赤月さん、皆にお土産を渡す。
大上君とのデートを終えてから、二日後の月曜日。
昨日は一日、一昨日のデートのことを思い出しては悶えていましたが、何とか平常心を保てる程に心が落ち着きました。平静のままでどうにか過ごしたいです。
いつものように大学で午前中の講義を終えてから、お昼休みの時間に食堂へと向かいました。
よく座っている席にはすでにいつものメンバーが揃っています。もはや固定ですね。
「やぁ、千穂。伊織とのデートはどうだったかな? 防犯ブザーは役に立った?」
昼食の肉うどんを食べていた白ちゃんが顔を上げてから、にこやかな笑顔で訊ねてきます。
「いえ、防犯ブザーを使うような事態にはなりませんでした」
「それなら良かった」
「ねぇ、俺ってそんなに信用ない? 赤月さんの了承無しに手を出すつもりはないからね!?」
「ふふん。ちなみにこの防犯ブザーの紐を引くと、自動的に僕や小虎のスマートフォンに緊急連絡がいくようになっているんだよね」
「地味に高性能だね!?」
悲痛な叫び声を上げている大上君ですが、前科があるので。
ですが、どちらかと言えば、白ちゃんの言い方は大上君をからかっているようにも聞こえましたね。そういう仲にまで発展していて、幼馴染の私としても嬉しい限りです。
そんな二人を放っておいて、私は鞄の中から次々とお土産を取り出しました。
「ことちゃんと来栖さんには大福セットです。海の生き物に模して作られているので、とても可愛らしいんですよ」
「お土産っ! ありがとう、千穂! 可愛い上に美味しそうな大福だな!」
「ほう、中々面白いデザインの大福だな。ありがたく頂くよ」
二人は対照的な表情を浮かべていますが、それでもお土産を喜んで受け取ってくれたようです。
「はい、奥村君には水族館クッキーです」
「僕の分もあるのか」
奥村君は驚いたような表情で訊ね返してきました。
「いつもお世話になっていますので」
「いや、世話というほど、何かしているわけではないが……」
「この前の講義での発表の時も色々と手助けしてもらいましたから、普段のお礼だと思って下さい」
「……そうか。ならば、ありがたく受け取るとしよう」
女子と会話をするのが苦手だと言っていた奥村君ですが、私や来栖さん、ことちゃんと会話することには慣れたようで、普通に笑みを返してくれました。
「ほら、白ちゃん。白ちゃんにもお土産を買ってきているんですよ」
「本当かい? ありがとう、千穂」
白ちゃんはぱっと笑顔を浮かべつつ、大事そうにお土産を受け取ってくれました。
「それで初デートで二人はどこまで行って、何をしたんだ? ん? ほれ、私に教えてみろ」
「あまりにもド直球だな!? 訊ね方がおやじくさいぞ……」
来栖さんの言葉に含められた意味に気付いた奥村君が顔を赤らめつつ、ツッコミを入れます。
「えっとね、水族館に行って、その後は美味しいハンバーグを食べて、そして夜景を見て……」
大上君は右手の指を折りつつ、丁寧に説明します。
「そういう意味じゃないと思うよ、多分」
白ちゃんがどこか呆れたように呟きました。
一方でことちゃんは「水族館、いいなー!」と言っていました。
そういえば、同じく海の生き物を見に行く機会が無かったのはことちゃんや白ちゃんも同じでしたね。今度、一緒に水族館に行こうと誘ってみましょう。
「ふふっ。もちろん、わざとだよ? だって、せっかく赤月さんと恋人らしく過ごしたのに、その内容を事細かく友達に教える程、俺は無粋じゃないからね。赤月さんとの想い出は俺の心の中で大切にしておきたいから、どんなに訊ねられても『秘密』としか答えないよ?」
大上君はにこりと笑って返していました。そんなに真っ直ぐに答えられると、私の方が恥ずかしいのですが。
「ふふん。良い返事だな、大上」
ふっと来栖さんは何かを覚ったように笑います。
「恋人との想い出は大事にするべきだ。そう易々と他人に語っていいものではない。双方によって育まれた想いこそ、至高の宝物だからな」
「だよね! そうだよね! 来栖さんなら分かってくれると思っていたよ」
「君とは良い友人になれそうだ。主に恋愛観において」
「俺もそう思う!」
テーブルを挟んだまま、大上君と来栖さんはがしっとお互いの右手を掴み取り、握手を始めます。どうやら二人の中の何かが一致したようですね。
「……赤月。この二人は放っておけ。早く食べないとうどんが伸びるぞ」
「そ、そうですね……」
どこか呆れたような声色で奥村君がそう促してきたので、私はこくりと頷き返します。
暫くの間、私達が座っているテーブルでは大上君と来栖さんによる恋愛観の議論が行き交っていましたが、それらを背景音楽にしつつ昼食を摂っていました。