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赤月さん、大上君と昼食を食べる。

 

 その日のお昼ご飯は軽食にすることにしました。館内で名物として販売されている海の生き物の形を模したパンが売られていたので、私はそのパンを二人分、購入します。

 

 パンの姿になっているウミガメやイルカ、アザラシ、ペンギンといった海の生き物達はとても可愛らしいです。

 まるでぬいぐるみみたいだなと思いました。食べるのが少し、もったいない気もしますね。


「可愛らしくて美味しそうという理由で購入してみましたが、これは想像以上に可愛すぎて、何とも食べにくいですね……」


 海の生き物の形を模したパンの黒くてつぶらな瞳がこちらを凝視してきます。そんな瞳を向けられるとどうも、食べづらいです。


「確かに。頭を千切るのは少しかわいそうな気がするね」


 大上君も私に同意するように苦笑しています。

 座る場所があったので、私達は横に並ぶように座ってから、購入したパンを眺めていました。


「ですが、お腹を満たすためには食べなければならないのです……。そういうわけで……頂きます!」


 覚悟を決めた私は生き物パンの頭から──ではなく、後ろ足の方から食べることにしました。

 口にした瞬間、もふっとした食感に私はぱぁっと笑顔になってしまいます。もぐもぐと口を動かしてから、私は大上君に向けて味の感想を伝えます。


「中身はクリームでした! 凄く美味しいです」


「……可愛いパンをリスのようにもぐもぐと食べている赤月さんが一番可愛い……」


 大上君が左手で胸辺りを鷲掴みにしつつ、苦しげに呟いています。表情は緩んでいるので、大したことではないのでしょう。いつものことです。


「尊い……。とりあえず、脳内に記録しておこう。この尊さを毎晩、思い出して眠ろう……」


「……変なことを言っていないで、大上君もパンを食べてみたらどうですか。美味しいですよ?」


 相変わらず変なことを口走っている大上君に、私はイルカの形をしたパンを勧めてみました。


「うん、そうだね……。つい、赤月さんの可愛さに溺れてしまっていたよ……。本当、赤月さんは何をしても可愛いな……」


「……」


 本当に変わらないですね、大上君は。

 暫く、じっとこちらを見ていたようでしたが、大上君はイルカの形のパンを手に取ると、私と同じようにもぐもぐと食べ始めました。


 大上君、パンを普通に食べているだけなのに、凄く様になるのは何故でしょうか。


「あ、中身は苺ジャムだ」


「パンの中身はそれぞれ違うみたいですね。こっちのアザラシのパンは何が入っているのかな……」


 パンが美味しかったのか、大上君はあっという間に一つ目のイルカパンを食べ終わっていました。二つ目のパンに手を出しつつ、大上君は何かを思い出したのか顔を上げます。


「そういえば、さっきちょっとだけ確認してきたんだけれど、あと一時間後くらいにイルカのプールでパフォーマンスが始まるらしいよ。少しだけ早めに行って、座る場所でも確保しようか」


「わぁ……。イルカのショーを生で見ることが出来るなんて夢みたいです。一度は直接見てみたかったんですよね」


 よくテレビなどではイルカが飼育員さん達と共にお客さんを楽しませるショーをしている光景を見たことはありますが、生で見るのは初めてです。


「赤月さんは本当に生き物が好きだね」


 ふふっと小さく笑いながら大上君は私に穏やかな視線を向けてきます。私はわざとらしく咳払いをしてから、言葉を返しました。


「……はしゃいでも、笑わないで下さいね?」


「笑うわけがないよ。それに俺は赤月さんが楽しそうにしている姿を見るのが好きだし」


「……大上君は物好きです」


 照れを隠すように私が少しだけ不貞腐れたように呟くと、隣からは軽い笑い声が聞こえてきました。


「だって、君に惚れているから仕方がないよ」


 さらりと言い切った大上君の言葉に私の顔は紅潮してしまい、暫くの間、俯きつつパンを頬張るしかありませんでした。

 

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