赤月さん、お土産を買う。
水族館の生き物達をあらかた見終わった私達は、お土産を売っている場所へと移動しました。
海の生き物達のぬいぐるみやキーホルダー、雑貨の他に、お菓子なども多く販売されているようです。
「そういえば、来栖さんにお土産を頼まれていました」
「あの人は俺達の初デートを何だと思っているんだ……」
ぼそりと大上君は呟きましたが、それでもどんなお土産がいいか一緒に選んでくれるようですね。
「来栖さんだけでなく、他の人にも買っていきましょう。えっと、ことちゃんや白ちゃん、奥村君に、梶原教授、それと先輩方……」
私がぶつぶつとお土産をいくつ買えばいいのか、人数を数えていると大上君から慌てて止めに入る声が聞こえました。
「待って、赤月さん! 教授や先輩の分まで買って帰ったら、大変なことになると思うよ」
「え? 大変なことですか?」
一体何でしょうかと首を傾げると大上君は周囲に知り合いがいないというのに、声量を抑えつつ、私に囁きました。
「もし、教授や先輩達の分までお土産を買っていったら……。確実に誰と一緒に水族館に行ったのか、問い詰められると思うけれど、それでも構わないの……?」
「はっ……! そこまで考えは至っていませんでした……!」
日頃から、教授や先輩達にはお世話になっているので、そのお礼としてお土産を買おうと思っていたのですが、確かに「水族館」で買ったお土産を渡せば、「誰」と行ったのか、訊ねられそうですね。
そして、大上君と付き合うことになった過程を根掘り葉掘りと聞かれそうです。
「だから、お土産はとりあえず、友達の分だけでいいと思うよ? 渡す時も食堂に集まった時に渡せばいいと思うし」
「そうですね……。では、そのようにします」
「うん。……まぁ、近いうちに教授や先輩達には俺達が付き合っていることは知れ渡りそうな気はするけれどね」
「うっ……。その時はその時です。覚悟をしておきます……」
大上君と付き合っていることを知られたならば、きっと質問攻めにされることは間違いないでしょう。あまり目立ちたくはないので、出来れば広まらないことを願うばかりです。
「うーん……。ことちゃんと来栖さんは食べるのが好きなので、この海の生き物に模して作られている大福のセットにしましょう。白ちゃんには……柄の部分がイルカの形に模しているスプーンにします。コーヒーや紅茶が好きですし。あとは奥村君……」
奥村君へのお土産が一番迷いますね。そう言えば、彼は何が好きなのでしょうか。
以前、日本中の歴史あるお城を巡ってみたいと言っていたので、お城に興味があるのは知っていますが、他に好きなものは知りませんね。
「それなら、クッキーのセットにしたらどうかな。無難だと思うよ」
そう言って、大上君が私の前へと持ってきたのは、海の生き物達の形を模して作られたクッキーのセットです。これは大変可愛らしい形をしていますね。
「いいですね。それではこれにします! お会計を済ませてくるので、少し待っていて下さいね」
「うん。ゆっくりでいいよ」
私は大上君に一言、言い置いてからお会計をするためにレジの方へと向かいました。ですが、その途中で視界の端に映ったものに足を止めてしまいます。
それはイルカの形をしたキーホルダーでした。正確に言えば、二つ分のキーホルダーがパズルのようにお互いに重なり合っていて、一つの円になっています。
なるほど、これが世間で言うペアのキーホルダーというものでしょうか。
銀色のイルカの目となる部分には青い石と桃色の石が埋め込まれています。恐らく、天然石なのでしょう。
私は少しだけ思案し、そして二つで一つになっているキーホルダーを手に取ってみます。とても可愛らしいデザインですが、シンプルなので鞄などに付けやすそうです。
「……大上君とお揃い」
そんなことを一人で考えては勝手に頬を赤らめてしまいます。
買うべきか否か。
うーん、と数十秒ほど悩んだ私は──お揃いのキーホルダーを買うことにしました。
ええ、自分らしくはないことは自覚しています。ですが、友人達にはお土産を買っておいて、自分の──こ、恋人に、お土産を渡さないのはどうかと思ったのです。
もちろん、大上君への誕生日プレゼントは別に用意しているので、その心配はありません。
私は自分に言い訳をしながら、レジへと並びます。
……このキーホルダーを渡したら、大上君は喜んでくれるでしょうか──なんて、ことを考えましたが、すぐに会計の順番が回ってきたので一度、思考を停止させることにしました。