赤月さん、大上君と待ち合わせする。
大上君への誕生日プレゼントを考えたり、デートの日に着ていく服を考えたりしていると、あっという間に当日になってしまいました。
ことちゃんからは「無理矢理に何かされそうになったら、問答無用で股間を蹴り上げろ」と言われ、白ちゃんからは「本当に付いて行かなくて大丈夫? 一応、防犯ブザーも持って行っておきなよ」と心配されました。
……あなた達は初めておつかいに向かう子どもを見送る親ですか。
奥村君は「……色々と頑張れよ」と言われましたし、来栖さんに至っては「お土産、楽しみにしている」と言われてしまいました。旅行に行くわけではありませんよ! お土産は買ってきますけれど!
そんな同級生達の言葉を思い出しつつ、私は大上君からのメールで集合場所に指定された駅前の時計台の場所へと向かっていました。
そう言えば、ことちゃん達以外の人と出掛けるのは久しぶりですね。私自身、友達があまり多くはいなかったので、誰かと出掛けるとなるといつも、ことちゃんと白ちゃんと一緒でした。
私は自分の服装を見つめなおしてみます。
今は六月なので、初夏らしい服装にしてみました。
裾が膝下までの長さがあるベージュ色のワンピースの上に、襟元のレースが可愛らしい薄桃色の薄い生地の上着を羽織っています。
髪は肩上で切り揃えてあるので、普段は結ったりすることはないのですが、今日はハーフアップにして、藍色のリボンの髪飾りでまとめています。
……これが私の精一杯のおしゃれです。変なところはないかと鏡の前で何度も確認しました。
しかし、どんな服を着ても童顔で背が低いので中学生に見られてしまいそうですね。これ、大上君と並んで歩いたら兄妹のように見られてしまうのではないのでしょうか。
いえ、これ以上を考えるのは止めましょう。虚しくなるだけです。
駅前の時計台が建っている場所へと歩いていくと、すでに見知った人影が立っていました。
夏用の紺青色のジャケットを羽織り、ベージュ色のスラックス、そして鞄は通学用ではなく、革製のお出かけ用の鞄でした。
……遠目から見ても、大上君の立ち姿は本当に絵になりますね。ファッション雑誌のモデルみたいです。
すると、私が大上君を遠目から眺めていることに気付いたのか、彼はぱっと顔を上げて、そしてすぐに満面の笑みを浮かべました。
よく視線に気付きましたね。索敵する能力が高いのではと思ってしまいます。
「赤月さんっ!」
大上君はまるで犬の耳と尻尾が生えたような表情を浮かべて、私へと駆け寄ってきます。
笑顔が眩しいです。朝から、元気なのはいいことですが笑顔の眩しさを少しだけ抑えて欲しいですね。
「待たせてしまいましたか?」
待ち合わせの時間には余裕があると思っていたのですが、大上君を待たせてしまっていたようですね。
「ううん。待ち遠しくて、少し早めに着いただけだから、気にしないで。それよりも、赤月さんの今日の服装や髪型、いつもと雰囲気が違うんだね。普段も最高に可愛いけれど、今日の姿も輝かしいくらいに愛らしいよ! はっ! もしかして、俺のために更に可愛くしてくれたというの!? ありがとう、赤月さん! 俺、嬉しいよっ!!」
長文でしたがこの際の息継ぎは全くありませんでした。大上君はいつもブレないですね。ですが、その方が安心出来ます。
何せ、今の私は「デート」という未知なる体験を行おうとしているので緊張気味なのです。
「えっと、褒めて頂き、ありがとうございます……?」
「本当はまだ褒めたりないくらいだけれどね。ううっ、この場が二人きりだったならば、すぐにでも撮影会をしたいくらいなのにっ……」
「それは引くのでやめて下さい」
本気でやりそうなので、私は全力で首を横に振りました。
大上君は残念そうに肩を竦めていますが、単体で写真を撮られたあと、彼の家の壁に写真を張り付けられそうな予感がするので断っておきたい事案です。
諦めたのか大上君はにこりと私に笑いかけてきました。
「さて、集合時間よりもちょっと早くに集まっちゃったから、前倒しして一本早い電車に乗ろうか」
どうやら今日のデート先は電車に乗って向かう場所のようです。大上君がデートする場所は任せて欲しいと言っていたのですが、どこに行くつもりなのでしょう。
でも、どこに着くかは楽しみながら向かおうかと思います。
「大上君、今日はよろしくお願いします」
「うんっ、こちらこそ!」
最初から全力を出し切っている気がするのですが、大上君の体力は果たして最後まで持つのでしょうか。ところどころで休憩を挟んだ方がいいかもしれませんね。
にこにこと笑顔が途切れることがない大上君と一緒に、私は駅の方に向かって歩きました。