赤月さん、大上君とお揃いにする。
大上君はどこか尊いものを扱っているような手付きで紙袋に触れていました。微かに指先が震えているようです。
「開けてみてもいいの?」
「……どうぞ」
遅かれ早かれ、プレゼントというものは封が開けられるものです。私は気恥ずかしさを何とか堪えつつ、言葉を返しました。
かさり、と紙と指先が接触する音が微かに響きます。自分で買ったものなので、中身は知っているのですが、どのように受け取って貰えるのか分からないので緊張しますね。
私は大上君から声がかかるまで、黙っていました。
「こ、これは……!」
紙袋から、例の物を取り出した大上君はどこかはっとしたような声色で呟きます。
「二つで一つの意味を成す、このキーホルダーは……! 恋人達がお互いに同じものを付けては、お揃いだねって笑いあっている、ペアのキーホルダー……! そしてお互いが付き合っていることを周囲に匂わせるアイテムの一つ……!」
激しい衝撃を受けたと言わんばかりに大上君は、わなわなと震えています。
袋から取り出されたのは二つで対になっているイルカのキーホルダーです。……さすがにお付き合いを始めたばかりで、お揃いのキーホルダーは早かったでしょうか。
「あ、あ、赤月さんっ!」
「は、はいっ?」
慌てた素振りのまま、大上君に名前を呼ばれた私は、つい肩を震わせながら返事を返します。
「このキーホルダーを俺にプレゼントしてくれたということは……。つまり、俺とお揃いのものを身に着けたいという解釈でいいのかなっ!?」
「えっと、まぁ、そういうことです……」
今、私達が立っている展望台は町並みを楽しめるようにと薄っすらと灯りが点いている薄暗い場所です。
その中でも大上君の顔が輝かんばかりに光っているのではと思える程に笑顔に見えて、私は眩しさで何度か目を瞑りました。
「ありがとう、赤月さん! 赤月さんと『お揃い』にすることが出来るなんて、夢のようだ……。このキーホルダーを身に着けて、他の人達に見せびらかしては、俺は赤月さんのもので、赤月さんも俺のものってことをアピールするんだね! お揃いから始まる小さな独占欲……最高っ……!」
「んんっ? ちょっと解釈違いが発生した気がします。とりあえず、純粋な意味でのプレゼントなので、深く捉えないで下さい」
独占欲って何ですか、独占欲って。ただのお揃いですよ。
時折ですが、大上君との解釈違いが発生するので、出来るだけ穏便に収めたいところです。やはり、意思疎通は大事ですね。
「さっそく、スマートフォンのカバーに付けてもいいかな?」
「いいですよ」
「それじゃあ……こっちの薄桃色の天然石がはめられたイルカは赤月さんに」
そう言って、大上君は二つで対になっているうちの一つを私へと差し出してきました。
「一緒に、付けてくれる?」
楽しそうににこにこと笑いながら、大上君は問いかけてきます。きっと、私が何と答えを返すのか全て分かっている上で、訊ねているのでしょう。
「……お揃い、ですね」
私は大上君から対になっているキーホルダーを一つ、受け取ります。薄桃色の天然石は恐らくローズクォーツなのでしょう。とても優しい色をしています。
「へへっ。赤月さんとお揃いだ」
大上君はまるで夏休みをもぎ取った少年のような笑顔を浮かべつつ、さっそくスマートフォンのカバーにキーホルダーを付けているようです。
私も同じ場所に、同じキーホルダーを付けました。きらり、と天然石が光ったような気がしたのは気のせいでしょうか。
何気ないものなのに、何だか宝物を新しく得たような気分になります。
「ありがとう、赤月さん。ハンカチもキーホルダーも大事にするね、一生!」
「い、一生……ですか。まぁ、喜んでもらえているならば、こちらとしても色々と考えて悩んだ甲斐があります」
「えへへっへ……。毎日どころか毎秒眺めてはにやにやしてしまいそうだよ……」
「時間は有効的に使って下さいね……」
どうか、自作で神棚とか作って、一生崇めたりしないように注意しておいた方がいいかもしれませんね。大上君は本当、何でもやりそうなので。