赤月さん、大上君からお揃いを貰う。
お互いにキーホルダーを付けたものを見せて、そして噴き出すように笑い合いました。
「本当に夢みたいだな。……ずっと、赤月さんの恋人として隣に立つことを望んでいたけれど、それが叶うなんて……」
大上君は浮かべていた笑みをゆっくりと消して、どこか遠くを見つめるように夜の町並みへと視線を向けていました。
そろそろ、帰る時間が迫って来ているのでしょうか。大上君は少し寂しそうな表情をしています。
「……ねぇ、赤月さん」
「はい、何でしょうか」
外の景色を眺めていた大上君がこちらへと振り返ります。そこには何かを心に決めた表情が浮かんでいるように見えました。
「少しだけでいいから、目を瞑ってくれるかな?」
「えっ?」
「あ、別に変なことはしないよ? 十秒だけでいいから。……ね?」
「……分かりました」
穏やかに促してきますが、特に断る理由はなかったので彼の言う通りにすることにしました。
大上君はよく変なことを口走りますが、嘘をつくことはありません。なので、その言葉を信じても大丈夫でしょう。
それにこの場所は人が通るので、大上君が変なことをするとは思えませんし。
「それじゃあ、十秒数えますよ?」
「うん」
私は大上君に言われた通りに目を瞑ります。そして、心の中で数を十秒数え始めました。
「──ちょっとだけ、左手に触れるね」
大上君がそう告げた瞬間、彼は私の左手にそっと触れてから、掬い上げるように掴みました。
何をする気なのでしょうか。そう思っていると、少し冷たいものが手首に触れた気がして、私は肩を揺らします。
「……はい、目を開けてもいいよ」
十秒数え終わると同時に大上君の声がかかったので、私はゆっくりと瞼を開けていきます。
そして、何となく先程と違って、左手に違和感のようなものを感じたのでそちらに視線を向けると──私の左手にはブレスレットがはめられていました。
「え……?」
思わず、よく見ようと腕を動かすと、しゃらんと軽やかな音がブレスレットから聞こえました。
透明で丸い天然石のようなものが連なっていて、灯りで反射しては淡い光を纏っているようにも見えます。腕に付けていても、決して重くはありません。むしろ軽いくらいです。
「あの、これは……」
「アクアマリンだよ。石言葉は聡明、勇敢、あとは幸福だったかな。……俺から君へのお守りなんだけれど、受け取ってくれる?」
「お守り……。……良いんですか? こんなにも綺麗なものを……」
天然石やガラス、ビーズなどは私も好きです。ですが、まさか贈り物として頂くとは思っていなかったので、まじまじとブレスレットと大上君を見てしまいました。
「うん。……そして、実は同じものを持っていたりして」
そう言って、大上君は彼の右手首を私の方へと見せてくれました。そこには私が左手首に付けているものと同じブレスレットが装着されています。
いつのまに付けていたのでしょうか、気付きませんでした。
「水族館のお土産コーナーで見つけたんだ。赤月さんに似合いそうだなぁと思って」
「いつの間に……。全く気付きませんでした」
「赤月さんが他の皆のお土産を買っている時に、こっそりとね」
「……」
あの時でしたか。短時間、大上君から目を離した隙を利用したようです。
「……あの」
「ん?」
「大上君と……お揃いが増えて、嬉しいです。このブレスレットも凄く素敵で……一目で宝物になりました。大切に使わせて頂きますね。……それと私とお揃いにして下さって、ありがとうございます」
私が心に思ったことを素直に告げると、目の前の大上君は両手で顔を覆いつつ、何故か悶えていました。
「うぅぅぅ……。俺も赤月さんとお揃い出来て嬉しいよっ! 今度はペアルックにしようねぇぇ!」
「あ、それはお断りします」
「即答!?」
まず、私と大上君の間にはかなり身長差があるので、お互いに合うサイズを見つけることに難儀すると思いますので。