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赤月さん、大上君と手を繋ぐ。

 

 大上君と一緒に電車に乗って、十数分程で目的地がある最寄りの駅へと到着しました。一番大きな駅なので、様々な人が乗り換えに使っているようで、想像以上に多くの人々が行き交っています。


「赤月さん、はぐれないように手でも握る?」


 大上君は一度立ち止まってから、私の方へと振り返ります。まさかの申し出に私はぎこちなく動いてしまいました。


「えっ……。あ、う……。で、では……少し、だけ」


「うん」


 私の方へと伸ばされた大上君の左手は、自分のものよりも大きくて、一瞬だけ触れるのを躊躇ってしまいました。

 それでも、大上君は笑顔のままで私が手を重ねるのを待っています。


「失礼します……」


 躊躇えば躊躇う程に恥ずかしさが込み上げてくるものだと気付いた私は、気合を小さく入れてから、大上君の左手に自分の右手を重ねました。


 ぎゅっと握り返される感触に、私は思わず顔を上へと上げてしまいます。目が合った瞬間、大上君は私を見て、少しだけ瞳を細めました。

 込められた感情には熱いものが宿っていたせいで、私はすぐに顔を逸らしてしまいます。


「それじゃあ、行こうか。ここから十分ほど、歩いた場所に目的地があるから」


「は、はい」


 手を握っていることで、私は更に緊張してしまっているようです。それでも、大上君は繋いだ手を離す気はないようで、ぎゅっと握りしめたままです。

 歩幅も違うというのに、大上君は私に合わせて歩いてくれました。


「赤月さんはこの辺りを観光したことはある?」


 緊張しっぱなしの私を気遣ってくれているのか、大上君が穏やかな声色で話しかけてくれます。

 傍から見たら、私達は恋人のように思われているのでしょうか。それを自覚すると更に気恥ずかしくなってしまいそうなので、今は考えないでおきたいと思います。


 しかし、すれ違う女性の多くが一度は大上君の顔を見ては頬を赤らめていきますね。やはり、大上君は女性に好かれやすいようです。


「私は……。いえ、大学の周辺以外を出歩くことの方が少なかったので、この辺りに来るのは初めてです。先程の駅も乗り換えにしか使ったことがなかったので……」


 顔を上へと向ければ、首が痛くなる程に高い建物ばかりです。この町の中心がここに集まっているようにも感じます。駅も凄く大きくて、観光施設やホテルも入っているそうです。

 さすがは都会だと感嘆の溜息を吐いてしまいそうになりました。


「そうなんだ。それじゃあ、後で色々と案内するよ。たまにだけれど、俺もこの辺りに足を運ぶことがあるんだ。……田舎だと、映画館とか大きな本屋はないからねぇ」


「映画館もあるのですね」


 都会だなぁと思ったのは何度目でしょうか。


 私の出身地には映画館の数は少ないのですが、一応あります。ですが、車を数時間ほど走らせないと何もない場所なのです。

 自然が豊かで静かな場所ですが、車を持っていないとやはり不便だと感じることが多い田舎です。


「また今度、映画を見に行こうよ。赤月さん、動物ものの映画が好きだったよね。確か今度、猫が主人公の映画が始まるらしいよ」


「本当ですか? では、楽しみにしていますね」


「うん。あと、映画館の近くにおすすめの喫茶店があるから、そこにも行こうか。名物のパンケーキが凄くふわふわしていて美味しいんだよ」


「ふわふわのパンケーキ……」


「ふふっ、楽しみにしておいてね。次のデートも忘れられないくらいに最高の思い出にするから」


 あ、今、さりげなく次のデートの約束をしてしまったようです。


 ですが、大上君が楽しそうなので、良しとしましょう。……それに実は私も大上君と一緒に過ごすのは割と……好きなので。

 そんな感情を抱いていることを悟られないように、私は穏やかな表情を浮かべつつ、目的地へと向かう道中、大上君と和やかに会話を弾ませていました。

 

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