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赤月さん、大上君と恋人になる。

 

 もう一歩、前に進んでから、私は──大上君の右手に自分の右手を重ねました。息を飲み込むような音が目の前から漏れ聞こえます。


「なので、これからも大上君のことを教えてもらっても良いですか。大上君のことを更に知ったら……もっと……好きに、なるかも……しれないので……」


 最後の方は声がかすれてしまいましたが、何とか絞り出すことが出来ました。

 ぎゅっと大上君の右手を握りしめれば、びくりと彼の身体は震えます。


「……え?」


 よほど驚いているのか、顔を上げた大上君は目を丸くしたまま私を凝視してきていました。


「えっ? え?? 今、俺……告白を了承してもらえたの? 赤月さんが俺の彼女になったってことでいいの? え? 赤月さんが俺の彼女? 現実? 俺にとって都合の良い夢などではなく?」


 混乱しているのか、瞳をぱちくりと瞬かせていますが、右手はしっかりと握られたままです。


「……現実ですよ」


 私が頬を赤らめつつ、視線をふいっと逸らすとやっと現実だと理解出来たのか、大上君は一気に表情を輝かせていきました。何度見ても眩しいですね。


「っ~~~!!」


 再び、歓喜によって打ち震えているようです。よく見れば、目元に涙が浮かんでいました。泣く程、嬉しいなんて……何だか、こちらまで気恥ずかしくなってしまいます。


「本当に現実なんだよね!? 本当に、赤月さんが俺の恋人になったという認識でいいんだよね!? これは夢なんかじゃないよね!? 夢なら一生覚めないでっ!」


「ゆ、夢ではありませんよ……」


 自ら彼女です、なんて申告するのは恥ずかしくて死んでしまうので私はとりあえず大上君の主張を肯定するだけに留めました。


「ありがとう! ありがとう、赤月さん! もう、ずっと大切にするし、最高に幸せにするし、そして来世も宜しくね!」


「来世まで確約しようとしないで下さいっ」


「うち、実家は神道だけれど……。……主よ、この導きを私に与えて下さったことを感謝致します……!」


 大上君は私から手を離して、両手を重ねるように組んでから、空を見上げつつ祈りを捧げていました。何とも緩い宗教観ですね。


 すると、その場に三限目の講義の終了を告げるチャイムが鳴り響きました。おかげで大上君の歓喜による暴走は一時的に止まります。

 あと十分後には四限目が始まってしまうので、そろそろ教室に向かわなければならないでしょう。


「お、大上君……。あの、四限目の教室に行かないと……」


「うん、そうだね! ……でも、その後に時間はあるかな? 確か今日は赤月さん、図書館でのバイトは入っていない日だよね」


 アルバイトの日程さえも知り尽くしているようなので、私は素直に頷き返しました。


「それじゃあ、今日はこの講義が終わったら、一緒に帰ろうか」


「ふぇっ!?」


「赤月さんと恋人として一緒に家に帰るのが夢だったんだ……。うぅっ……。嬉し過ぎて、涙が出て来る……」


「お、大げさですよ……。ほら、あと十分もないですし、行きましょう?」


 今ならば何をしても、何を言っても大上君は嬉し泣きしそうですね。私はそんな大上君を宥めつつ、何とか教室に行こうと促します。


「どうしよう、恋人として一緒に講義を受けるのが初めてだから、緊張する……」


「……早くしないと、置いていきますよ?」


「置いていかないで赤月さん! 嫌わないでっ! 行きます! 今すぐ、行きます!」


 涙をぐいっと拭ってしまえば、そこにはいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべる大上君が居ました。切り替えが早いですね。


「……えっと、とりあえず……今日から宜しくね?」


 にこり、と満面の笑みを浮かべて来る大上君は暗に「もう逃がさないよ」と言っているように見えましたが気のせいでしょうか。


「……不束者ですが宜しくお願いします」


 大上君から逃げられないのは、何となくですが彼と最初に言葉を交わした時から分かっていました。それは今だけでなく、きっと「一生」という意味で。


「うぐっ……。まるで新婚夫婦の初夜のような……!」


「もうっ、変な解釈をしないで下さい!」


 私はぷいっと身体の向きを変えてから、大上君をその場に置いて、すたすたと先へと進みます。

 三限目の講義が終わったので、他の学生達とすれ違うようになってきたため、これ以上この場に留まっておけば不審がられてしまうでしょう。


 後ろから、「待ってよ~!」と気が抜けるような声が聞こえましたが、立ち止まるわけには行きませんでした。

 立ち止まってしまえば、顔が真っ赤になってしまっている状態を大上君に見られてしまうからです。


 本当は顔を覆ってしまいたかったのですが、そんなことをすれば気付かれてしまうので、必死に平静を装いながら歩くしかありませんでした。

 

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