤月さんの私生活をこの目に焼き付けたいです。赤月さんの……」


「あまりにも必死過ぎて怖いんですけれど。……大体、私の部屋を見ても……」


「赤月さんの部屋というだけで、価値があるんだよ!? 赤月さんが普段、過ごしている部屋で同じ空気を吸うなんて、最高過ぎるご褒美なんだよ!?」


「……」


 大上君は小声で私に訴えてきましたが、私は遠い目をしてしまいます。


「うっ、赤月さんの冷めた瞳……! ご褒美、ありがとうございます……!」


 そう言って、大上君は自分の胸を両手で押さえていましたがいつものことです。


「……要約すると、レポートを頑張るので私の部屋にお邪魔したいということでいいですか?」


「そういうことです」


 こくり、と大上君は頷き返します。


「赤月さんと一緒にレポートを書いたり、試験勉強をしたり、いちゃいちゃしたり、あんなことやこんなことがしたいなと思って」


「後半は聞かなかったことにします」


 欲望に忠実かつ正直な発言ですね。


「……駄目、かな?」


 大上君の方が身長は高いというのに、どこか上目遣いで私を見てきます。これは大上君の「お願い」ポーズですね。さすがに何度も見ているので分かるようになりました。


「……ちゃんとレポート、します?」


「します。めっちゃ書きます。その日のうちに全部終わらせる気概で頑張ります」


「うーん……」


「赤月さんへのお土産に美味しいデザートを買っていきます」


「うっ」


「一日に三十個だけの限定苺タルト」


「どうして私が食べてみたいと思っていたものを知っているんですか」


「赤月さんのことなら、何でもお見通しだよ!」


 本当にお見通しされていそうですね。気を付けないと思考まで読み取られてしまいそうです。


「……日曜日でしたら、空いています。土曜日は図書館のアルバイトが入っていますので」


「本当っ?」


 大上君はぱぁっと笑顔を浮かべました。私からの許可を相当喜んでいるようですね。


「お泊りは無しですよ? 次の日は講義がありますし。……まぁ、夕飯くらいならばご馳走しますけれど」


「赤月さんが作るご飯……!」


 どうやら大上君のやる気スイッチが入ったようですね。とても分かりやすい反応です。


「何か食べたいものがあるならばリクエスト下さい」


「赤月さんが作ってくれるものなら何でも食べたい……。むしろ、永遠に……」


「それではカレーで」


 確か冷蔵庫の中にカレーを作るための材料が揃っていたので。


「材料費を支払うので、タッパーでカレーを持って帰ってもいいでしょうか」


「……まぁ、いいですけれど」


 まさか永久冷凍保存する気ではないですよね?

 そんなことを思いつつも大上君の要望に対して許可することにしました。


「それでは今度の日曜日に勉強会ということで」


「うん! 楽しみにしておくね!」


「……真面目にレポートに取り組んで下さいね」


「もちろんだよ!」


 にこにこと楽しそうに笑っていますが本当に大丈夫でしょうか。


 でも、大上君が私の部屋に来ると言うならば、細かいところまで掃除をしたり、整頓しておかなければなりませんね。

 大上君に気付かれないように、部屋の掃除を頑張ろうと私は小さく気合を入れなおしていました。

 

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― 新着の感想 ―
[一言]  大上君なら本当にタッパーでカレーを永久保存しそうで怖いですね(汗 何か赤月さんも色々な大上系の想像をするようになってきましたね^^
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