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赤月さん、大上君と歩く。

 

 デザートを食べ終わる頃には大上君は通常へと戻っていました。具合が悪いのかと訊ねれば、むしろ元気過ぎるくらいに満ち溢れていると返答が返ってきたので、恐らく大丈夫なのでしょう。


 つやつやとした笑顔のままだったので、ちょっと訝しく思ってしまったのですが、本人は嬉しさが溢れていると言わんばかりの笑顔だったので追究はしませんでした。



 夕食を食べ終わった私達は大上君がおすすめの場所に連れて行ってくれるそうで、ゆっくりと歩きながらその場所を目指していました。


 外はすっかり夕暮れ色に染まっていて、もうすぐ夜と呼べる時間が近づいてきます。


 大上君とのデートもあと少しで終わりなのでしょう。その前にどうにかして大上君へと用意していたプレゼントを渡さなければなりません。

 タイミングを掴むのが難しくて、時間だけが経ってしまっているので、何とか渡したいところです。


「はぁ……。赤月さんとのデートが終わってしまうのが寂しい……。今日は全てが楽し過ぎて、一生分の幸せを味わっているのかと思ったよ」


「お、大げさですよ……」


 私と大上君は並んで歩きつつ、とある場所を目指していました。


 ガラス張りになっている駅構内を見上げると、天井に近い場所には一本の通路が端から端へと走っていまして、そこはガラス張りの遊歩道となっているそうです。


 夕暮れ時から夜にかけての時間帯、その遊歩道の展望台から見える町並みがとても綺麗らしく、大上君と共に向かっている最中なのです。


「……それに、また時間を合わせてどこかへお出かけすればいいじゃないですか。別にデートは今日限りというわけではありませんよ」


 私は小声で呟いたつもりでしたが、大上君はしっかりと聞き取っていたようで、ぱぁっと太陽のように明るい笑顔を浮かべ返してきます。


「うん、そうだね! それはもう、毎週休みが来るたびにデートしようか!」


「頻度が多いです!」


 大上君ならばやりかねないと思い、私はすかさず釘を刺します。


「だって毎日、大学で会ってはいるけれども、二人だけで過ごす時間は限られているからね。……俺も赤月さんを独り占めしたいんだよ」


 どこか拗ねたように呟く大上君に対して、私は握っている手をぎゅっと強く握り返してから、苦笑を返しました。


「確かに休み時間はお互いに、誰かが傍にいますからね」


「うん。……特に、同じ学部だからなのか来栖さんや奥村君はよく一緒にいるようになったからね。まぁ、良い傾向と言えば、良いのかもしれないけれど……。俺としてはちょっと寂しいかも」


「わがままですねぇ」


「うっ……」


 大上君は苦いものを食べたような顔をしました。私に構いたいという欲が強いことを自覚しているのでしょう。


「でも、大切なのは時間の長さだけではないと思いますよ」


「え?」


「お互いに、お互いを想う心の濃密さが大事なのではないでしょうか」


「濃密さ……」


「……って、何だか分かっているような言い方をしてしまって、すみません。私も誰かとお付き合いするのが初めてだというのに……」


 思わず口走ってしまったことを後悔するように、私は大上君から視線を逸らします。


 自分らしくもないことを口走ってしまうと、気恥ずかしくなってしまって、まともに大上君の顔が見られなくなってしまいますね。


「──赤月さん」


 名前を呼ばれた私は少しだけ肩を揺らしてから、大上君へと視線を向けます。大上君の顔はどこか縋るようにも見える表情で私を見ていました。


「赤月さん、は……」


「は、はい……?」


「俺と、濃密に心を通わせたいと思ってくれるの?」


 静かに問いかけられる言葉には様々な感情が含まれているのでしょう。そこには恐らく、彼が押し出した勇気も含まれているのかもしれません。

 

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