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赤月さん、大上君に提案する。

 

 ペアルックを断られた大上君はしょんぼりとした様子でしたが、気持ちを持ち直したのかすぐに顔を上げました。


「確かにお互いの身長に見合ったペアルックを見つけるのは大変だよね……。それならばいっそのこと、同じ布で一から服を作れば、ペアルックになるのでは……?」


「大上君、その自由なポテンシャルの高さはもっと別のもので使った方がいいと思います。どうしてわざわざペアルックのために服を一から作ろうなんて考えに至るんですか……」


「だって、赤月さんとお揃いの服が着たいと思ったんだもん!」


「……服はサイズ的に無理ですが、それ以外の物だったらお揃いに出来ると思いますよ」


「え?」


「例えば……マフラーや手袋とか。毛糸で作れますし」


「っ!?」


 私の答えに喜んでいるのか、大上君はぱぁっと瞳を輝かせていました。本当にお揃いのものを取り揃えたいようですね。


「……作りましょうか」


「ふぇっ!?」


 私がぼそりと呟くと、大上君の耳にはしっかりと届いていたようで彼の表情は喜びで満ちていました。


「あ、赤月さんが俺のためにマフラーを編んでくれるというの!?」


 ぐいっと顔が近づいてきたので、私は一歩だけ後ろに引き下がってから頷き返します。


「え、ええ、まぁ……。編み物は祖母に一通り、教わったので……」


 こう見えて、手芸は得意です。なので、マフラーや手袋だけでなく、帽子や靴下、鍋敷きなども作れます。

 冬は雪が多く降る地域に住んでいたので、家の中で過ごす際には手芸をしていることが多くて、いつの間にか上達していました。


「まだ、初夏ですけれど、冬用のマフラーを今から編みましょうか? お渡しするのはもっと先になりますが」


「いいのっ!?」


「……お揃いが欲しいならば、マフラーの色は同じ色でいいですか?」


「うんっ!」


「……分かりました。では、大上君に似合う色でマフラーを編みますね」


「ありがとう、赤月さんっ!」


 大上君は今にも私に抱き着かんばかりの勢いでしたが、ここは人が通る場所だと気付いたようで、わざとらしく咳払いをしてから、一歩後ろに引きました。


「よし、それなら俺もクリスマスにプレゼントするものを今から考えようかな」


「今、六月ですよ。クリスマスまであと半年もありますけれど、プレゼントを考えるの、早くないですか?」


 半年も熟考されたら、何だか恐れ多いものを渡されそうな気がします。


「あっ、でもクリスマスの前に赤月さんの誕生日も来る……! こっちの準備も進めなきゃ……! 何と言ったって、俺の赤月さんの生誕祭だからね! それはもう、一生分の思い出になるように……」


「生誕祭って、私の誕生日はお祭りではありませんからね。ほどほどにして下さい、ほどほどに」


 大上君ならば、お神輿を作って私を抱え上げそうなので怖いです。白ちゃんやことちゃんに先に手を回して止めてもらいましょう。


「だって、俺にとっての唯一の人が生まれた大事な日だよ? 心行くまで祝わないと気が済まないからね」


「大上君、新しい宗教でも始める気ですか……。……私は落ち着いた空気の中で祝われたいです。普通でいいんです、普通で」


 そもそも、私の誕生日は十月です。あと四ヵ月も先のことなのに気が早いですよ。


「うーん……。それじゃあ、落ち着いた感じに趣向を変えてみるね。まず、ケーキは三段にして、蝋燭は歳の数が必要でしょう……。それとローストビーフ、お寿司、ピザ、七面鳥の丸焼き……」


「盛大に祝うという部分から離れて下さい。ケーキ一つに、誕生日おめでとうという言葉、それだけで良いんです」


 ずらりとご馳走の名前を言っていましたが、大上君ならば本当に用意してしまいそうです。


「赤月さんは謙虚だなぁ」


「何事も程々にするから、有難みがあるんですよ。……私には、誰かからの『おめでとう』という言葉だけで十分なんです。それだけで嬉しいですからね」


「……もう少し、欲張って欲しいのに」


「まぁ、元々、物欲な性格ではないので……」


 白ちゃんやことちゃん達からも毎年、「欲しい物はないか」と訊ねられて、「無いです」と答えているので、困らせてしまっているんですよね。ですが、特に欲しいものはないので、仕方がないんです。


「でも、それなら考え甲斐があるね」


 くすりと大上君は笑ってから左手を差し出してきます。


「君の誕生日、楽しみに待っていてね」


「気持ちで十分ですからね。高価な物はやめて下さいね、気が引けるので」


 私は溜息を軽く吐きつつ、大上君の手に自分の右手を重ねました。今日は何度も重ねた手だというのに、私は新しい熱が生まれる瞬間にまだ慣れていないようです。


「さて、遅くなってしまう前に帰ろうか。本当は帰りたくはないけれど」


「そうですね」


「家まで送るよ。あ、部屋には入らないから安心してね」


「……お気遣い頂き、ありがとうございます」


 大上君、嘘は言わない人なのでその言葉を信じたいと思います。……ですが、いつかは大上君を私の部屋に呼んでみたいですね。別に変な意味ではありませんが。


 私達は手を繋いだまま、歩き始めます。あとは電車に乗って、家に帰るだけです。その時間は短いものでしょう。

 けれど、一秒として無駄にはしたくはないと密かに思っていました。

 

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